1章 21話 幼児期17
先週の慰問の日から一週間になろうとしていた。つまり、シールズ男爵の領地を慰問をする日が訪れる。
男爵家までは約1日かかるから、前日にダークエルフの双子とリネットの4人で教会を出発した。
で、俺は例によってニルダに背負われていると言うわけだ。
息切れはしていなかったが、疲れてへとへとのため一言も喋りたくない。
「ウィリアム助祭は本当に体が弱いな。
私が鍛えてやろうか」
ノエリアは弓,短剣,俺を背負っているニルダの分の荷物と、本日の野営を行うための荷物を全て持っている。
こんな化け物みたいな人間に鍛えられるとか何をされるかわかったもんじゃない。俺は疲れて呆然としている振りをしていた。
ニルダ,ノエリア,リネットの三人は、最初に会って以来ずっと仲が良い。ニルダとリネットは性格的にも似たような感じがするのでわかるのだが、ノエリアも仲が良いと言うのはとても不思議だった。道中三人はずっと会話をしていて、よく話題が尽きないなと思ったものだ。
男爵領への旅はダークエルフの里への旅と比べて多少の危険はあったが、双子のおかげで比較的安全に過ごせていた。
途中野生の狼が襲ってくることもあったが、こちらに近づく前に全てノエリアによって倒される。ノエリアの矢は全て狼の眉間を貫き、一撃で倒していた。とても素晴らしい護衛が出来て嬉しいものだ。しかも、美人だし。
リネットや俺がノエリアばかり褒めるので、たまにニルダが嫉妬したようにむくれている時がある。ニルダの武器は剣なので、近づかないと攻撃できないのだから仕方ない。ノエリアに1匹だけ逃して私に任せてなんて言ってるのは、当然背中に背負わている俺に聞こえているからな。
辺りが暗くなって野営の準備を双子がしてくれる。寝ずの番は交互にしてくれることになったので、俺とリネットはぐっすり眠らせてもらった。
ニルダに背負われていた時にガチ寝してた時間もあったので、いつも通り俺は朝早くに起きてしまった。
起きた時に番をしていたのはニルダだった。しかし……訓練は番とは言わないと思うんだ、俺は。
辺りはまだ夜が明けておらず、その状態でニルダはみんなから少し離れて素振りをしていた。
寝ている体勢のまま目を薄く開けて、ニルダの素振りを見る。前に「斬る」についての話をしてから素振りの仕方を変えているようだがまだ慣れてないらしく上手く振れていない。だが、この調子で毎日振っていればいつかはきっと思った通りの振り方ができるに違いない。
そのうちノエリアがもぞもぞとし出した。どうやら起きたようだった。大きく伸びをしてから立ち上がってニルダの方に向かう。交代の時間らしい。
ノエリアと交代したニルダは、なぜか自身の寝床に向かわずに俺に向かってきた。やばい……ずっと見ているのがバレたかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
目を瞑って寝た振りをしていると、ニルダの顔が異様に近くにあるのがわかる。
そして頬をつつかれた。何度もつついてくるので思わず顔をひそませると、アハっと笑い声が聞こえた。そして、顔が遠ざかるような雰囲気を感じて薄目をあけると、ニルダは自身の寝床に戻って行った。何をしたかったのだろうか。
ニルダから番を代わったノエリアも、弓の訓練と矢作りをしていた。
羽と回転の話をして以来、ノエリアは鳥を狩るごとにむしった羽根を自身の物としていて、ナイフで削っては矢の羽根によさそうな形に加工をしていく。そして矢に切れ込みを入れて羽根を糸で巻いて固定していく。
これで1つ完成だ。出来た矢に歪みがないかとじっくり調べて、矢筒にしまっていく。
続けて5本作り終わると今度は的を置いて矢を射始める。
1本ずつ慎重に射るが、思った通りの回転が加わらずまた以前とは矢の軌道も変わったことでうまく的に当てられないでいた。
5本の内の1本は、わずかながら回転がかかって軌道自体は安定していた。
その1本だけ矢筒に残し、残りをバラシながら何が悪かったのかを確認している。
二人とも、寝ずの番に訓練するのはちょっと……とは思うが、アドバイスしたことが身になっていくようでとても嬉しかった。
そして、ノエリアの訓練を見ているうちに夜が明けた。
昨日1日歩いたので男爵家まで2時間程で着いた。
この男爵家はリネットの実家である。リネットの名前は、リネット・シールズ。シールズ男爵家の
三女である。闇の女神教の教会へは、行儀見習いとして来ていた。
貴族が子供……特に娘を行儀見習いへ出すのはよくあることで、伯爵,侯爵,公爵が寄り親の場合は、そこへ行儀見習いに出す貴族も多い。これにはいろんな意味があり、寄親の子供に見初めてもらい将来に娶ってもらうことも考えられている。よって、長女はよくこの形で行儀見習いに出されていた。
また、三女,四女になってくると本当の行儀見習いとしてシスターとして信仰する宗教の教会へ出されることも多かった。
今回はそんなリネットの帰省も兼ねていて、まずはリネットの案内で男爵家に向かった。
リネットについて歩いていくと、屋敷と呼んで差し支えない規模の家にたどり着いた。庭の使用人にリネットが声をかけると、今回のことは事前に知らせていたのですぐに男爵を呼びに行ってくれた。
屋敷の一階で待つように促され、使用人ではなくリネットの案内で屋敷に入る。
一階に応接室のような場所がありそこで待たされた。
暫くして、男性二人、女性二人が入ってきた。
「パパ!」
リネットが誰より早く立ち上がり男爵らしい男性の元に駆け寄ると、抱きあっていた。そして三人がリネットの元に寄って、久しぶりだな、元気してたか、大人になったわね。と数年来に会った懐かしさを言葉にしていた。
リネットは懐かしさのあまり目に涙を溜めていて、それが流れるのに大した時間は必要ではなかった。
俺はその様子をただ見ていただけだったのだが、ニルダとノエリアがこちらをチラチラと見て来る。何か言いたいことでもあるのか?
無事話も終わったようで、リネットが俺の隣の椅子に座り男爵たちは向かい側に全員が座った。
男爵がまず挨拶をしてくれる。
「よくぞいらっしゃいました、ウィリアム助祭。
この度は慰問を受けて頂きありがとうございます」
俺のような子供の助祭にさえ、大人への態度を取ってくれる男爵は本当に人ができていると思った。リネットからしても、さぞ素晴らしい父親であることだろう。
「本来であれば、この地に助祭か司祭を配置しなければ
ならないところ、それが全くできておりません。
これは闇の女神教の不徳の致すところ。
ですのに、今もなお深い信仰を捧げて頂いていることに
女神に代わり感謝を致します」
5歳の俺からこのような言葉が出てきたことに、男爵以外の三人は驚いているようだった。男爵は不思議と驚いてさえいない。
「流石、弱冠5歳で助祭を任せられるだけありますな。
慰問の時間も惜しいところでありますから、手早く
家族の紹介をさせて頂き、慰問をお願いさせて
頂けますか」
男爵の提案に俺が頷くと、男爵自ら家族の紹介をしてくれた。
4人は、男爵、長男、妻、次女と言う組み合わせだった。
まず男爵。現在45歳のリネットの父親だ。子供は5人で、男2人の女3人。
ここにはいない次男と長女だが、次男は国家の騎士になるため修業中で、長女はすでに結婚して他家に嫁いでいるのでここにはいないとのこと。
次に長男だが、現在25歳で目下男爵家を継ぐための勉強中らしい。妻はいるがまだ子供には恵まれていないとのこと。体を動かすことより勉強の方が得意のようで、商品の取引を現在はメインに行っていると言うことだった。
奥さんは43歳でリネットと似た顔立ちをしていた。線の細いと言うよりは丈夫で健康的な感じだ。笑顔がとても素敵な人だった。
次女は現在20歳。リネットや母親とは似ておらず、父親に似ている感じがする。こちらは線が細く、力仕事なんて出来なさそうな感じであるが、家事などを多少手伝ったりもしているらしく、見た目にそぐわないようだった。
男爵の家族の自己紹介も終わったので今度はこちらも自己紹介を行った。
リネットのことは知っているから、俺とニルダ、ノエリアの三人だ。
俺の自己紹介が終わった後、ニルダとノエリアにローブのフードを脱ぐように言うと、フードから露わになったダークエルフの顔に男爵とその家族は驚いていた。
毎回、みんながダークエルフの顔を見る度に驚いてくれるのだが、その理由も全員同じである。
ダークエルフの里の説明は簡易的に済ませ、自己紹介は無事全て終了した。
その後、俺,ニルダ,ノエリアの三人は医療場所として使われる別の部屋に案内され、そこで医療の準備をする。
リネットは今回は外に出て、診療を行う村人の選別を行ってくれていた。
毎度書かせて頂きますが、私の書く別の小説「1から始めるダンジョンマスター」もよろしくお願いいたします。
闇の女神教の立て直しとはまた違ったストーリーで描いています。




