とある夫人の独り言ち
違和感を覚えたのは自分の旦那になる公爵嫡男の人の名前を聞いてから。
その名前、聞いたことある……と。
私はこの国の伯爵令嬢として生を受け、この度政略結婚をする事になった。
私は絶世の美女と称され、周りにもてはやされていて天狗になっていた…かもしれない。
私の旦那になる人もイケメンと騒がれていた……ハズである。
今日はそんな結婚相手様との顔合わせの日。
公爵家の広い部屋で両親と三人で待っていた。
期待と同時にこの違和感の正体が気になってしょうがなかった。
そんな感じでモヤモヤしていると扉が開き、目み麗しい男性が入ってきて、私の目の前に立つとにこりと微笑み自己紹介をした。
「はじめまして。フェリーク嬢。イアン・フェクトルと申します。これからよろしくお願いしますね」
私は、その顔と名前を聞いてフリーズした。
あぁ、ここ、あの、乙女ゲームの、世界じゃね?
"フェクトル"
イアン・フェクトルと、フェリーク・フェクトル。
あの、ジュリア・フェクトルの両親じゃない?とても綺麗で完璧な令嬢様の悪役令嬢。
確か、夫婦仲は最悪なんじゃなかったけ?
フェリークの一目惚れで強引に婚約した…ハズ。伯爵の方が爵位は低いが政治的立場が上だったから出来た事で、イアンはフェリークの事を愛す事ができなかった。でもイアンは真面目だから妾など作らず、関係を持ったのは生涯でフェリークだけ。って言う設定だった。
でも、この婚約は私が望んで、じゃないはずなんだよなぁ……。
そう思ってぼーとしていた私の周りの人間の動きが早かった。
顔合わせの時には既に外堀は埋められていたらしい。
ゲームの頃とは違い、イアンが私に一目惚れしたらしく、結婚までトントン拍子に進んだ。
あれー?って思っている間に流されるまま初夜を終え、子供ができていた。
確かフェクトル家の子供はジュリアだけだったよな…
って事は、今私のお腹の中にいる子はあのジュリアなのか。
もう既にゲームと違う事が起きているから、この子も破滅の道を行かないといいな と、思った。
思ったよ。破滅の道を行かないといいなって思ったよ。でもさ、生まれてくるのが男の子だとは思わないじゃんね!?
あーどうしよう。これって思っていたら、イアンが生まれてきた男の子にジュリアと名前をつけた。
……やっぱりこの子がジュリアか。
うん。わかってた。わかってたよ。
それから5年。
やばいよ。うちの子超可愛く育ってるんだけど。え?本当に男の子?このまま令嬢見たく女装させればワンチャン悪役令嬢っぽく育つんじゃ………。
そう思ってからの私の行動は早かった。
イアン様に有無を言わさずジュリアにドレスを着せた。
イアン様は仕方がないなぁって顔をしながら私とジュリアを微笑ましく見ていたから大丈夫だと思うのよね。
惚れた弱みってやつかしら。イアンは私に強く物事を言えないの。
それを逆手にとって好き勝手やった。
……確か、ジュリアがレーガン王太子の婚約者になるのって8歳の時に開かれた王家主催のお茶会からよね。
ジュリアから強く希望してレーガン王太子の婚約者に収まったはず。
……よし。その時まで女装させましょう。
流石に男であるジュリアからレーガン王太子の婚約者になりたいなんて言わないはずよね。
なら、王家主催のお茶会で女装させて最後にしましょう。
そう思っていたのに……。
まさか、レーガン王太子から申し込みがあるなんて思わないじゃない!!
え、うそ。どうしよう。
すんごく楽しそう。
大丈夫よ。
ジュリアはどの道婚約破棄されるんだから、問題無いわよね。
王太子からの申し込みは断れないし。
王様と王妃様には言っておこう。
そこで断られるかも知れないし。
と、思ったのに。
王様も王妃様も面白がって婚約させるなんて思わないじゃん!!
結果ジュリアはレーガン王太子の婚約者になり、18歳になった。
8歳の頃まで愛くるしい笑顔を浮かべていたジュリアはレーガン王太子と婚約してからは笑顔を浮かべなくなって、3年前から完璧に無表情になった。
でも容姿は整っているのでまるでアンドロイドのようである。
前世の私の弟みたいだなって思ってしまった。
私の弟は外では本当に表情を動かさなかったから。カッコいいのに。
そういえば弟もこのゲームやってたな。
ジュリア推しだったっけ?
まぁどうでもいいか。弟はここにはいないし。
18歳。
ゲームのシナリオではジュリアが婚約破棄される歳。
卒業パーティーで婚約破棄されるのだ。
………にしても、よく今まで男だってばれなかったな。私の息子。
まぁ、可愛いし綺麗だからな。
この世界にある、便利な魔法を使って声変わりを止め、体の成長も止めた。
顔は魔法ではどうにも出来なかったので、私の前世の力の発揮である。
私はメイクだけはうまかった。
私の持つ唯一のチート技である。
前世でも整形並みに顔を変える事ができた。
その力も惜しみなく使い、ジュリアはゲームのジュリアそっくりに育っていた。
だから、まぁ、バレるはずがなかったのである。
卒業パーティー当日の夜。
我が息子はとても晴れやかな顔で帰ってきたたが、ジュリアの頭は短髪になっていた。
……おい。ちょっと前に地毛で作ったズラ…ウイッグ何処やった?
「我が息子よ!!お帰りぃぃい!!」
イアン様が泣きながらジュリアに抱きついた。
うん。まぁ、寂しかったよね。息子が娘になって。
「ち、父上?ど、どうなされたのです」
ジュリアは短髪のまま令嬢の言葉で喋っていた。違和感がありまくりで笑えてくる。
「むすこじゃなぁぁぁぁああいぃ!!」
イアン様は元気だなぁ…。
「…………父上。耳元で喚かないでください。煩いから。只今帰りました。僕は、貴方の、息子です」
「おぉお…息子…10年ぶりの息子だぁ」
イアン様イケメンなのに勿体無いなぁ…。
まぁ、それがいいところなんだけどさ。
なんて思いながら、違和感ありまくりな我が息子と旦那を見つめていたらジュリアと目があったので声をかけた。
「おかえりなさい。ジュリア」
我ながらステキな笑顔を浮かべる事ができた気がする。
「貴方が無事に帰ってきた事、母は嬉しく思います。我ながら綺麗に育てすぎて、いつ獣に食われてしまうかと思い心配でした」
「大丈夫です。食われる前に男だとバレるので、食われるまではいかないです」
「あらそう?」
「はい。そうです」
いっそのこと食われて良かったのにと思ったのは秘密である。
前世の私は商業も同人も嗜む貴腐人(笑)だったので。
今世では貴腐人ではないですよ?
愛しい旦那様と息子がいるので。
「ま、何はともあれってやつかしら。おかえりなさい。私の可愛い息子ちゃん」
「……はい。まぁ、息子が10年も娘に変わっていたのは半分以上母上の所為なんですけどね?」
私の所為。
まぁ、そうなのだけれど。
この似た世界がシナリオ通りに進むのかが気になったのだから仕方ないじゃない?
「あら?そうだったかしら。でも、王太子からの申し入れは断れないじゃない?最悪の形で断ったみたいだけど?貴方自分のウィッグはどうしたの」
地味に高かったのだけれど?
前世基準で言うと、だけれど。
「ちょっとイラっとしたので王太子様に投げつけてきました。それに断ったのは僕ではなく王太子様からです。他に好きな女ができた…と」
「あらぁ。楽しそうね…じゃなかった。何してるのよ。婚約破棄出来たようで良かったのだけれど」
え、なにそれ。私も見たかったわ。
ジュリアが自分の髪を投げつける所。
楽しそう。私も混ぜて欲しい……なんて思ってないわよ?うん。
レーガン王太子に出来た他に好きな子ってヒロインの事かしら?
だったらレーガン王太子は女を見る目がないわねぇ。
ジュリアは男だし、ヒロインは馬鹿だし。
「いいじゃないですか。おかげで王太子様の間抜け面を拝むことが出来ました。悔いはありません。終わりよければ全て良し、ですよ」
「…それもそうね。終わっていないけれど」
まだ、王家から正式な書類が届いていないからまだ終わっていないのだ。
まぁ、ほぼほぼ終わっているのだけれど。
それから5年後。
ジュリアは王妃でも、追放されたでもなく、ちゃんと本来の姿で宰相としてレーガン王の隣にいた。
レーガンは王太子から王様になっていた。
ほぼほぼ仕事は与えられていないが。
玉座に偉そうに座るのが仕事である。
ヒロイン…王妃も一緒である。
宰相になったジュリアはとても忙しそうだったが、楽しそうでもあった。
最近ジュリアが素でレーガン王と喋っているのを見るが、前世の弟に見えて仕方がない。
身内には容赦ない弟そっくりで。
え?嫌よ。
だってもしジュリアの前世が弟だった場合、私、弟を産んだことになるのよ?
もし、弟だった場合 どんな確率よ!?ってなるわよね。
まぁ、ありえないんだけどね。そんな事。
というわけで、ジュリアの母親は、ジュリアの前世の姉でした。
時間軸どうしたって質問は受け付けません(笑
だって異世界ですから。
似た世界である乙女ゲームを知る母親のせいで令嬢にされていたジュリアでした。




