1章 3話 幼児期1
ウィルくんは3歳になりました。
3歳と言うのは一般的に用事と呼ばれます。
俺は3歳になった。自我が芽生えた時から今まで、できることは試してきた。
そしてわかったことがある。今俺の中には特殊技能と呼べるものがある。ファンタジーならスキルと言った方がわかりやすいかもしれない。
1つ目は、鑑定。俺の鑑定は初級。自分自身を見る場合は、名前、状態、レベル、HP、MP、腕力、素早さ、体力、器用さ、賢さ、運、そして職業、スキルが見える。
他人を見る場合は、名前、状態、レベル、職業しか見えない。中級以降ならならもっと見れるのだと思う。
鑑定で自分の名前を改めて知った。ウィリアム・ブラックと言う。だからか、ウィルと言う愛称で呼ばれている。他の人を鑑定した結果、一人を抜かしてみんなセカンドネームがなかった。セカンドネームの有り無しは何で決まっているのだろうか。
またアイテムになるような物、そして植物や石などを鑑定するとそれがどのようなものなのかがわかる。植物であれば食用かどうか、食べた時の効能が書かれている。
2つ目は、闇の女神に設定されたであろう助祭の能力だ。これに関しては未だ使用できていない。
どうやって使用するのかわからない。そもそも、闇の女神を信仰していないのに使えるのかどうかもわからなかった。
職業は助祭ではなく使徒となっている。闇の女神に選ばれたからだろうと推測。
こちらの世界の言語に関しては勝手に理解しつつあると言うのが正直なところだ。子供のうちは理解が早いと言うが、黙って聞いているだけでその言葉を学習していると言うのはとても便利だ。
おかげで、シスターや子供たちが話していることを理解できた。しかし、文字は勉強する必要があるからか、やはりまだ書けないし読めない。
なので、今は教会の中でひたすら文字を勉強している。俺くらいの年齢なら外で元気よく遊ぶのが普通であろうから、他の子どもたちと遊ばない俺をシスターたちは心配している。
しかし、教会内で勉強をするほうが効率がいい。カロリーの消費をおさえられるからだ。
量も少な目、栄養も少ない、そんな食事しかとれないのに外で遊んで腹を空かせるわけにはいかないのだ。外で遊ぶことのない俺は、ただでさえ成長不足気味な教会の孤児たちと比べて更に成長が遅かった。これに関しては、なるべく食事の改善をする必要があったのだが3歳の俺にはできることなんてほとんどなかった。今はひたすら勉強して来るべき時に備えるしかないのだ。
ある日、俺は協会内に開かずの扉を見つけた。3歳の俺の力で開けられない扉だから開かずの扉なのではない。シスターや修道士長のような大人にも開けられない、本物の開かずの扉なのだ。
その扉は鍵穴など一切なく黒塗りで鉄の扉のような頑強さがあったが、決して開けられないような見た目ではなかった。しかし開かないのだ。一度村の大人の男性が開けようとしているのを見たことがあったが、複数人で押しても引いても開くことはなかった。
俺はその開かずの扉が気になって、夜皆が眠っている間にその扉に行ってみた。
夜、佇むように存在する開かずの扉は靄が掛かったように薄く光っていた。思わず手で触れてみると扉に掛かった靄は俺を包み込むように移ってきた。とても薄気味悪いはずなのに、俺には怖さや不安などは微塵も感じられなかった。自分の中にこれは当たり前のことなんだと言うような意識がなぜかあったからだ。
俺の体が靄に包まれて少し経つと「ドアが開けられる」と気づいた。頑強な扉を押してみると力を入れずともあっさりと開いてしまった。
大人やシスターが開けられないのに俺が開けられると言うのは、俺だけにしかない何かのおかげに違いない。職業使徒のおかげかそれとも助祭の能力なのか。
開いた扉から中に入ると、扉の中の部屋に明かりが灯った。同時に、俺の中から何かが失われていくような感じがした。
明かりに照らされ、部屋の中に大量の棚がありその中に本が納められているのがわかった。
ここは隠し書庫だったのだ。棚に入っている本を1冊手に取って開いてみたが、当然ながら書かれている文字は読めなかった。文字はまだ勉強中だから仕方がない。
仕方なく本を閉じて、本自体を眺める。納められていた本はこの教会にしては背表紙からページまで、全てが綺麗なままであった。本を棚に戻す。その際に棚に埃が少しもなかったのに気がついた。いや、棚だけではない。床にも埃がない。この部屋とその中にある物だけがあたかも作られた時の状態のままで保存されていた。
この部屋、実質今は俺のために存在していると思う。だから俺は決めた。文字を読めるように少しでも多く勉強して、この中にある本を出来る限り読む。そうすることが今の俺にできることだと思った。
今宵、俺にできることはこの決心以外には何もなかったので、部屋から出て扉を閉めた。
そして、俺と孤児たちの寝る大部屋へと戻った。
次の日から俺は勉強に身を入れた。
おかげで、シスターリネットから質問を受ける羽目になった。
「ねえウィル。なんで君は他の子たちと
遊ばないのかなー?
お外が嫌い?遊ぶの楽しいよ?」
シスターリネットは現在13歳で、先日見習いを卒業したばかりのシスターだ。数年前、俺の自我が芽生えた時にいた巨人はこのリネットだ。今になってみれば、巨人と思ったことがばかばかしくて仕方ない。当然リネットは普通の人間の少女だ。ストレートな赤い髪に、笑うと小さいえくぼができる。可愛い顔をしているが、この教会の貧乏さでは身だしなみを必要以上に整えることができないのが可愛そうなところだ。
そして、この教会で俺を抜かしてリネットだけがセカンドネームを持っていた。
俺はリネットをチラ見だけしてすぐ勉強を再開させた。普段から無口で通している俺だからこそ通ることだ。
俺に無視された形になったリネットは右手で赤い髪をかき上げ、眉をひそめて困った顔をした。
「無視するなんてひどいなー。
それとも、私とは口聞いてくれないのかなー?」
こちらの顔を覗き込んでくるが、俺は返答しないことにした。
俺が何も反応しないのを見るとリネットはため息をついて離れていった。
一度返事をしたことがあるのだが、リネットから質問責めにあった。
好きなことは何かとか、私のことをどう思うとか、修道士長は優しいかなど。それ以来面倒になって基本勉強に集中している時は相手にしない。
リネットが去ったことで今日の俺の勉強は捗った。後数ヵ月も頑張れば基本的な書物は読めるようになるだろう。




