2章 8話 交代の権利
困った……本当に困った……シールズ家に送るシスターがいない!
思いつくことをひたすら挙げてみるが、うまくいくイメージが湧かない。
仮に一ヵ月交代として、一度シールズ家に行くたびに銀貨1枚を渡す……そのお金はどうやって稼ぐんだ? ノエリアやニルダに冒険者ギルドの依頼をこなしてもらうか? それだと、あの二人だけ負担が重くなる……。
確か食事の質が悪くなることを気にしてたよな、それならシールズ家での食事の質を上げるために野菜を持たせるか。でも、それならシールズ家に行かずに教会に残ればいいだけだもんな。
向こうで出会いを探してやるか……優良物件がいないや。
もしかして隠し書庫に行ったら、アイデア集みたいな本ないかなあ……あるわけないよな……。
ん? 本? そうだ、本だ!
偶然閃いた。
シールズ家なら間違いなく本がある。シールズ家に置いてある本はいくら読んでも良いことにしてもらえないだろうか。
早速確認するために、まずはリネットを訪ねた。
「本ですか?
うちの実家になら本はたくさんありますよ。
お母様が本好きでたくさん購入してました。
恋愛や冒険譚がたくさんありましたね」
表情には出さずに心の中でガッツポーズした。まさか、偶然思いついた案がこれほどまでにうまく進みそうだとは。
次いで、リネットの母親と交代でシールズ家で家事を行うシスターは、本を好きなだけ読んでも良い権利を与えることができるかを尋ねる。
「お父様は本を読みませんから、お母様さえ
了承するなら問題ないと思います。
お母様も、家にある本は全部読み込んだと
思いますし、誰かが読んでくれるなら喜ぶ
のではないかと思います」
このアイデア、リネットのお墨付きである。
後は定期報告の場で皆に確認を取るだけだ。
早速その日の夕食後に定期報告会を開くことにした。
今回、シールズ家のことをもっともよく知るリネットが提案者を買ってくれた。
「以前ウィリアム助祭から提案のあった、
私の母と交代でシールズ家にシスターに何人か
向かってもらう話ですが。
シールズ家に向かったシスターは、シールズ家に
ある本が全て読み放題になります」
テーブルを囲んでいるシスター達はリネットの話を聞いてそわそわし始めた。
修道士長以外はみんな年頃の娘たちである。本、特に恋愛話については興味があるに違いなかった。
しかし、シスター達の中でも若干不安そうな顔をしている者もいた。その者たちの中の一人が、おそるおそる手をあげる。
「あのぉ……私、恋愛に関する本は読んでみたいんですが、
まだ文字を全部読めなくて……。
リネットさんのご実家で、文字の勉強することは
可能なんでしょうか……」
確かに、文字の読み書きを確実に教えられるの現時点で修道士長とリネットの二人しかいなかった。ほとんどのシスターは、読めないこともないが完璧ではないのだ。よって、本を読んでもいいと言われても当然不安になる。
しかし、そんな話を聞いてもリネットはケロっとした顔で、
「問題ありませんよ。
私が子供の頃に文字の読み書きを勉強した本が
ありますから。
皆さん、すでにある程度は習熟していますから、
本を読むくらいの知識ならすぐに身に付くと」
リネットが言い終わるが早いかシスター達はほぼ全員が立ち上がり、私が! 私が!と手を挙げてアピールを始めた。よく見ると、修道士長も恥ずかしそうにして小さく手を挙げている。ダメです、あなたは行けません。
ほぼ全員が立候補してしまったのであみだくじを使用して決めることにした。
あみだくじはこの世界にはなかったようで、それ何? と聞いてくるものもいたのだが、子供の頃を思い出しながら小声で歌いつつ地面にあみだくじを書いてみんなに説明すると、簡単であったことと線を追加することで誰がどれに当たるのかわからないと言った面白さにとても盛り上がった。
なお、これを機にあみだくじは教会内を経由して村中に広まり、歌と共にみんなが頻繁に使うようになってしまった。
しかしこれ、最初にリネットに相談していればもっと早くに解決したんじゃなかろうか。
そう思うと、長く悩んでいたのが馬鹿らしくなるのだった。
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