1章 12話 幼児期9
「ってことがあったんですよ」
夕食後にシスター全員を集めて今日の反省会をしようとしたところ、リネットが挙手をして昼過ぎの部での問題を報告した。
当然ながらどうしてそのような状況になったのかわからないシスターたちは全員俺を見る。
説明のため、俺は腰に差している棒をテーブルの上に置く。
「間違った信仰を正す棒」
みんなが俺が置いた改心棒を見つめる。どんだけ見てもただのすりこぎ棒にしか見えないはずだ。
「修道士長、こんな物あるの知ってました?」
修道士長は首を振る。長く教会にいる修道士長でさえ知らないと言うことは、この棒のことは前司祭しか知らなかったと言うことだ。
一体どうしてこのような物を司祭は隠していたのか……という話になるが、今となっては当の本人しかわからないことなので、次第に発散していって別の話題になった。
(相手を直接叩かなきゃ効果を発揮しない物なんて、武術の心得でもない限り使えないしな。そりゃ使わないで終わるよな)
俺は自己完結しておいた。
今回訪れたならず者のように、未だに闇の女神教の教義を間違って解釈している者が多いと感じていた俺は、シスター達に闇の女神教の教義についての議題を提案。
大事なのはシスター達の知識として教義の内容を統一すること。そして、混沌と言う言葉を使わず自由と言う言葉を前に出していくことだ。
また、自由と言う意味についても「何もかも思うがままにふるうこと」と言う解釈ではなく、「決められたルール(国家からの法令,常識)の範囲内で、他者を束縛,支配,侵害することなく過ごす」と言う意味で解釈するように伝えた。
これに関しては、このようなことを言われたのは初めてだったらしく、シスター達は困惑していた。主に、5歳の子供に言われたことに驚いていたような気もする。
なので「司祭の部屋にあった本の受け売り」とすることでシスター達の納得を引き出した。
これを広めていくことで今後間違った解釈をする人は減っていき、今もなお間違った解釈をし続ける人は闇の女神の信徒として怪しい。と思われるに違いない。
話が終えたことでようやく本題である今回の反省点に入ることができた。
外で患者の順番を決めていたシスターのことが、最初の話題に挙がった。
「朝の部で病気でも怪我でもない者がいた」
最初に朝の部の老婆のことを伝える。
3番目に診療所に入った老婆は鑑定の結果、状態は普通であった。今回の慰問については怪我や病気の者を優先するはずであったから、この老婆が3番目だったことはおかしい。しかし、ヒールが疲労に効くこともわかったので今後どうするかを考える必要があった。
「も……申し訳ありません……」
担当していたシスターが俺に向かって素直に頭を下げる。それを見ていた修道士長がすぐに謝罪は必要ない旨を伝えた。まあ当然だろう。過去にも同様のことがあったはずだ、修道士長はわかっているのだ。
勘違いしているシスターのために俺は少し説明をした。
「症状の確認だけじゃ、怪我,病気の詳細まではわからない。
けど、今後今回の老婆のような者が増えると予想。」
シスターは理解したようだった。しかし、俺の話を受けて全員が考えてこんでしまった。
自分で議題としてあげておいてだが、今回の議題ははっきり言うとシスター達には結論は出せない。なので、自分で結論を出す。
「1日10人なら増やせる」
シスター達の何人かが顔をあげる。
「……ダメです。
10人増やしてしまったら、助祭様のMPが
ギリギリです……」
修道士長が嘆かわしいように言う。
「とは言っても、慰問者20人を削るわけには
いかないし……」
「でも、今後そういう患者さんが増えると
本当に慰問を必要としている人たちが
受けられなくなるわよ」
議論が重ねられた。
結論から言うと、1日10人増やすことになった。しかし俺の体調が悪くなった時点で慰問は終わり。そして、増やすのは昼の部になった。これはシスター達の総意だったので仕方なく頷いたが、たかだか10人増えたくらいでMPが足りなくなることなんてない。
今回のことは単純に俺の負担が増えるだけだが、仕方ない。全ては闇のめ……いや、俺自身のためだ。
全てのシスターの反省が終わった。
それぞれ反省点を見出し、他のシスター達からアドバイスをもらっていたので次回にはもっとよくなるだろう。場が解散に近づいたとき、
「しかし、今後もならず者が来ないとも限りませんね。
一体どうしたら……」
誰かの何気ない一言で、場が止まった。シスターは、しまったとばかりに手で口をふさぐ。
今回ならず者を入れてしまったことについては、「どうしようもなかった、仕方がない」と言うことで全員一致している。
しかし、このままにしてはいけないのも事実なのだ。今回は運がよく、信徒のならず者だったが、信徒ではないならず者だった場合はどうしようもなくなる。
そこで俺は以前から思っていたことを発現する。
「ダークエルフの里を訪問する」




