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1章 20話 幼児期16


双子と共に闇の教会へ無事戻るとシスター達は驚いて腰を抜かしていた。

10年以上音信不通だったダークエルフがいきなり現れたのだから仕方ないのかもしれない。


シスター達を集め、ダークエルフの里の出来事と双子の紹介をする。

ダークエルフ達が連れ去られてしまったことについては、修道士長もやはり全く知らなかったらしく、テーブルの上で闇の女神にいきなり祈りを捧げるほどだった。

双子だけでも無事生き残ってくれたことについても闇の女神に感謝していたが、あの女神は自身への信仰が廃れるまでまともに何かしてこなかったのだから、正直その感謝は全て俺に向けて欲しい。

双子の役割については、事前に決めていた通り俺と教会の護衛になった。ただ、二人で教会全てをカバーすることはできないため、基本は俺の護衛のみとし教会の護衛は何かあった時に対応すると言う形になった。


途中ダークエルフ達に対し、修道士長から提案があった。

修道士長は毎回有意義な提案をしてくれるので、今回の提案も俺が思いつかないことを言ってくれると思えた。修道士長の話はこうだった。ダークエルフの里が壊滅状態であることも含め、ダークエルフの二人が姿を晒した生活することに危険が伴うのではないかと言うことだ。

具体的には、双子は外にいる際はロングローブを着て、教会内にいるときは修道服を着ると言う提案だった。

外にいるときにローブを着たほうがいいのはすぐに了承したが、教会内にいるときに修道服を着るのは流石にちょっと……。

よって、二人に任せようと思ったんだけど、


「ウィリアム助祭がそうしろと仰るのであれば、

 修道服に身を包みましょう」


「ちょっ……ちょっと姉さん……」


ニルダがノエリアの考えを無視して、独断で俺に一任すると申し出たのだ。

これにはノエリアも驚いていたが、渋々姉に意見を譲ることにしたようだった。

正直俺はどちらでも良かったが、万が一何かあったときのことも考え「武術に少し心得があるシスターが護衛の役も兼任している」と言う多少の情報操作のために修道服を着てもらうことにした。

まあこんな情報操作に引っかかるやつなんていないだろうけど、こちらがこれで押し通せば何かと反論しにくい相手もいるだろうと思うことにした。


早速二人に合うサイズの黒いローブと修道服が支給された。

偶然合うサイズの物があったので、俺の時のように仕立て直しをせずに渡される。

ニルダは何気に喜んで受け取っていたが、ノエリアの方はすごいイヤそうな顔をしていた。まあ、二人の性格をみてもそんな感じはする。

かくして、教会内に剣と弓を持ったシスターが歩き回ると言う、かなり変わった風景を見ることになった。

なおダークエルフの二人が泊る場所だが、交互に俺の部屋に一人、隣の部屋に一人と言った感じになった。リネットの顔がすごいふくれっ面してた。


ダークエルフの双子の朝は早い。

もっとも早起きの修道士長より1時間は先に起きて、外で剣と弓の練習をしているのだ。

俺は子供の体さながらの昼寝をよくしていたから、双子に負けず早起きだったのでそれを見ることができた。

初日は窓から見ているだけだったが、2日目はどうせなので近くで見せてもらおうと外に出た。


「ウィリアム助祭様!

 こんな時間に外に出るなんて危険です。

 さ、私が連れ添いますからベッドに戻りましょう」


「そうだぞ。子供はまだ寝ている時間だ。

 戻ってもう一回寝直せ」


言い方は違っても二人とも同じことを言っているのは間違いない……と思う。


「そのための護衛」


俺はそれだけ言い、二人の訓練を眺めるべく近くに腰を下ろした。

二人は仕方ないなあと言った感じで、俺を無視してそのまま訓練を続ける。


ニルダの訓練は素振りだ。同じ振り方をずっとしているわけではなく、斜めに振るったり横に振るったりと色々だ。剣閃と言うギフトを用いて恐ろしい速さで剣を振っていた。事前にどこを斬るのか予測できないと、この剣は受けられないだろうと思う。

振ってる最中を見ることはできないのだが、このギフトの効果でもあるのか振った軌跡が筋のように銀色に現れるので、それでどういう風に剣を振っているのかがわかった。


何か考えてこの素振りをしているのかと聞くと、流れる汗をぬぐいながら「鎧の隙間を斬る訓練」だと教えてくれた。

俺だけでなくノエリアもそれを初めて聞いたようで、里を襲撃してきた鎧騎士に対してどれだけの思いを持っているかが窺えた。

しばらくニルダの素振りを眺めていてわかったことがあった。

まず、ニルダの素振りはものすごい精確だった。10パターンくらいの振り方をしているのだが、同じパターンの時の剣の軌跡は完全に同じ道を辿っている。

10年近くニルダはこの素振りを続けているらしいから、努力によってこの精確さを手に入れたのだと思う。

そしてもう1つ気づけたことは、ニルダは剣の振り方をしていることだった。

ニルダの持っている剣は両刃の剣で重量もそこそこありそうだ。その剣で叩き切る振り方をしているのだ。

ダークエルフが人族より基本的に強いとは言え、ニルダはやはり女性。本人も悔しい思いをしているだろうが、力については男に敵わないことも多いはず。

であれば「叩き切る」ではなく「斬る」と言う振り方をしてもいいのではないかと思った。


素振り中のニルダを呼び止めて「斬る」についての説明をしたが、どうやらわからなかったようでポカンとしていた。

仕方がないので、わかりやすい例として料理の包丁を持ちだす。

包丁は刃がしっかり研いであれば、上から下に体重を乗せて切るより引いたり突くようにしたほうが使い易いことを伝えると、これは理解してもらえた。

であれば同じことが剣についても言えるのではないかと伝えると、何か不思議な物を見るような目で俺をじっと見ていた。


二人で相談しながらニルダの振り方を試していると、先ほどまで訓練に集中していたノエリアがこちらをチラチラと見るようになってきた。

ニルダに伝えることがなくなり一人で模索しながら素振りをしだすと、ノエリアがこちらに向かってきた。


「姉さんが今までとは変わった振り方をするように

 なってるけど、あれは何だ」


俺は答えるのが面倒になって、ノエリアを無視してニルダの素振りの方を眺めようとすると、ノエリアは俺の頭を両手で掴んで強引に自身の方に向けさせてきた。


「お し え て」


この状態から逃れる方法はなさそうだったので、仕方なく教える。

ノエリアもやはり斬ることについては理解が乏しかったので、ニルダ同様包丁の例を持ち出して教えてやった。

双子が全く同じ挙動をするととても面白い。ノエリアはニルダと全く同じ顔で俺のことを不思議な物を見るような目で見ていた。


「な……なぁ……

 私にもさ、何かないか?」


若干興奮した様子で俺に尋ねてくるので、まずは一矢撃ってもらうことにした。

ノエリアが使っている弓は、ショートボウほど小さくはないがロングボウほど大きくもなく、携帯性を重視したっぽいものだった。持っている矢には鏃がついていたが、羽根はなかった。

30mほど離れたところにある板の的に向けて矢が射られると、的のど真ん中に立った。

羽根もない矢でよく当てられるなと思う。

どうだと言わんばかりに胸を張ってこちらを見ていたが、無視してノエリアが使っている矢を見せてもらった。

鏃は刺さりやすい形状をしているだけではなくやはり重りの意味も成していた。

そしてこの矢には羽根がないので、ただ真っすぐ飛ぶだけで威力も精度も出にくい。

まず矢が回転して飛ぶことの有利さをどのように説明するか悩んで、真っ先に思いついたのが焼き鳥の串通しだ。他にも砂地に枝を刺す方法も思いつくが、俺が焼き鳥のほうが説明しやすかったので、ダメ元でそちらで説明をしてみると難なく理解してくれた。

狩った鳥を食べる時に串に刺して焼くこともあるらしいので、それで理解したらしい。


次に回転させる方法について話し合った。俺が知っているのは、鳥の羽を等間隔で3本矢に刺し、その羽で回転する方法だ。

空力的な内容を伝えるのには苦労したが、この方法で矢を回転させることができることはかろうじて理解してくれたようだった。


この日を境に、二人の訓練は変わった。

ニルダは今ある剣で今までと違う振り方を何度も練習していた。まだ上手くできないようで、同じ振り方をしてみても銀の筋はズレていた。

教会の隠し部屋の本で、片刃の曲刀がこの世に存在することも確認しているから、いつかその話も教えてあげようと思う。

ノエリアについては、短剣で何度も矢を削ったりして最適な矢を作ることに集中していた。

矢を作っては射ち、作っては射ちをひたすら繰り返していた。


全く関係ないが、ノエリアが参加したことで鳥肉がたまに食べられるようになったことを俺は大いに喜んだ。


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