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Initialize/ZERO -そして少女は廃都に降り立つ-  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

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Apoptosis――自壊⑫




 ネイキッドに乗り込むなり、ぼくはツキノさんに直通無線を繋げた。


「ツキノさん。ちょっといい?」

『十五秒』

「了解。藤堂を戦力に数えないで欲しい。さっきふたりほど味方を殺した。ひとりは自らの手で機体の首を跳ね、もうひとりはアンノウンからの銃撃を防ぐ盾にした」

『――!? 首を……』


 ツキノさんが息を呑む。


 やはり見えていなかったか。

 薄々は感じていたことだが、あいつは他者に殺害現場を見せない程度には狡猾だ。


 ぼくにそれを見せたのは、ぼくがルルの一件で一度やつの犯行を見ていたからだ。だとするなら、あいつが最も葬りたいのはぼく自身ということになる。

 さっきはぼくから攻撃を仕掛けたが、その行動を起こしていなければ、数秒後にはディヴァイデッドがネイキッドに襲い掛かっていたという可能性もある。


「うん。刃を交えた。刺突剣を失った上に仕留めきれなかったよ」

『あんたも藤堂を……!?』


 もう隠すつもりはない。


「たぶんぼくらは、いつかどちらかがどちらかを殺すことになると思う」

『……他機を生かすためのメタルの自壊(アポトーシス)と、他者を殺すための人類の壊死(ネクローシス)か……どちらも狂ってるけど後者には救いもない……』


 藤堂正宗は、これからも自らの周囲に存在する人類という種を殺し続けるだろう。


「考えたくないな。メタルの方がまともだなんて」

『そうね。とりあえず状況は理解はした。今後あいつが戦場に現れても、戦力には数えないで危険因子って認識しとくわ。無線はこちらからの一方通行にしておく』

「うん」

『それと、これまでのこと考えたら言っても無駄かもしんないけど、あんたも早まったことしないでよ』


 それが何を意味しているのかはわかっている。ぼくが先ほど宣言したことは、どう言い繕っても殺害予告だ。


「……藤堂次第だ」

『ため息しか出ないわ』

 ツキノさんのタランテラが黄金色の腕部を背部に回し、六振りも背負った(ブレード)のうち、一振りを抜き放った。

 そのまま無造作にネイキッドへと投げる。


『使いなさい。刺突剣よりは保つから』

「っと……、ありがとう、ツキノさん」


 弧を描いて飛んでくる(ブレード)を受け取って腰部に装着し、ぼくは無線を共通チャンネルへと戻した。


 結論から言って、作戦にそれほどの変更はなかった。近接機を囮にして遠距離機で取り囲み、分析支援機が補助的な動きをする。

 先ほどまでとの違いは、さらに数が絞られたことだ。


 他機を吸収するアンノウンの場合、足手まといは敵戦力の増強に繋がる。ならば苦戦覚悟で最初から数を絞った方が良いとの判断だ。

 その中に、現在、アンノウンを相手に消耗戦を仕掛けているエンジェル・ラダーの三機と、戦力外想定をされているリバティ・ベルの四機は入っていない。

 エンジェル・ラダーの三名はともかくとして、正直、トウコやミキコを危険から遠ざけることができるのはありがたい。


『指揮機タランテラよりアタックグループ十七機。これより我々はアンノウン討伐に向かう。――覚悟はいい?』


 準備ではなく覚悟ときたか。


 多くのパイロットたちが気合いの入った返事をする中、ぼくはおざなりな返事で、ゆっくり深呼吸を繰り返す。


 藤堂の殺人、己に生まれた殺意、トウコの気持ち。

 色々と考えるべきことは多いけれど、今は一度すべてを忘れて戦闘に集中しなければ、今度ばかりはどうなるかわからない。

 アンノウンの凶悪さは、ドレッドノート級の比ではない。


「……落ち着け……」


 鋼鉄の肉体だというのに、心臓が早鐘を打つのがわかる。


 一年生からエントリーされたのは、ぼくらサード・アームズのみ。

 イル・オーメンドは未だ姿をくらませたままだし、むしろいない方が良いくらいだ。


 むろん、残る大多数の機体も見ているだけではない。アンノウンの餌となってしまう付近一帯に散らばっているタンク級残骸の徹底排除。

 この作業次第で戦局が左右される。


 そんなぼくの気分とは裏腹に、ツキノさんの声が明るく変化してゆく。


『あっれ~? ほんとにいいの? みんな覚悟できてんだ? 今ならまだ全機に無線が通じるわよ。言いたいことがあんなら、今のうちに言っときな。生まれる前から好きでした~とか、おれが死んだらハードディスクの中身を見ずに消してくれ~とか、色々あんでしょ』


 だが、誰も口を開くものはいない。それどころか、クスクスと小さな笑みが聞こえているのは、二年生の機体からだろうか。


『ばぁ~か。おめーにそれ言ったら、どうせ、死亡フラグいただきました~とか言って騒ぐんだろうがよ』

『その手には乗らないわよ、天川。笑いものにされるのはあんただけ』

『……趣味悪っ、みんなの秘密を聞き出そうとしてんじゃないわよ』

『誰が天川なんかの前で言うかってーの』


 信頼ゼロだな……。

 さすがは同学年。天川月乃という人物をよく理解していらっしゃる。


『にゃははは、やっぱわかる? でもで~も~、そう言いながらも、あんたら直通無線でニャンニャン言ってんじゃないのぉ?』


 ご丁寧にもタランテラの指先を、機体を取り囲む周囲に一回転させながら。


『ないのね? ほんとにいいのね? 有田くん、カヤちゃんのことはいいの?』

『ふがッ!? お、おおおおまっ、何言ってんだぶっ殺すぞクソアマ!』

『いや、ほら。あんたら実は両想いなんだよ』

『………………………………マジで……?』


 アタックグループの装甲人型兵器(ランド・グライド)が首を回すと、タンク級回収組の装甲人型兵器(ランド・グライド)の一機が、胸部でモジモジと手を組んでうなずく。


『あ、はい……。つ、付き合って……くださ……』

『お、おう……。や、よ、喜んで……』


 無線から割れんばかりの大爆笑と冷やかしが響いた。一年二年の全機からだ。


『はい、有田くん死亡フラグ入りました~! 南ぁ~無ぅ~』


 割り込むツキノさんの声に、またしても大爆笑が巻き起こる。

 心なしか、気持ちが幾分楽になった気がした。


『よーし、アタックグループ全機、そろそろ出るわよ。うちのチームメイトの弾薬も、たぶんもう限界だわ』


 無線から口々に了解の声が飛ぶ。

 先ほどまでとは違って、沈んだ声でいるものはもう誰もいない。


『――アタックグループ十七機、出撃する! 続け!』


 タランテラが集団に背を向けて、前傾姿勢を取る。バーニアが翼を創り出し、金色の機体の背中が遠ざかった。

 間髪入れず、まるで流星群のように次々と十七機の装甲人型兵器(ランド・グライド)が大地を滑り出す。


 覚悟はいい? と先ほど彼女は言った。だけど、全員の覚悟をこの場で作りだしたのは、他ならぬ天川月乃だ。


 ぼくはネイキッドをグライドさせながら、少し笑みを零した。

 彼女は、凄い人だ。

 ぼくは、なれるだろうか。天川月乃のように。

 彼女をさらに超えて、早見士郎のように。


『イツキ、聞こえる?』


 グライドで急激に遠ざかってゆく回収組のトウコから、直通無線が響く。

 一瞬、先ほどの二年生の告白を思い出して、心臓が跳ね上がった。


「う、うん。聞こえてるよ。どうした?」

『あたしさぁ、やっぱりあんたのこと好きみたい』


 間髪入れず、とは言えない。

 最初に浮かんだ顔は、リサでもトウコでもなく、九年前にぼくを救ってくれたリア・アバカロフだったから。


「…………ごめん……。ぼくには、まだ忘れられない人がいるんだ」

『……そ、そっか。で、でもさ、今はただ、あんたの役に立ちたいだけなのよ。だから、さ――』


 ぶつ、と無線が途切れた。


「トウコ? 通信範囲外か……」


 振り返っても砂煙や火炎は上がっていない。大丈夫だ。


 アンノウンの巨体は、ぼくらの目指す先にちゃんと存在している。エンジェル・ラダーの三名を相手に、両の腕部を振り回しながらいくつもの鉛玉を雨のように降らせ。


 ぼくらの行軍に気づいたのか、エンジェル・ラダーの三機がアンノウンを引き連れてこちらに向かって高速グライドで迫る。


『ツキノ! 悪ィ、あんま削れなかったが弾切れだッ! 後ァ頼むぜ!』

『あいよ。帝高で補充したら戦線復帰よろしく~』

『ぎゃは、人使いが荒えな!』


 超高速でのすれ違い様、撤退する三機のうち一機だけが急激に方向転換して、アタックグループ十七機の最後尾についた。


 異質。


 マントのようなものを羽織り、トゲの鎧でも着込んだかのような――陳腐な言い方をすれば、物語に出てくる悪魔のような出で立ちだ。

 同じ黒でも、無骨な鎧武者のようなキャスケットとは全然違っている。


「……? ネイキッド、分析(アナライズ)。最後尾の機体」


 視界の隅に赤文字が浮かび上がる。

 ――機体名チープデビル、操縦者チーム・エンジェル・ラダー所属、アリサ・シュピーゲル。


『ツキノ、手伝いマスよ』

『まだいける?』

『問題アリマセン。チープちゃんには弾薬など最初からナイデスから』


 細身の装甲人型兵器(ランド・グライド)チープデビルには不似合いな金属製の大槌が、ぶんぶんと振り回される。

 あれならば刃が欠けるということもない。早見士郎のキャスケットに似た性質の機体か。


 思い出した。

 出撃前にすれ違ったエンジェル・ラダーには、ひとりだけ金色の髪をした外国人がいた。ツキノさんに腕を絡めて楽しそうにしていた人だ。


 はは、こりゃ頼もしい。エンジェル・ラダーのメンツなら大歓迎だ。


 凄まじい震動に、視線を戻す。


 大地を揺らして割れたアスファルトをさらに踏み砕き、陽光を遮ってメタリックに輝く命無き生命体、アンノウンが迫る。


 息苦しいほどの圧力が、ぼくらに降りかかった。超重量で走るため大地が上下して、グライドを保つことすら困難だ。


「く……そ……!」

『イツキ、二年の機体を見ろ』


 視線を前にやると、二年生の各機は、脚部が地面に接触するたびに大地を蹴って、グライド状態を無理矢理保っている。


『やりゃあできる!』

「おう!」


 ぼくらは見様見真似で大地を蹴った。バランスを崩しかけたネイキッドの機体を傾け、グライドを続行する。


 瞬間、ツキノさんの指示が飛んだ。


『遠距離機、支援分析機はこの距離を保ち援護射撃! 近接各機はあたしに続け!』


 リサのベルベット、ルルのキャンディフロスが、それぞれ遠距離機と分析支援機の流れに乗って離れてゆく。


「リサ、ルル、死ぬなよ!」

『……ん。イツキやマサトより、死亡する確率低い』


 頼むから冷静に分析しないでくれ。


『イツキさんもマサトさんも、気をつけてください』

『心配すんな、ルル。くたばるくれえなら、尻尾巻いて逃げっからよ。な、イツキ?』

「そだね」

『んもう! わたしにはその言葉が一番信用できません!』


 ぼくとマサトが、アンノウンの陰に呑まれながらも少しだけ笑った。

 直後、ツキノさんのタランテラが二振りの(ブレード)を抜き放ち、大声で叫ぶ。


『――行くぞぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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