1章 22話 幼児期18
男爵領での慰問人数だが、昼前に10人、昼過ぎに15人と言う割合で行うことにした。
部屋の外には後継ぎである長男もいてくれたので、村の慰問の時のように変な輩の参入もなく昼前の慰問を無事終えることができた。
昼の食事は男爵家で準備してくれるとのことでとても楽しみにしていたのだが、かぼちゃのような野菜を煮た物と、野菜のスープ、パンが少しと言った感じで貴族であってもかなり貧しい暮らしをしているのが食生活からわかった。
男爵からも、貧相な食事で申し訳ありませんがと言われたが、それが謙遜ではなく本音で言っているのがわかった。
豪華な食事を期待していたものの、教会で食べる食事よりは随分いいものであったのでありがたく全て平らげさせてもらった。
昼過ぎの部になり診療部屋に戻る。
ここでは村人が素直にこちらの言うことに従ってくれるため、15人と言う前回より多い人数だが疲れることなく終えた。
部屋の外ではリネットに長男である兄が今回の慰問の礼金を渡していた。
その金額は銀貨2枚。貴族からの礼金にしては非常に少ない額である。
「リネット、本当にすまない。
未だ我が領は厳しいのだ。
これだけしか払うことができない俺を許してくれ……。
助祭様には今後も慰問を続けてもらえる様、
お前からも頼んでくれないか……」
「兄さん、大丈夫。
助祭様は感謝の気持ちを銀貨の数で判断したりしない。
本当の感謝の気持ちを理解してくれているし、
兄さん達の都合も理解してくれているわ」
「そうか、5歳なのに本当に凄いのだな」
すまなそうな顔をした兄にリネットが告げると、少しは気分がよくなったのか下がり眉のままだがありがとうと言ってくれていた。
その後に男爵も来て改めて話をし、この日は男爵家に泊めてもらうことになった。
部屋の割り当てはいつもと同じで俺はニルダと同室、ノエリアが隣の部屋。リネットはまだ残っていた自室に泊まることになった。
昼と同じようなメニューの夕食を食べ、男爵と少しの話をした後に部屋に戻る。あまり疲れていないはずだったのだが、早く寝るのが習慣になってしまったので、俺は夜も早いうちに眠りについてしまった。
まだ空が暗んでおり、明るくなってくる前に俺は目が覚めた。
別に意図的にそんな生活をしているわけではないのだが、とりあえず早寝早起きで健康であることだけは良いことだと言える。
起きてベッドの上で体を軽く動かしているとニルダも目が覚めたようだった。
「おはようございますぅ……助祭様ぁ」
目が覚めたてのニルダはまだ頭が回りきっていないので、いつもこんな感じで声が伸びている。
日課の訓練のために鞘に収めた剣をとって部屋から出て行こうとするので、俺も訓練を眺めに一緒に外に出ることにした。
「ニルダ、ギフトは使うな」
訓練を始める前ニルダに伝えると、はぁ……?とよくわかってなさそうだったが、了解はしたようでギフトを使わずに素振りを始めた。
いくら男爵領と言っても誰が見ているかわからない。珍しいダークエルフである上にギフト持ちであることは出来るだけ隠したかったのだ。
ニルダが素振りしていると、ノエリアも起きだしてきた。俺に挨拶をするといつも通り矢の作成を始め出す。
ここまでは村でも行われていたことと同じだったのだが、今日は違うことがあった。
なんと、男爵が朝の訓練にやってきたのだ。
「助祭様、おはようございます。
こちらのダークエルフの方はどうやら剣技が
達者であるようですな。
どうでしょう、私と少し剣を合わせてみませんか」
ニルダに直接言わず、俺に言ってくる辺り俺の意見が大きいことを見抜いているのかもしれない。実際、ニルダに言っても俺が言うことなら、と言うので間違いない。
了承すると、男爵は用意周到に剣を持ってきていたのですぐ様試合形式の練習をすることになった。
始まる前に俺がニルダをじっと見ていると、「ギフトは使うな」はまだ有効であることを理解してくれたのか、頷いていた。
勝負のルールは、攻撃は剣のみ。なので、キックやパンチは禁止。寸止め必須で、ジャッジはノエリアがすることになった。
「では……始め!」
気合の入ったノエリアの声で打ち合いから始まった。ニルダは「斬る」の振り方だけを練習しているため、「斬る」振り方で打ち合い始めてしまっていた。
打ち合いになった場合「叩き切る」振り方のほうが威力も強いため、ニルダは剣戟で負けてどんどん押されていった。
押されていってる内に、打ちあうのはダメだと気づいたのか徐々に相手の剣を避けるスタイルに変更していく。
そして最終的には相手の剣を避けつつ相手の隙を狙って斬り込むようになっていった。
ニルダは決して力は強くない。しかし、ダークエルフの反応の良さ、瞬発力と柔軟性がある。それを用いての戦い方に自ら目覚めた。
男爵の顔色は時間がたつにつれてどんどん悪くなっていく。最初優勢だったものの劣勢に追い込まれていき、終いには……。
そして、結末がつく前に試合は終わりとなった。
「待った!わしの負けだ!」
寸止めを受ける前に男爵が負けを宣言した。




