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BLUE_LIGHT~海賊アリス~  作者: 葉山
Episode1.雪の女王
28/36

05.行方不明の【主人公】



 忘れてしまうのは、何なんだろう?


 忘れたいと願っていたのは、


 何だったんだろう?


 それも今では、分からないけれど。











 頭の芯が痺れてしまったように、何が起こっているのか、どうなっているのか分からない。

 考えることが出来ないみたいに、頭がぼぅっとしている。


 意識だってしっかり保っていた。自分の足で動いて、歩いた。

 それなのにどうして、わたしがこの鳥かごの中に戻ってしまったのか、全然分からない。


「ここでわらわに守られていると良い。そなたに害なす者から、わらわが全て護ってやろう」


 ぼんやりと、雪の女王を見上げた。


「だから、そなたはいい子でここにいること。飼い主のわらわに逆らってはならぬ。よいか?」


 何を言っているのか分からない。

 この人が、どういう意味を持つことを言っているのか、分からない。


 分からないけど、わたしはただぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと頷いた。


「素直な子は好かれる。それで良い、従順に、大人しく護られていれば良い」


 さらりと頬を撫でられて、頭を撫でられた。

 白くて、ほっそりとした指。それがゆっくりとわたしに触れるたび、どうしてか切なくなった。


 優しくて、無条件で安心していられるように感じる。

 この人に任せていれば、大丈夫だって。そう思える。


「わらわはこれから南の大陸の火山を凍らせてこなくてはならぬ。大きく赤々と煮えたぎった鍋を冷やしてやらねば。それがわらわの仕事。少しの間そなたの元から離れるが、何も心配することなどはない」

「……行っちゃうの?」

「ふふっ、わらわがいないと寂しいのかえ? 甘えたな【娘】だこと」


 薄っすらと口元に浮かべられた笑みは、不思議と嫌な感じがしない。


 さっきまで怖くて、近寄らないで欲しかったのに、どうして?

 今ではこの人が、雪の女王がいないと、不安になる。


「大切な【娘】、何も心配することはない。この中から出ない限り、そなたはわらわの加護があるのだから」


 伸ばした手をそっと元に戻された。


「このかごの中から、決して出てはならぬ。良いか、誰がなんと言おうと、ここから出てはならぬ。そなたの味方は、わらわだけなのだから」


 分かった? と言われているようで、わたしはただ黙って頷いた。


 それに満足したように、雪の女王はわたしの頭を優しく撫でて、カツンカツンと靴音を響かせて部屋から出て行った。

 その白い姿が見えなくなるのを、わたしは尚もぼんやりと見送った。


『……大丈夫?』


 何かに隔たれているみたいに、くぐもって上手く聞き取れない。

 これは誰の声だったっけ?


『だから言ったじゃない。雪の女王は一筋縄で立ち向かえるような相手じゃないって』

「……誰?」

『いやぁね、さっきまでお話していたわたしのことまで忘れちゃったの?』


 鳥かごの柵越しに、ぼんやりとした人影が空気から溶け出てくるように現れた。

 それから、柵なんかあってないようなものだとでも言うかのように、鳥かごの中へと入ってくる。


 ただぼんやりと見上げているわたしを見て、首を傾げた……んだと思う。


『ねぇ、本当に大丈夫? ショックで頭働かなくなっちゃった? それはそれで寂しいんだけどな。せっかくまともな人に会えたんだから。ねぇ、正気に戻ってよ』


 この子は、何を言っているんだろう?


 言葉を言っているのは分かる。でも、その言葉にどんな意味があったかが分からない。

 わたしは、こんなに分からないことが多かったんだっけ?


『ねぇってば!』


 ぼんやりとした小さな腕を伸ばされた。

 その指先がわたしの肩に触れた瞬間、ぞくりと背中を悪寒が走って、わたしは思わず、後ずさった。


 その時だった。


「えっ!?」


 指輪が、勝手に光だした。

 胸元から放たれるまばゆい光と、服の中に閉まっておけなくなるほどの熱さを感じて、慌てて鎖を引き出した。


『それって、【証】? どうして光っているの?』


 その問いには答えられなかった。そんなのわたしが聞きたい。

 でも、その眩しいくらいの光に、寝起きのようなぼんやりとしていた頭が冴えていくのが分かる。


 ぼんやりしている暇なんかないって、そう言いたいの?


 心の中でそう問いかけると、指輪はそれに応えるように点滅している。

 やがて光は一筋の線へと変わり、壁を通過して消えた。


『ねぇねぇ、これってどういう意味? どうして光ったの? あの方向に何かあるの?』

「ちょっと待って。頭の中を整理させて」


 分かったと素直に傍に座ったその子の問いは、むしろわたしが聞きたい。

 【神子の玩具】の声は何回か聞いたことがあるけど、よくよく考えてみれば【証】の声は聞いたことない。


 今は熱を放っていない指輪にそっと触れてみると、それだけで何故か落ち着いた。

 そうだ、落ち着かないと。

 わたしには力がないけど、でも変わりに考えることが出来る。だから考えないと。


「ここは、雪の女王のお城で、さっきの人は雪の女王で間違いない……んだよね?」

『そうよ。あぁ、そうそう。大丈夫だった? 三回目のキスは受け取らなかった?』

「三回目……」


 さっきの人が雪の女王だってことは……。


 そうだ、ヤバい。わたし、額に口付けられている。


「だ、大丈夫だったと思う……!」

『そうだよね、だからこうして無事なんだもんね!』


 確か、二回。

 わたしの覚え違いじゃなかったら二回で済んでいたんだと思う。


 大丈夫大丈夫、ちょっとポジティブに考えようか。そうじゃないと気持ちが凹みそうだ。


「雪の女王の口付けは……」


 どんな意味が込められていたっけ?

 そう、わたしが昔に読んだアンデルセンの『雪の女王』では……


「一度目で寒さを忘れ」


 雪の女王のそりに迎え入れられたカイは、その頬に一度口付けられたとき、震えてるほど凍えていた寒さを忘れた。


「二度目で、大切な人を、忘れ……」


 その反対側の頬に口付けられたときは、大好きなおばあさんやゲルダのことを忘れて……。

 そこまで考えたとき、はっとして口を押さえた。


 わたしは何を忘れているの?


 寒さは、感じてない。

 目覚めたときから感じていた寒さはちっともない。鳥肌が立って腕をさすることも、震えるほどの寒さも、全部なくなっている。


 まぁ、これは今はいいとして。

 もっと、それ以上に大事なことは……!


「わたしは……」






 誰を、忘れてしまったの……?






 誰かを忘れてしまっているのなら、それが誰なのか思い出すことは出来ないんだろうけど。

 それでも、忘れてしまっているんだってことを自覚してしまうと、誰を忘れているのか思い出したい……!


 それに、雪の女王が忘れさせるのは、


「……!」






大切な、人だ。






「ちょっと、待って、よ……っ!」


 誰か嘘だと言って。

 これは夢だったと! こんなの現実じゃないと!

 目が覚めれば雪の女王に口付けられたことが、嘘だったと! 夢の中の出来事だったと! そう、誰かわたしに言って!


 そうじゃないと、わたしは……!


『……また、あとで来るね。あなたとっても混乱しているんだもの。だから、わたしはあっちの部屋で続きをしてくる。カイちゃんのために“――”の文字を作らないと!』


 傍に座っていた子が立ち上がって、柵を通り抜けて消えた。

 そんな些細なことを気になんかしてられない。


 だって、わたしは忘れてしまってるんだから!

 誰かを! わたしの大切な、誰かを!

 忘れてしまったのだから!






 * * * * *






『雪の女王さまは仰いました。“――”の文字を作り出せたら、お前を家に帰してやろう』


 カツンと、氷が音を立てて床を滑った。

 散らばっている氷が、何の形とも言えない形を描いていることにも気付かずに、近くにあった氷を無造作に掴む。


『ねぇ、カイちゃん。あなたなら……九九も分数も誰よりも早く出来て、神父さまに褒められていたあなたなら、“――”の文字を作ることくらい簡単でしょう?』


 そしてその氷を、別の氷にぶつける。

 ガッと鈍い音を立てて、氷の粒子を宙に飛ばしたそれは床の上をカラカラと音を立てて転がった。


『あなたはお家に帰りたくないの? そんなことはないでしょう? だって、今年もまた一緒にバラを育てましょうねって、そう約束したもの』


 ぼんやりと輝く己の手のひらを見つめて、力なく肩を落とした。

 体のどの部分も同じようにぼんやりとしていて、明確な形はない。


『ねぇ、カイちゃん。あなたもあの【娘】と同じように、誰か大切な人を忘れてしまったの?』


 ぽつりと呟いた言葉は、冷たく漂っている空気に沈められて消えてしまう。

 返される言葉はない。


 それがとても虚しくて、胸が苦しい。


『わたしのことも忘れてしまったの? 帰る場所がないから、文字を作りにこないの?』


 ねぇカイちゃん。

 何度もそう呼びかけても、答えてくれはしないけど。

 わたしの姿があなたの目に映されることなんてないけれど。

 ねぇ、誰かお願いだから、カイちゃんにわたしの言葉を届けてください。


『わたしは、ずっとここにいるんだよ』


 何年経っても、ずっとカイちゃんの傍にいるからね。

 カイちゃんを守るために、ずっとずっとここにいるからね。


 だからね、お家に帰るときは一緒に連れて行ってね。


 カイちゃんがいつでもお家に帰れるように、わたしはここでカイちゃんの代わりに“――”の文字を作っているから。

 それがどんな形のものなのかは、知らないけれど。


『あぁ、いけない。あんな遠いところに転がってっちゃったわ!取りに行かないと!』


 よいしょ、と膝の上に乗せていた氷の欠片をばらばらと床に散らばせて、小走りに遠くまで転がってしまった欠片を拾いに向かった。

 部屋には静寂だけが広がっている。


 ……いや。


「やっと、静かになった」


 大きな部屋の奥まった部分に設置された、ロングソファから誰かが言葉を発した。


「カツンカツンうるせぇんだよ。おちおち寝られやしねぇ」


 どこか不貞腐れたように寝返りを打つと、長い白髪がさらりとカバーの上を滑った。

 低い声の主は、ソファの上に悠々と足を伸ばして寝そべっているようで、肘掛の部分に頭を乗せて天井を見つめた。


「妙なことばかり起こる、この変な城には慣れたけどな」


 いつまで経っても、あの女王には慣れられそうにない。

 何を考えているのか、全然分からない。


 そんな気味の悪い女王がいない今、不可解な束縛をされない自由を噛み締めて何が悪いと、堂々と欠伸を漏らした。


「どうせ、この国は狂ってるんだ。今更誰が何をしたって、文句なんか言われるはずがねぇ」


 例え自分が誰かを殺したとしても、それを咎める人物などいないだろう。


 相手が悪いのだから。狂ってしまった相手が悪い。当然だ、殺されてもおかしくはない理由がある。

 正当なる理由さえあれば、どんな理不尽なことをしたって許される。

 それを今、やり返しているだけだ。何が悪い。


「んなこと考える俺だって、狂ってんだろうけどな」


 そう自嘲気味に笑って、くるりと寝返りを打った。


 背もたれに顔を向けて、誰がいるわけでもないのにその表情を隠そうとしている。

 そんな自分に気づいて、忌々しそうに舌打ちをしたが、それでも体制は変えなかった。


 だが、再びカツンと聞こえ出した音に深くため息をつくと、そっと起き上がる。

 腰まで伸びている長い白髪を背中に流し、ただ黙ってその場を後にした。


『カイちゃん、何処に行くの?』


 その言葉が彼の耳に届いたかどうかは、分からない。





 * * * * *






 誰か教えて。


 わたしは誰を忘れたの?

 大切な誰かを忘れてしまったの?

 大切な人なのに?


「大切な誰かって、誰?」


 誰なのかが分からない。

 そりゃそうだ、だって忘れてしまったんだもの。分かるはずない。

 思い出したくても、思い出せない……!


 それが悔しくて、もどかしくて。どうしようもないやるせなさを抱えながら、どこかすがるような気持ちで指輪を握った。

 それでも、指輪は何も答えてくれない。


「お願い、思い出したいの! 誰なの? ねぇ、忘れたくなんかないのに!」


 記憶の全部を覚えていられたらと思うのに、思い出すことなんか出来ないの?

 忘れているなんて、それに気付かなければ幸せだった?


 ねぇ、どうすればいいの?

 わたしがわたしじゃないような心地に陥ったみたいで、取り乱しそうになっていることですら気付けなかった。


「どうすれば思い出せるの? どうすればいいの? わたしは、どうすればいいのっ!!」


 答えてよ! 示してよ!

 わたしがどうすればいいのか!


 お願いだから、指輪がわたしを選んだと言うのなら、わたしを助けてよ!

 ねぇ! お願いだから!


「どうしたら……!」

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるせぇんだよ」

「っ!?」


 誰かが、いた。

 浅く呼吸をしているわたしを、開け放たれた扉に寄り掛かりながら見下ろしている。


 見られた。

 こんな分からなくて、ごちゃごちゃになって、取り乱していたところを誰かに……誰かに見られた!


 落ち着け。こんなにも情けないところなんか見られたくなかった。

 これ以上そんな無様な姿を晒してしまう前に、落ち着け。


「喚くだけ喚きてぇなら他所でやれ。悲劇の主人公にでもなりてぇのなら、とっとと消えちまえ。そんな面倒くせぇ奴なんかを好き好んで抱える物好きなんか、誰一人としてここにはいねぇよ」


 そうだ。この人が言っていることは正しい。


 自分は可哀想な子だと思って、それに酔っている人なんか嫌いだ。

 そんなの、何もしないで誰かに頼ってる……わたしが一番嫌いなタイプ。


 それにわたし自身がなろうとしてどうする?


「鳥かごの鳥はもっと静かだ。あんたも少しはその口閉じてやがれ」

「ごめ……っ!?」


 謝ろうとした言葉が、途中で途切れた。


 だって、その人の瞳……






 血の色みたいに、赤かった。






 長い白髪に、赤い瞳。

 紫色の髪のチェシャや、わたしの瞳が黒いのと同じように、ただ色が違うだけ。

 透き通るような白金の輝きにその瞳の色は、やけにアンバランスに感じてしまう。


 違うのは外見だけなのだから、本当にそんな人がいても嫌うことなんかないだろうって、そう思ってた。

 でも、今のわたしにとっては、そんなのただの理想論でしかなかったのかもしれない。


 だって、その赤い瞳は、【不思議の国】号で視界一杯に広がった鮮やかな紅い色と同じで……!


「っ……!」


 はっとしたように、相手が顔を背けた。


 わたし今どんな顔してる?

 それが相手を、彼を傷付けてしまったの?


 あぁ、でも、その赤い色を直視する勇気なんかなくて。


「……っ」

「何も言うな!」


 何かを言わなくちゃ。言わなくちゃ!

 そう思って口を開いても、鋭く遮られた。


「あんたの余計な言葉なんか聞きたくない」


 傷付けてしまった。

 わたしは、この人を傷付けてしまった!


「心にも思ってもない言葉なんかいらない。自分をいい人だと思わせてたいだけの言葉なんか、いらねぇんだよ! そのまま口閉じとけ!」


 わたしはっ!


「言葉にされなくても、あんたの顔に出てるそれが事実だ!」


 わたしは、今どんな顔をしているの?


 鳥かごの中から見たあなたは、泣きそうな顔で怒っている。

 それから、忌々しそうに扉に拳をぶつけた。

 ドンッ! と低い音と振動が伝わって、びくりと肩が震えた。


「二度と、あんたの面は見たくねぇな」


 そう言って立ち去ってしまうあなたを引き止める言葉が……、言葉を出すことだけであなたを傷付けてしまいそうで、わたしは何も言えなかった。


 低い声で拒絶された。

 泣きそうな顔で怒ってた。


 どうして、わたしはこんなにも上手くできないんだろう。

 なんでもかんでも。力も、確証もないのに出来ると言って。

 できるようになりたくて。でもできなくて、上手くいかなくて。

 次から次へと選択を間違えて、失敗して。


「本当に……」


 なんなんだわたしは。

 無力の癖に粋がって、どんどん事態を悪化させている気がする。

 出来なくなって身動きが取れなくなって、そこで誰かが助けてくれないことを嘆くなんて。


 他力本願なんか嫌いだとか思ってたくせに、結局は何かにすがっていたいと思っているなんて。


「馬鹿じゃないの……」


 そんな自分が嫌で、自己嫌悪で涙がにじんできた。

 あぁ、こんなことでなんか泣きたくなんかないのに。せっかくずっと我慢してきたのに。


 袖を引っ張って目頭に強く当てた。

 滲んできた涙なんかなかったんだと、そう思いたくて。


「本当に、馬鹿」


 止まれ。まだわたしは泣いてない。

 泣いてなんかない。泣いてもいいはずない。


 やることはいっぱいあるんだから。


「……まだ、大丈夫」


 上手くいかないからって、投げ出していいと言ってくれるほど世の中は甘くない。

 責任逃れする大人ほど情けないとか、それこそ可哀そうな人だと思ってしまう。


 そんな人にはなりたくないなんて思ってるなら……、これから最善の選択をして、事態を好転させなくちゃ。


 さぁ、わたしはどうするべき?


「……追いかけよう」


 二度と面見たくないと言われたけど、あの人を追いかけよう。


 怒られて、嫌われて、きっと跳ね除けられる。

 そんなの目に見えて分かってるけど、でも、それでも追いかけよう。


 だって、あの人は……


「狂ってなんか、なかった」


 あの赤い瞳は虚ろじゃなかった。

 お城の兵士たちみたいな瞳じゃなかった。だから、あの人は“悪魔の鏡の欠片”では狂ってない。


 あくまでも、わたしの仮説の上に成り立つ結論だけど。

 幽霊のようなあの子以外で、このお城でまともな登場人物は誰?


 そう考えたときに出されるのは、雪の女王と……


「あの人が、カイ?」


 アンデルセンの中に出てくるカイは、あんなにも大きくないのにね。

 それでも、わたしが知っている物語とは違う。


 だから、そう過程付けてもいい。

 ロリーナ、あなたが言いたかったのはこう言うこと?


 今ではもう懐かしいと思えるようになっている、【不思議の国】号で見た夢の中で出会ったロリーナに、心の中だけでちょっとだけ感謝。


「……あぁ、大丈夫。忘れてなんかない」


 ロリーナも、【不思議の国】号も、忘れてなんかない。


 それなら、忘れてしまったのは何?


 ううん、自分のことは後にしよう。

 今は、わたしがやるべきことの方が優先だ。

 彼らを忘れていなかっただけ、本当に良かったと思おう。


「大丈夫。大丈夫だから」


 だから行こう、この鳥かごの外へ。


 幸いにも体は小さいまま。柵の外に、出ようと思えば簡単に出れる。

 ここから出たら、あの優しく撫でてくれたあの人を裏切ってしまうような気持ちになってしまうけど。


 でも、行くんだ。

 わたしは“悪魔の鏡の欠片”で狂ってしまった人を元に戻さなくちゃ。

 【神子の玩具】を見つけなくちゃいけない。


 自分のことは全部、それが終わってからだ。



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