3章 8話 異端審問事件4
その日の夜、とった宿の一階で俺たちは集まって食事をしていた。
今回の話の中心も当然ながら審問のことである。
「そのようなことがあったとは……。
しかし、ウィリアム司祭はよくそのようなことが
わかったものだな」
話を聞いてシェリーが驚いていた。俺はどうしても鑑定の能力のことを隠したかったので、今回のことは審問官と光の女神教の二人の話に齟齬があったのを見破ったと言うことにして、鑑定のことは隠してある。と言うか、鑑定のことは未だに誰にも言っていない。
「しかし、その話を最初に出せば良かったのではないか?
なぜそれをしなかったのだ?」
鑑定なしで考えると違和感を感じ取れたのは初日であるが、明らかにおかしいと思えたのは今日の流れがあったからだと言うことにして伝えると、確かに……とシェリーは思案顔になっていたのでうまく納得させられたと思う。
「それに、今回のことを伝えた上でも何らかの方法で
審問を勧められる可能性もあったからな。
最後の手段にしたかったんだ」
そう、本当に最後の手段の予定だった。
これがダメだったらどうしようかとさえ日々考えていたほどだ。
「あの、ウィリアム司祭。
別室で、ウィリアム司祭をお呼びの方がいるのですが、
来ては頂けませんでしょうか。
お手間は取らせないとのことですが……」
話している最中に、急にテーブルにやってきたウェイトレスにそう言われる。
ここの町にははっきり言うと知り合いがいない。なので、わざわざ俺を個別に呼び出す用事のある人なんていないはずなのだが……。
そう思うが、なんとなく行かねばならない気がしたので、席を立った。すぐにニルダが護衛のために共に席を立ってくれた。
俺を個別に呼び出しているのだから一緒に部屋に入ることはできないだろうが、部屋の前くらいまでなら共に行くことはできると思い、共に移動した。
ウェイトレスに案内されたのは、食堂の近くにある1つの部屋で確か豪華な食事をするときのみ使える部屋と言う記憶があった。
ドアを開けるとそこにいたのは、帽子をかぶった一人の男性だった。顔を伺うことはできなかったが、雰囲気でああこの人か。と察することができたので、この男性なら問題ないと思い俺はニルダに問題ないから部屋に戻るように言うが、ニルダはそれを断って、せめて部屋の前で待つ旨を告げてきたので、俺は一人中に入った。
「やあ、ウィリアム司祭」
部屋に入った俺に対し、帽子を取って挨拶してきた男性は、審問官だった。
「審問の関係者に会うことは禁じられているのだがね。
今回のことはもう決着がついているから会っても問題ないだろう。
1つ言っておきたいことがあってね」
今回の審問に決着がついた、つまり今回の告発においては俺の言が取り入れられ、告発が無事取り消されたと言うことだろう。
「今回の審問において、君は私の態度をどう受け取ればいいか
ずっと困っていたのではないかね。
私が正義を貫く立場なのか、それとも光の女神教に有利に
働くように進めようとしているのかとね」
審問の時に比べたら幾分か審問官の顔は穏やかであったと思う。
「今回のことにおいては、君は私の助けなどなくても解決
できるだろうと思ったのだよ。いや、これは確信に近い。
であったから、わざと光の女神教有利に進めるようにして、
それを君の力で解決するようにしたのだ。
こうすることで、今後似たようなことをする光の女神教の者が
減るだろう?」
ニヤと顔が笑った。審問の場であれほど冷静に努めたあの顔と同じとはとても思えないほどだった。
「審問官殿が自ら正義を問う立場として対応すれば、
今回のことはすぐに解決できたかもしれませんね。
しかし、それでは光の女神教の者が審問官を変えて
あの手この手でやってきかねない。
なので、今回の対応になったと」
俺の発言に対し、嬉しそうにそうだ。と頷いていた。
「しかし、どうしてでしょう。
あなたとは今回会うのが初めてだ。
私のことを"確信"と呼べるほど信頼しているのは」
「それについてはな、貴殿の噂を聞いたのよ。
闇の女神教に10歳にならないとてもできた司祭がいると。
その司祭は学校を作り、貧富の関係なく分け隔てなく学を教え、
そして、貧しさに喘ぐ農民のために新しい食物を与えたと。
まるで聖人のようだな?」
「そんなこともありましたね。
しかし、それだけですか?」
「ふふ、わかるか。
いや実はな。私には友人がおるのよ。
その友人がな、最近、闇の女神教の司祭と取引を始めてな。
で、あいつは本物だ。そして面白いと。
あいつがいるとこの世はもっと面白くなるぞ、とな。わしに
言うのだ。
そして、アイススクリームとやらを振舞ってくれた。
これがまた美味くてな! 一瞬で虜になってしまった。
君が居続ける限り、この世にもっと美味しいものが
溢れ続けるのだろう?
ふふ、期待しているぞ」
そう言うか早いか、帽子をかぶり直し反対側のドアから外に出ていってしまった。
どうやらここは宿の内部からも入れるが、外にも直結しているらしい。
結局、審問官は最初から最後まで俺らの味方だったのだ。そう思うと、闇の女神教内だけじゃなく外にもこのような人がいてくれたことを少しうれしく思った。




