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Initialize/ZERO -そして少女は廃都に降り立つ-  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

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Apoptosis――自壊⑧




 アンノウンの巨大な腕部が振り上げられた。

 グライドで一斉に散った一年生の装甲人型兵器(ランド・グライド)を目掛けて、大風を巻き起こしながら右腕を振り抜く。


 金属の拉げる甲高い轟音が、大地を滑って響く――!


「~~ッ!?」


 まるで投げ捨てられた玩具のように宙を舞う四機の機体。


 人類の叡智、メタルに抗する唯一の最終兵器(リーサルウェポン)として運用される装甲人型兵器(ランド・グライド)は、高く、高く。


 目で追うことすら困難な速度で数百メートルを吹っ飛ばされ、アスファルトに腕部や頸部を撒き散らしながら跳ね上がり、空中で爆発し、炎に包まれながら地面へと叩き付けられ、うち捨てられた高層ビルの根元を突き破って崩し、再度爆発する。


 もはや装甲人型兵器(ランド・グライド)の形すら残っていない。強化された視界に映る光景は、燃え盛る赤い炎と金属片だ。


 パイロットなんて、肉片すら残らない……。


 ざわりと、全身が泡だった。


「ふざ……けるな……」


 アンノウンが、グライドで散開した一年生の装甲人型兵器(ランド・グライド)を狙い、二桁を超える機関砲から銃弾を撃ち出した。

 三百六十度、余すところ無く。


 落ち着いてシールドを構えられる機体など、ごくわずかだ。

 一年生の大半がパニックに陥り、アンノウンに背を向けてグライドするだけで精一杯で、次々と背部に着弾、大破、もしくは中破させられていく。


 ……戦いですらない……こんなの、ただの殺戮だ……。


 血液のような鮮紅色の機体、ただ一機を除いて。


「藤堂!?」


 赤の機体ディヴァイデッドだけが、アンノウンの銃弾の雨をかいくぐりながらその足下へと潜り込む。


『あいつ……! 機関砲を避けやがったぜ!』


 マサトが驚愕の声を出した。

 藤堂正宗に追従する四機の装甲人型兵器(ランド・グライド)が、ディヴァイデッドを狙って動かされた砲身の隙から、赤の機体を追いかける。


 今のは……。


「命をわける一秒……」

『ああ? 何か言ったか、イツキ?』

「いや、ごめん。なんでもない」


 おそらくそうだ。ぼくにはわかる。

 藤堂正宗の視界に映る世界は、時間の流れが緩やかになっている。

 あいつには、ぼくと同じ世界が見えている。そしておそらく早見士郎にも。


 ディヴァイデッドがすり抜け様に巨大な戦斧(バトルアックス)でアンノウン脚部の砲門を叩き壊すと、追従する四機の装甲人型兵器(ランド・グライド)が巨大な脚部へとミサイルランチャーを放ちながら、高速で離脱してゆく。


 やる――!

 けど、藤堂はともかく、他の四名には危険すぎる方法だ。


『せ、関口? ね、ねえ、イツキ。あの最後についてった五機めの機体、関口だよ! なんであいつ、あんな危険なやり方――』


 無線から、トウコの素っ頓狂な声が聞こえた。


 しかし藤堂や関口の猛攻にも揺らぐことなく、アンノウンはすぐさまバックステップでその五機から距離を取り、またしても一年生機を踏み砕きながら砲門から全方向に銃撃を開始した。


 藤堂の命令だろうか。一年生機が次々と機関砲の雨の中を、チームごとに突撃してゆく。タングステンシールドで銃撃を防ぎながら、ハンドガンや短機関銃(イングラム)を放ち。


『バカ野郎! あいつら、なにをやってやがる!?』


 しかしディヴァイデッドのようにうまくかいくぐれず、あるものは腕部に薙ぎ払われて叩き付けられ、あるものは銃弾に貫かれ、次々と破壊されてゆく。もちろん、アンノウンにダメージはほとんどない。


 藤堂や関口のいるチーム以外は、ほとんどが無駄死にだ!


 恐怖に打ち勝てず、一年生機の中には戦場から離脱していくものまでいる。


 ルルが悲鳴のような叫び声をあげた。


『ダメです! あんなやり方、戦力を徒に減らしてるだけです!』

『ん。藤堂が突撃を繰り返すせいで、あまり撃てない』


 そう呟きながらも、決して的を外さないリサのベルベットだけは、狙撃銃(ドラグノフ)で確実にひとつずつアンノウンの砲門を破壊している。


 けれどそんな攻撃では、焼け石に水だ。本来のベルベットの火力を発揮できれば、もっと有効な攻撃手段がいくつもあるはずなのに。


 ベルベットの肩に、神仏の光背のように装備されている高威力の多連装ロケット砲(カチューシャ)が沈黙したままなのは、一年生の無謀な突撃に配慮しているからだ。

 同じく、大半が生き残っている二年生機も、放てるのは小型銃器だけだ。


『やめさせろッ! 誰か藤堂を止めるやつはいねえのかよ! くそ! 最初(はな)っから藤堂指揮下に入る気がなかったせいで、やつらの無線周波数がわかんねえ! …………そうだ、リバティ・ベル、聞こえるか!?』


 マサトが質問をする前に、トウコが応える。


『聞こえる。聞こえるけど、ごめん。さっき交信したんだけど、元々指揮下じゃなかった上に逆らったからって無線から切り離されたよ。今はブロックされてる』

『……わたしのときと同じですね』


 ルルが苦々しく吐き捨てた。

 どうすることもできない。ぼくらは動けない。


「ネイキッド、分析(アナライズ)。一年生機の被害状況」


 視界の隅に赤文字が浮かび上がる。


 ――大破21、中破9、健在43。


「……」


 荒波のようだった感情が、突然静かに凪いだ。恐怖も脅威も感じないぼくは、どんな状況でも冷静に思考することができる。

 だけど、考えるまでもなく行き着く答えはひとつだ。


 殺す。


 つい最近まで、メタルにしか抱かないものとばかり思っていたどす黒い感情が、ぼくの胸の中で鎌首をもたげた。

 心が熱を失い、鋼鉄のように冷たく沈み込んでゆく。


 ……深く、深く、光の届かない暗いところまで……。


 いずれ殺し合うことになる。藤堂とは。

 単純な引き算だ。殺す人間の数と、救える人間の数の。


 藤堂正宗をここで殺せば、少なくともこの場にいる一年生は救える。あいつは生きてたって、これからも他の誰かを死なせ続けるだけの死神だ。


 ぼくは刺突剣を抜き放ち、ネイキッドの足先を鮮紅色のディヴァイデッドへと向けた。


『イツキ? ……おい、おまえ!?』


 メタルを狩るときと同じ、憎しみに囚われた醜悪な笑みは、鋼鉄の肉体に覆われているおかげで誰にも見られずに済む。


 そう、ぼくはこのとき、確かに嗤っていた。


『イツキさん、まさか――』

「……」


 さあ、あいつを殺そう。ネイキッド。


 だが、響く。

 爆発音や銃声、悲鳴に嘆きに支配された戦場を突き破り、ぼくに覆い被さっていたどす黒い思考の渦をも貫いて、透き通った凛とした声が。


『天川から二年全機に通達! 二年特殊、普通科所属は現時刻をもってアンノウン掃討の任から外れ、チーム、イル・オーメンド、サード・アームズ、リバティ・ベルを除く一年生全機を押さえつけてでも撤退させろ! 必要なら、後遺症が残らない程度に力を行使しても構わない! ――行けッ!』


 二年生の機体の大半が、瞬時に分散する。

 突撃を繰り返す一年生機を遙かに凌駕するパワーとスピードで彼らの機体を次々と拘束し、アンノウンの機関砲を左右に揺れて回避しながら、続々とその場から離脱していく。


『引き付ける。ロック、ロック、ロック、ロック、ロック――ショット』


 突撃が切れた瞬間、リサのベルベットが多連装ロケット砲(カチューシャ)から六基のロケット弾を射出した。

 逃走機を狙って追撃態勢を取っていたアンノウンが、背部に命中したロケット弾に大きく揺らいだ。


多連装ロケット砲(カチューシャ)再装填(リロード)――』


 巻き上がる炎と轟音、メタルの破片が飛び散る。だが、破壊できたのは装甲だけに過ぎない。


 アンノウンはすぐさま逃走機からカメラアイを外し、この場に居並ぶ装甲人型兵器(ランド・グライド)の中でも一際大きな機体、空色のベルベットへと機関砲の銃口を向けた。


 その数、七門。


『――!』


 ベルベットが逆噴射で後退し、そのままバックグライドに移行した瞬間、周囲の地面が無数の鉛玉によって爆ぜた。

 ベルベットは下がりながらも、狙撃銃(ドラグノフ)で自らを狙う砲門を、ひとつずつ破壊していく。


 アンノウンが膝を曲げ、深く屈み込んだ。高層ビルほどの全高を持つ全身から、排煙を大量に噴き出して。


 跳ぶつもりか――!


「リサ、避けろッ!!」


 しかしまさに跳躍の瞬間、アンノウン頭部のカメラアイが粉々に砕け散った。

 跳躍体勢にあったアンノウンが、寸前でその動きを停止させる。


『へっ、やっぱハンドガンと違って対物狙撃銃(バレット)はあてやすいぜ。威力重視で選んだのに、頭部を吹っ飛ばせなかったのは残念だがッ』


 マサトのレギンレイヴが長い対物狙撃銃(バレット)を取り回し、グライドを開始する。

 無線からルルの声が聞こえた。 


『キャンディフロスよりこの場に残った全機。アンノウン、カメラアイ修復までおよそ八、いえ、六秒ッ!? 早すぎる――ッ。待って……腰部砲門にミサイル装填音確認! レギンレイヴ、ロックされました!』

『げっ、マジかよ! お姫さん、迎撃頼む!』

『ん』


 レギンレイヴを狙って放たれたミサイルが、ベルベットの狙撃に貫かれて炎の塊となり、空中で大爆発を巻き起こす。


『釣りだ、受け取れ鉄屑ッ!』


 レギンレイヴの放った二発目の銃弾が炎を突き破り、修復中だったカメラアイに再び突き刺さる。


『ルル、カウントリセットォッ』

『はい! カメラアイ修復まで八秒!』


 それだけあれば十分!


 砲門を減らすべく、ぼくはネイキッドを最高速度でグライドさせた。

 強化されたバーニアを炎の翼のように広げ、割れたアスファルトを乗り越え、瓦礫を回避しながら足下に潜り込み。


「デカブツめ――!」


 アンノウンの脚部砲門をすれ違い様にタングステンナイフで斬り飛ばして高速離脱する。


 よし!


『アンノウンに装填音確認、射出まで七秒――!』

『ジャミング弾使う。――ツキノ、いい?』


 リサが一瞬でツキノさんへと直通回線を開く。


『許可許可許可ぁ! さっさとやって!』

『ん』


 ツキノさんが言い終わるよりも早く、ベルベットから一帯を覆い隠すほどの量の電波欺瞞紙(チャフ)と、欺瞞装置(フレア)が撃ち出された。


 まるで粉雪と太陽のような、幻想的な光景だ。


 直後に放たれたアンノウンのミサイルは、射出と同時に方向を見失い、地面と垂直に上昇した後、熱を放つ欺瞞装置(フレア)の近くで爆発した。


 爆風から逃れるように、サード・アームズが一斉にグライドで散開する。


『すご……な、何なの、あんたら……』

『うはぁ、すっごいすごい! 同じ一年とは思えないわ!』


 呆然としたトウコの呟きと、ミキコの歓声が響いた。


 ミサイル程度であるならば、リサが的を外すことはない。ルルが装填音を聞き逃すこともない。マサトはどんな状況でも三歩先を読み、最適に動いてくれる。


 だからぼくは、安心して接近攻撃が行える。


 たった数秒の攻防。

 だけど、ぼくは高揚する。誇らしく思う。

 このチーム――サード・アームズなら、新型とだって戦える。


 だけど、本当にそれだけだろうか。この程度のメタルと言ってしまっては語弊はあるが、帝西が壊滅に追い込まれたというのは納得できない。


『キャンディフロスよりチーム内全機。アンノウン、カメラアイ修復完了。……!? 待って! 変です! カメラアイだけではなく、破壊したはずの砲門まで修復されています!』

『ああ!? どういうこったよ!?』


 ぼくは強化された視界で、アンノウンの砲門部のひとつを確認する。破壊され、折れ曲がった砲身がブロックごと大地に落ちて、機体内側から新たな砲門がせり出してきた。


「なんだ、あれ……」

『砲門だけではありません! 装甲まで戻りつつあります!』

『……おいおい、溶鉱炉でも積んでんのかよ……』


 通常、メタルのカメラアイは予備をいくつも搭載しているらしく、上位メタルであれば数十秒で自己修復するが、砲門までそんな早さで修復するメタルなんて見たことがない。


『わかりません。ですが、どのようなメタルであれ、修復のための物資は有限です。質量以上のことはできません。だから希望を捨てないで。――アンノウン動きます、みなさん気をつけて!』

「了解!」


 通信を行っている間も、二年生機は次々と一年生機を捕まえ、引きずるように戦場を離脱してゆく。強引に戦場から連れ出されていく一年生機であっても、本気で二年生に逆らうものはいない。誰もが藤堂正宗の指揮に不満を持っている証拠だ。

 本当はみんな、この無謀な突撃を止めてくれるのを待っていたんだ。


 だけど、戦力低下は否めない。


 二年特進がわずか十機、それにサード・アームズとリバティ・ベルの八機、そして藤堂正宗のディヴァイデッド率いるイル・オーメンド四機と、ジョックの関口一機。

 帝都西防衛高校の装甲人型兵器(ランド・グライド)二百機近くを、たった一機で打ち破った新型メタルを相手に、戦力はわずか二十三機ときたもんだ。


 今はツキノさんの率いる二年生の機体が、付かず離れずでアンノウンを攻撃しているけれど、とてもではないが楽観視できない。


 突然、無線からツキノさんの声がした。


『一年藤堂、聞こえてるわね?』

『…………チッ。ああ、聞こえているとも、雌ぅ。まったく、余計な真似を。あのまま攻撃を続けていれば――』


 ツキノさんの機体、黄金色のタランテラが、二刀の剣(ブレード)をアンノウンの脚部関節へと振るいながら、グライド中にもかかわらず地面を蹴って鋭角に跳んだ。

 遅れて振り下ろされたアンノウンの拳が、大地に突き刺さる。


『黙れ。余計な発言は許可しない。情けでこちらの無線を渡してあげるだけよ。あんたと違って、人間は撃ちたくない。戦場に留まり続けるつもりなら、あたしたちの射線上には立つな』

『フン、貴様らの作戦など知ったことか』


 怒りを抑えた底冷えのする静かな声で、ツキノさんが繰り返す。


『もう一度言う。これは情けだ。作戦上の射撃で、あんたが射線上にいても、あたしは命令を止めない。……以上』


 藤堂からの応答はない。


 ぼくは感覚のない喉で唾液を呑み下す。

 ツキノさんのこんな声は聞いたことがない。けれど彼女は、大きなため息をひとつついた後、いつもの明るい声を出した。


『さ~て、仕切り直すわよ。――戦場に残った二十三機に通達! 機関砲をシールドで防ぎながらアンノウン周囲に展開、やつの動作に合わせて包囲を保ちつつ左脚部関節のみを狙って射撃! 撤退中の友軍機を追わせるな!』


 言い終わらぬうちに、二年生の機体が一斉に動き出す。

 戦い慣れている頼もしい部隊だと、傍目にもわかる。


『おれらも行くぜ、イツキ!』

「うん!」

『リバティ・ベルは無理をしない程度に、わたしについてきてください。キャンディフロスの側なら、分析支援機の立場上、比較的安全です』

『わかった。ありがと、成宮。遠距離から援護射撃をしてみるよ』


 レギンレイヴ、キャンディフロスに続いて、リバティ・ベルの四機がグライドで二年生の機体たちを追って行く。

 藤堂のディヴァイデッド率いるイル・オーメンドと、関口の機体の姿はすでにない。


 関口のやつ、なんで藤堂なんかと一緒に行動しているんだ……。


 ぼくは機体を浮かせ、バーニアを噴射しようとして、棒立ちになっているベルベットに気づいた。


「リサ? どうした?」

『ん。ツキノと直通してた。新型の特性。……確信……確定……? 推測があたっていた。今のやり方では勝てない』


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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