2章 10話 模擬戦
翌朝、修道士長との面談を行った。
修道士長は教師としての役をこなしたことはなかったけれど、人に何かを教えた経験はあったので特に何も問題なく教師をできそうだった。
面談も無事終わり、さて解散かと思っていたところで修道士長から声を掛けられた。
「ウィリアム助祭様、おこたえ頂ける範囲で教えて頂きたいのですが、
果たして貴方は何者なのでしょうか。
その若さで大人より優れた考え方が出来、賢者のような知識を所持し、
そして神から愛され職位をも超える魔法の行使。
私が今までの人生で培ってきたもの全てが覆されています。
闇の女神様が人間の体を借りて降臨していると言われても、
信じることができる程です」
修道士長の目があまりにも真剣すぎるので流石にスルーすることはためらわれたし、答えないと部屋に帰してくれなさそうであることがわかる。
しかし真実は闇の女神以外の誰も知らないことであるし、最も信頼しているリネット,ニルダ,ノエリアの三人にもまだ話していないことなので、修道士長に率先して伝えることなどできない。
そこで嘘ではないが曖昧な表現で伝えることにした。
俺は闇の女神から直接祝福をもらっている、と言うことだ。
職業の使徒は、隠し書庫で読んだ宗教の本にも具体的には書かれてなかったし、流石に言うわけにはいかない。ヒールやクリーンの効果が強いこと(職業が使徒であること)は、祝福を受けていると置き換えることにした。
その他にもひとが持っていない鑑定もあるわけだし、間違いではない。嘘もついていない。
そして、このことはリネット達もとっくに理解しているだろうから、修道士長に伝えても問題ない。
「闇の女神の申し子……リネットが常々言っていることは、
本当だったのですね……」
「直接」と言う言葉のところで修道士長の目が最も大きく開き、驚いていた。信仰の対象である女神と直接関わることなんて、聖人か聖女くらいしかできないはずだもんな、驚くのも当然か。
それにしてもリネットのやつ、そんなこと言いまわってたのか……。
「ウィリアム助祭様はこれから闇の女神教を間違いなく立て直す方、
今後惜しみなく協力することを誓います」
修道士長の俺に対する態度が、教会の上位の役職の者を相手にする感じからから信仰の対象みたいに変わった。
あ、これやばいやつだ。と気づいた時にはもう完全に手遅れだった。
逃げるようにして修道士長を放置し部屋に向かった。これ以上関わるとどんな質問をされるかわかったもんじゃない。
修道士長に追いかけられることもなく、部屋に無事着いたが中には誰もいなかった。もしかしたらニルダがいるかもと思ったのだけど、この時間に訓練なんてしていたことはなかったはずだ。外にいるのかな?
なら、ニルダの訓練でも眺めようと思い教会の庭に向かうと冒険者らしき者数人がニルダと相対していた。
何事だと思って近寄ると、ニルダが俺に気づいた。
「ウィリアム助祭様、ちょうどいいところに。
この方々と模擬戦をする許可を頂けませんか」
模擬戦? 一体何があってどうしてそんなことに……。
背景がわからないので許可を出せずにいると、向かい合っていた冒険者らしき者の一人が俺に話しかけてきた。中年で姿勢がビシッと整った、紳士然とした人だった。
「そのお姿は、ウィリアム助祭でいらっしゃいますね?
初めてお会いします。私はこの村にある冒険者ギルド支部の
支部長です。
村の噂で、教会に武術の学校ができると聞いてやってきました。
冒険者ギルドでは新人や初心者,初級者の教育も請け負っています。
教会の武術の学校を否定する気はありませんが、教師役をする人間の
技量を確認させて頂きたく、模擬戦を申し込ませて頂いたのです」
冒険者ギルドの支部長と名乗る者は、俺のような子供にもとても丁寧な対応をしてくれた。
経験でわかる。こいつはいい奴だ。縁を結ぶ価値のある者だ。
しかし、わざとふぅんと言った調子で支部長の装備を確認する。革の鎧にロングソード1本のみだ。鑑定を使って確認すると、
支部長 状態:正常 レベル:53 職業:上級剣士
状態は正常、まあ健康そうに見えるし普通そうだよな。レベルは53、冒険者をまともに鑑定したのが初めてなのでこれが低いのか高いのかわからない。
そして職業上級剣士。剣士系の職業はニルダ以外で初めて見た。下級,中級と言うのもあるだろうから、この職業だけでも相当強いのではないかと思える。
「もしかして、私の腕について疑問をお持ちですか?
冒険者からは遠ざかって何年も経ちますが、これでも
上級冒険者として少しは名を馳せたこともあります。
腕試しには持ってこいですよ?」
支部長が俺にアピールしてくる。別に支部長とニルダが戦うことについてはどうでもいい。
ニルダはどうやら戦いたがっているけど、ギフトのことはできる限り隠したいのであんまり戦わせたくはない。
どうしたものだろうと悩んでいると、
「模擬戦、認めて頂けませんかね。
では、こうしませんか。
そちらが模擬戦で勝利されたなら、
冒険者ギルド主導で行っている訓練をそちらの学校に
一任させて頂こうかと思います。
新人,初心者であれば授業に入れてもらえれば
いいのではないかと。
初級者については、こちらから依頼と言う形で
訓練を依頼させて頂きます。
さあ、どうでしょうか」
こいつ、うちの教会が貧乏なのを知ってこんなことを言ってきやがった!
ニルダの負担が増えるが、この提案は是非受けたい……。
うーん、どうしようと腕を組んで考え始めると、俺が乗り気だとわかったのかニルダが目を輝かせてこちらを見つめてきていた。
ニルダは今まで俺の護衛を文句も言わずずっとしてきてくれた。たまには、ニルダの好きにさせてあげないといけないか、と承諾することにした。
ただし、ギフトは使うなよ? と目線で念を押すと理解してくれたようで満足そうに頷いていた。
「お受けいただき、ありがとうございます。
時間はあまり取らせません。
ここで模擬戦をさせていただきますが、よろしいですか?」
庭で模擬戦をすることになったので、教会にいるシスター,孤児が全員集まってちょっとした騒ぎになった。この世界、娯楽が少ないのでこのようなことがあるとみんな集まるのだ。
審判役は支部長と一緒に来た女性冒険者がやってくれるらしい。
支部長とニルダ、二人ともうちで作った木剣を手に取って向かい合った。
「それでは、開始の合図で始めてください。
二人とも準備はよろしいか?
それでは……開始!」
審判役が真上に掲げた手を振り下ろし、模擬戦が開始された。
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