1章 13話 幼児期10
「ダークエルフの里を訪問する」
ダークエルフは闇の女神教を信仰する亜人族のことである。光の女神教を信仰するエルフとは相反していて、仲が悪いことで有名。俺は人族より戦闘に優れる彼らを護衛として招けないかと考えた。
「しかし、ダークエルフ達は……」
修道士長が意味ありげなことを呟いて、口ごもる。
実は修道士長が口ごもる事情を俺は知っていた。ダークエルフ達は数年前から闇の女神教と関わり合いを持たなくなっていたのだ。
闇の女神教が衰退を辿っていた時、突然ダークエルフ達との交流がなくなったのだ。
それ日以来教会にダークエルフが訪れることがなくなっているので理由も不明。
今となっては、ダークエルフ達が闇の女神への信仰を持っているかさえ不明だった。
俺はダークエルフが闇の女神教を離れるきっかけとなったことに光の女神教、特にエルフが関与していると踏んでいた。
「元あったダークエルフの里からも、
ダークエルフの存在は消えてしまっていました。
里のあった場所は廃墟に……」
「しかし、死体はなかった」
食い気味に発現した俺を修道士長が見る。そして、
「はい。そう聞いています」
修道士長は俯く。
俺は司祭の部屋に置いてあった報告書の冊子で知っていた。報告書の内容と修道士長の記憶が合致すると言うことは間違いないのだろう。
俺はダークエルフについて3つの疑問を持っていた。
1つは、「なぜ里を出て行ったのか」。闇の女神教への信仰なくしただけであれば、別に里を離れる必要はない。闇の女神教と言う名のこの村でさえ、他の信徒は多数存在する。ダークエルフの里には何百人と住んでいたと聞いているから、その人数が一気にいなくなることはおかしい。
「ダークエルフに対し、闇の女神教が弾圧したりしたと言うことは?」
当時のことについて冊子の報告書と内容があっているかを再度修道士長に確認する。
「そのようなことはなかったと記憶しています。
気づいたら里にいなくなっていたと」
やはり間違いないらしい。
何らかの事態があったに違いない。
2つ目に、「なぜダークエルフの里が廃墟になっているか」だ。
ダークエルフの住居はモンゴルのゲルのような形だ。持ち運びが自由で建てるのも容易。
仮にダークエルフ達が里を離れるとして、住居を放っておく必要がない。持っていけるはずなのに廃墟となっている。これはおかしい。
3つ目は、「廃墟に死体がなかったこと」だ。
「当時ダークエルフが里からいなくなったと言う噂が
あった後で、教会が冒険者を雇い里を調査しました。
争ったような跡はあれども、死体どころか
血の跡さえなかったとのことです」
修道士長が当時のことを思い出して喋る。これも報告書と合致する。
1と2から考えて、ダークエルフ達は自らの意図で里を離れたとは考えにくい。であれば、襲撃され急ぎ里を離れる必要があったと言うことだ。襲撃されたにしても死体がない。つまり、相手はダークエルフを最初から捕らえるつもりできたと言うことなのだ。