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Initialize/ZERO -そして少女は廃都に降り立つ-  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

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Apoptosis――自壊⑰




 その呟きに、心臓が大きく跳ね上がった。


「リバティ・ベル!? なんでこんなところに!?」

『トウコのやつ、何を考えてやがんだッ!? あいつらの機体じゃ、機動力も戦闘力もまったく通用しねえぞ!』


 ファランクスの有田先輩が、ぼくらの会話を遮って大声を張り上げた。


『~~ッ、なンっだよ! エンジェル・ラダーじゃねえのかよ! あの腐れビッチども、たかが補給くれえでなにをモタモタしてやがんだ!』

『うっさい有田! この際誰でもいいわよ! リバティなんとかってのは、武器を運んできてんでしょうねッ!?』


 ファランクスが砲撃するミネルヴァを庇い、カノン砲を大盾で受けて後退する。そのファランクスの陰から飛び出したミネルヴァが砲撃を返した。

 轟音とともに炎と黒煙に包まれたアンノウンが、わずかに揺らぐ。しかし当然のように倒れず、足下へと貼り付いていたタランテラへと拳を振り下ろした。


『こっちの状況を知らないのよ!? そんな都合よくいくわけないでしょ!』


 タランテラがグライド中に大地を蹴って進行方向を鋭角に変え、大地へとめり込んだメタル色の拳を回避し、機体を横方向に回転させながら装甲の隙間を(ブレード)で斬りつける。

 しかし装甲の一部が半分剥がれただけで、アンノウンはなおも拳を振り上げる。


『ウフフ、クサレビッチ、デスか。エンジェル・ラダーにステキな渾名をアリガトウゴザイマス。おぼえておきますネ、アリタ』

『……冗談だっつーの』


 アンノウン背部から近づいてきていたチープデビルが、アンノウンの左脚部を目掛けて大槌を振り上げる。

 しかし一瞬早くチープデビルを捕捉したアンノウンが、野生動物のように両膝を曲げるとその場から高く跳んで離脱した。


「早――ッ!」


 あんなの、メタルの取れる行動じゃないだろ……!


 大地を激しく上下させ、崩れ残っていた高層ビルの近くに着地すると同時に、アンノウンが大きく右腕部を引いた。

 遠く、遠く、とてもぼくらの機体には届かない位置で。

 空を打ち据えた大槌に振り回され、大きくバランスを崩していたチープデビルを中心として。


『Damn it...』

「――ッ!?」

『やべ……』

『嘘――ッ!』

『全機回避ィィィ!』


 直後、粉砕音が響く。

 アンノウン右腕部で薙ぎ払われた高層ビルが、超高速で迫るいくつもの瓦礫と化して、ぼくら近接組に襲い掛かる。


 命をわける一秒の中にいたぼくでさえ、虚を衝かれた。


 熱量もなく、ロックオンされることもなく、装甲人型兵器(ランド・グライド)の警告にも表示されないことはもちろん、ルルですら予測不能な攻撃――!


 シールド、いや。間に合わない。

 とっさに持ち上げていた戦斧(バトルアックス)の向きを変え、機体の膝を曲げて衝撃に備える。


「――があぁぁッ!?」


 肩が外れそうなほどの衝撃が襲い掛かり、戦斧(バトルアックス)の表層を滑った直径二メートルほどの瓦礫が上空へと吹っ飛んでいった。


 凄まじい速度で飛来した大小様々な瓦礫は、回避の遅れた近接機を次々と薙ぎ払って数百メートルも後方へと吹っ飛ばす。

 ある機体は部品を撒き散らしながら大地を転がり、別の機体は崩壊した建物の残骸へとつっこんで大破し、またある機体は転がるうちに大地に削られて炎上する。


 ネイキッドの足が大地を掴みきれず、背中から転がって跳ね上がる中、ぼくはカメラアイを回して周囲を確認する。


 何機やられた――!? マサトは――!?


「マサト!」

『大丈夫だ、生きてる! 運良くおれんとこには小せえのしか飛んでこなかった! おれなんかよりツキノさんは無事か!?』


 タランテラが半壊したタングステンシールドを乱暴に投げ捨て、憎しみを込めた低い声で吐き捨てる。


『…………どうにかね。でも、アリサがやられたわ』


 食い縛った歯の隙間から漏れるような声に、ぼくは事態の深刻さを再確認する。


「な――ッ!?」


 エンジェル・ラダーの一角が……。


 アリサ・シュピーゲルのチープデビルは、攻撃直後で体勢を崩していた。回避が間に合わなかったのか。


 ルルの悲鳴にも聞こえる鋭い声が、ぼくらの思考を遮って飛んだ。


『アンノウンに装填音確認! カノン砲来ます! 避けて!』

『させない。ロック。――ショット』


 アンノウンの拳が開いてカノン砲が飛び出す瞬間、その左掌にある砲口へと、ベルベットのガトリング砲から飛び出したわずか三発の銃弾が吸い込まれるように入ってゆく。

 直後、アンノウン右掌からオレンジ色の弾丸が放たれると同時に、メタル色の左腕が大爆発を引き起こした。


「うわっ!」


 左腕部に収納されていたカノン砲弾が誘爆したのだろう。何度も小爆発を繰り返しながら、アンノウンの左腕が粉々になって大地に落ちた。肩から失われた左腕部にかけて黒煙が溢れ出し、電流がスパークしている。


『……ん。あたった。奇跡』

「すごい……」


 リサの射撃は、もはや神業の域だ。

 本来であればガトリング砲は精密射撃などできる兵器ではない。ましてや砲口を狙ってあてるなど、訓練された英雄であってすら考えられない技術だ。その証拠に、あてた本人ですら奇跡と口走っている。


 彼女はどの兵器を使っても、概ね「ロック」という声紋認証を呟く。直進しかできない弾丸であってもだ。

 装甲人型兵器(ランド・グライド)射撃管制装置(ロックオン・システム)とは別のところで計算をしているのだろうと、マサトは言っていたけれど。


『ベルベット、残弾0。ファランクスと同じ。射撃武器を手に入れるまで、(イージス)による支援に切り替える。――ルル、いい?』

『はい、それでお願いします』

『ガトリング放棄(パージ)


 右掌から放たれたカノン砲から他の機体を庇ったファランクスのパイロット、有田先輩がぽつりと呟く。


『……はは。世代は変わっても、やっぱアバカロフだな。すげえや』

「知っているんですか?」

『ああ。おれたちの二つ上にもアバカロフがいた。おれらがペーペーの一年坊の頃はよ、さっきみてえに何度も救われたぜ』

「――!」


 それがリカ・アバカロフ――。


『おれがファランクスを遠距離機に切り替えたのは、リカ・アバカロフのようになりたかったからだ』


 やっぱり存在した……。


「有田先輩、リカ・アバカロフはどうなったんですか!?」

『死んじまったよ』

「誰に殺されたんです。メタルじゃないはずだ」

『……』


 長い沈黙の後、それを破ったのは有田先輩ではなく、ルルだった。


『そこまでにしてください! アンノウンに脚部駆動音並びに装填音確認、動きます! リバティ・ベル到着まで残り二十秒! ツキノさん、リバティ・ベルを無線に取り込んでください!』


 タランテラが動き出すと同時に、残った近接各機がグライドを開始する。

 といっても、ぼくとマサト、そしてツキノさんしかいない。残存兵力は、弾薬を撃ち切って無力化した遠距離二機を合わせ、わずか七機だ。


 ぼくは頭を振った。

 余計なことを考えている余裕はない。


『了解。――リバティ・ベル、こちらはタランテラの天川月乃。聞こえる?』

『はい。こちらリバティ・ベル、中条冬子です』


 アンノウンが大地を揺らし、走り出す。先ほどまでの速度がないのは、おそらく左腕部を失って全体のバランスを崩したためか。


 だけど、人類側の装甲人型兵器(ランド・グライド)の戦力低下はそれ以上だ。

 もはや、アンノウンを掃討することは不可能に近い。ツキノさんは何も言っていないけれど、リバティ・ベルの目的次第では撤退するしかない状況だ。


『中条冬子、何をしに来たか簡潔に述べて。こちらはまだ戦闘中で、あまり余裕はない』


 カノン砲をグライドだけで回避しながら、ギザギザ刃となってしまった二振りの(ブレード)でタランテラがアンノウンの左脚部を削る。

 兵器がこの様では、もはや装甲を剥がすことすら難しい。


『は、はい。えと、すみません! 残骸撤去も大切な任務であるとわかっていながら、勝手に帝高と直接交渉をして、今戦っていらっしゃる皆様の予備武器を格納庫から可能な限り運んできました』


 ざわっ、と全身が泡だった。


「トウコ……」

『イ、イツキ! 無事で良かった! 心配したんだからなっ!』

「キミは最高だ」


 心の底からそう思った。


『は、え? な、なに? そ、こ、こんなみんなが聞いてる無線で……え?』


 この瞬間、無言であったにもかかわらず、下がりきっていた無線の士気が上がったのを肌が感じ取る。

 疲れ切っていた肉体が活性化されてゆく。鋼鉄の細胞がざわめく。


 タランテラを左右に振りながらカノン砲を回避して、ツキノさんが大声で叫んだ。


『……中条冬子っ!! それはあんたの独断っ!?』

『は、はい! よ、余計な真似をして申し訳ありま――』

『あとでキスしてあげる! むっちゅむちゅに舌絡めた濃厚なの! 嫌だって言っても吸い付くから!』

『――ふえッ!?』


 無線に明るさが戻った。


『くく、じゃあおれも、いっちょブチュっといきますか!』

『こらこら、やめなさいって。あんたさっき彼女できたとこでしょ。密告(チク)っちゃうぞ~?』

『あんだよ、直莉。ただの挨拶じゃねえかよ』


 マサトが笑いながら軽口を叩く。


『じゃ、おれはチームメイトのお三方をいただきますか』

『マサトさん! そういう冗談は良くないです!』

『……いや~、ばっち聞こえてるんですけど~。オジサンは遠慮しま~す』


 ミキコの陽気な声がして、ぼくは思わず笑ってしまった。


『きゃああん、食べて食べて!』

『ちょ、美沙ずるい……』


 はは、相変わらずだ。


『アンノウンに装填音確認! ――狙いはわたし、キャンディフロスです。リサさん、対処をお願いします』

『ん』


 ルルへと放たれたカノン砲を、ベルベットが光膜の(イージス)によって防ぐ。

 キャンディフロスを一歩も動かさなかったあたり、ルルのリサに対する信頼が見て取れる。


「武器の温存を考えなくてもいいなら、いくぞ、マサト――ッ!」

『おう!』


 ヒビ割れだらけの戦斧(バトルアックス)を左脚部関節へと叩き込み、右脚部の踏み潰しを躱して、ぼくはネイキッドを疾走させる。その右脚部をレギンレイヴが突撃槍で薙ぎ払い、アンノウンの注意を引くと同時に、左脚部へとタランテラがギザギザ刃を突き立てる。


 左腕部を失っただけで、ずいぶんと戦いやすくなった。もっとも、削ることはできても致命打を与えることはできない。


『ミネルヴァ、ロックオンされました。ファランクス、対処をお願いします』

『あいよ! ようやくエンジンかかってきたじゃねえか、分析支援の嬢ちゃんよ』


 ミネルヴァへと放たれたカノン砲を、大盾のファランクスが防ぐ。

 瞬間、ルルの声が弾んだ。


『キャンディフロスより全機! リバティ・ベル、到着します!』


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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