2章 9話 新しい教師
リネットの母親と交代でシールズ家に向かうシスター二人が無事決定し、翌日ノエリアと共にシールズ家に旅立って行った。くじで当たったシスター二人は大喜びで教会を発って行ったが、残されたシスターは悔しい顔をして見送っていた。そんなにか……。
今後は一ヶ月経つとノエリアが交代要員のシスター二人と共にまたシールズ家に向かい、先に行った二人と一緒に帰って来る形の交代になる。
その日ノエリアとシスター二人の計三人を送り出した俺は、リネットと面談を行うことにした。
なお前回のことを反省し、面談が丸一日かかってしまうと申し訳ないので修道士長の面談は明日を予定している。
「ウィリアム助祭様、確かに私は計算と文字の読み書きは
できますけど、こんな私にそれを教えることなんて
出来るのでしょうか」
先に面談した二人がひどかったのもあり、リネットとのごく普通な面談に感動してしまいそうになる。
熱くなった目頭を押さえつつ、今まで教えた経験がないのでそう思うかもしれないけど、一度教えれば緊張も解けるしそんなに大したことではないと伝える。
つまり、諦めて緊張しながら1回目を迎えろと。
「え、それひどくないですか……。
もっと良いアドバイスとかはないんですか?」
なら教会の孤児で年齢が高めの子を数人集め、授業の練習をしてみることを勧めるとそれ早速やってみます。とリネットは笑顔で返してきた。
さて、次に授業の流れだ。
文字の読み書きについては、リネットが子供の頃に教わった方法をそのまま踏襲するのが良いと思ったので、それを思い出しながらやってみることを勧めた。
計算についてだが、リネットが教わったのは子供の頃であるものの、実際にそれを役立て始めたのは教会にきてからのことなので、子供の頃に教わったままではよくなかった。
足し算引き算を教える時は物を準備して教えることを勧めた。頭の中で思い描くより、実際に計算に足るものが目の前にあると理解が早いのだ。
試しにこのために持ってきた混沌の実を数個用いて足し算引き算の話をすると、とても分かり易いことを理解してくれた。
他にも不安に思うことや授業の進め方を話し、無事に終えた。
あまりに順調に進み、2時間ほどしかかからなかったのでこの後の予定が丸々空いてしまう。
部屋にでも戻ろうと思い、教会の中を歩いているとシスターの一人から声をかけられた。
「ウィリアム助祭様、行商人の方が訪ねておいでです。
言えばわかると言われたのですが、お会いになりますか」
行商人と言えば、この村で相場や商品を教えてくれた行商人しか知らない。わざわざ名指しで訪ねてきたのだから間違いないと思う。
会うと伝え、応接室に案内してもらった。
「ウィリアム助祭様、お久しぶりです。
先ほどこの村に着いたばかりなんですわ。
どうやらお変わりないようで何よりです」
いえいえそちらこそ、とまずはお互いに挨拶を済ます。
「で、実はこの村にきてすぐ面白い噂を聞きましてね。
教会の空いてる部屋を使って学校を開くんですって?」
どうやら学校の噂を聞いて訪ねてくれたらしい。
文字の読み書き,計算,礼節,マナー,武術の授業をすることを伝えると、
「すごいじゃないですか。歴史や政治の内容はないですけど、
王都の貴族学校に匹敵するような内容ですよね?」
どうやら王都の学校のことをよく知っているらしい。
王都の学校は貴族向けのため、学校を卒業した後に領地に戻って親から領地を引き継ぐ者もいるのだ。村で教えるだけなら、そこまでのことは教える必要はない。
「ところでですね。ちょっとお願いがあるんですよ。
実は、うちの親父が商人を卒業してからも商売に
口を出してきて五月蠅いんですよね……。
元気が有り余ってるみたいなんで、発散させる場が
あれば良いんですが」
「つまり?」
「学校の授業に取引の科目を追加する気、
ありませんか?」
行商人はニヤリと笑う。これは、素晴らしい提案だ。何しろ、本来であれば経験でしか積むことができない商売の経験を授業で教えてくれると言うのだ。秘匿すべきところを教えてくれると言う。
これは、もしかすると俺のところに良い情報があればいち早く手に入れる方法としているのかもしれない。
しかし、そんなベテランの商人を雇う金もない。そのことを告げると、何度も何度も本当に本当に気持ちだけで結構です。親父の発散をする場を用意してもらえれば! と言ってきた。
一体どんな親父なんだろう。
教会が経営する学校としては良いことでしかないので、了承すると1週間後に連れて来ると、急いで出て行った。




