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市に近付くと、私は下ろされる。
彼についていって入口らしき場所に着く。
「わあ……!」
人がたくさんいる。それだけじゃない。村でしか見ない建物や、見たことのない建物もあって思わず見てしまう。ああ、そうか。人がたくさん住んでいる場所だから、市ができるんだ!
屋根の下に人がゴザを弾いて、たくさん物を売っている。商人がやってきて村で珍しいものを売るばかりではない。
私にとっては珍しい光景だ。
「市は、今日は四のつく日ゆえにやっている」
「なぜ?」
「各地域では三のつく日や五のつく日を決めて商いを行うと話を聞いたことがある。ここでは四のつく日で行われる。……我もここの市には初めてきた」
「……初めて」
住んでても、近くの市に来ないことも有るんだ。……いや、私が村にいたときは村で完結してたから来ないことあるのかも。
特定の日にものを売るってことは、それを準備するための期間もあるってことだよね。
「買売りはわかるか?」
「私の村でも銭は使っていたよ。でも、物々交換はしたことないかな」
彼は考えるように、商売の風景を見つめる。
「貴様の着るものがあれば買う。ついでに食材を買う。ついてこい」
「えっ、あっ、うん!」
手を握られて歩き出す。一瞬引っ張られそうになるけど、何とかついていく。……確かに、千菊様は配慮がなってないかもしれない。でも、握られた手はとても温かかった。
市に入ると、人の話し声がよく聞こえる。商売の話だろうか。世間話だろうか。
……けど、市の中に入ってかは目的の場所に向かうまでの間、目線が痛い。
うん、身長差あるし、体格と顔も良いから千菊様とても目立っている。
……こんな人が多い馬所に行ったことのない私でもなんとなくわかる。
これ、大丈夫だよね?
目的の店の前に着いたようだ。小袖もあったけど、布とかも売られている。お店の人は千菊様を見ると、驚いていた。
「……せっ!?」
大きくて背も高くて、腕とか脚は筋肉で太い。後、千菊様が見下ろすように現れたのなら驚くだろう。彼は膝をついてしゃがんで、ため息をついていた。
「……おい、店主。いいか」
「は、はい」
私から布を受けって、包んであるものを広げる。
「これと交換で店にある古い小袖を何着か欲しい。金の方が良いならそちらにする」
出されたものを見て店主は驚き、受けとって贄の着物を驚いたように見る。
「……あんた。こんないいものをどこで……」
「物々交換は可能か? いや、できるか?」
「できるにはできるが……」
「なら、やれ。では、このあたりとものとこれを。いいか」
指差されたものに、店主は困惑しながら頷いた。
……座っていても威圧感ある。千菊様。指さしたものを交換して、手にしたものをたたんで布にまとめて包む。
立ち上がって店主さんに一礼をしたら、私達は店の前を歩いて去る。
逸れないように再び手を繋いでいる。先程よりも足の速さは遅くて、私がついてこられるような歩きにしてくれているけれど。
「……あの、千菊様」
声をかけてみると届いたのか、足を止めて私を見る。
「なんだ」
「あの、私たち、周囲の皆から見られているような……」
「はっ、そんなのほっとけ。さっさと用事を終わらせて、さっさとかえ」
嘲笑うように言いかけた時だ。
「あんた! 人攫いかね!?」
と声がして私たちが後ろに向くと、お婆さんが怒ったような表情で千菊様を見ていた。
「えっ?」
「はっ?」
流石の千菊様も私と同じように驚いている。
人攫いって、えっ。私、千菊様と一緒に手を繋いで歩いてるだけ。お婆さんは驚いている私たちを気に留めず、千菊様に食いかかる。
「あんた、このあたり一帯で人を攫ってる人攫いだろ!?
こんな真っ昼間で人の多い場所で行おうなんて、なんてやつだい!!」
「おい、ちょ」
「こんな可愛い嬢ちゃんの手を無理やり引っ張っていくの、見たからね!!」
「ま、まて」
「さっさとその子の手を離しな!! 人はもう呼んであるよ!!」
と、奥から何か長い棒やら刀やら持ってきている人がくる。その間も周囲の人はざわざわと私たちに関して、小さな声で話している。
お婆さん、千菊様に食いかかるなんて凄いな。
……もしかして、私たちの身長差も体格差がありすぎるうえに、手を引いて一緒に歩いただけでまさか人攫いに勘違いされた?
そんな、千菊さまが背が高くて大きいだけで人攫いと勘違いされるなんて───……いや、あるかも。私が顔を真上に上げないと千菊様の顔、見れないし。私の顔は千菊のお腹と股の近い間にあるし……。体格差もかなりあるから……それもあって目立ってたし、普通の顔じゃなくて仏頂面だったから周囲の人から間違われるかもしれない。
人攫いに間違わられるのは、嫌だったようだ。千菊様は青筋を立てて、口を開く。
「我は人攫いではないっっ!!」
怒声は空高らかに響いた。
──あの後、私がちゃんと説明をして妻であることを話した。千菊様を抑えようとした人は、納得しなさそうな感じで戻っていった。
千菊様は人攫いと勘違いしたお婆さんは納得してない感じだった。けど、二人の男女が慌ててやってくる。お婆さんの息子さんとその奥さんだろうか。私たちに頭を下げる。
「申し訳ございません……! 母がとんだ勘違いを」
「……あ、いえ、そう見えてしまうのは仕方ないというか」
擁しようとしない姿に、千菊様は不愉快そうに話す。
「……おい、我は悪くないぞ」
「そうだけど、流石にこればかりは仕方ないような気がするよ……!」
彼に顔を向けて話すと、千菊様は自覚しているのか嫌そうにため息を吐く。
「……こう怪しまれる故に、あまり人が多い場には行かない。
……だが、そこの老人の言っていた人攫いの件について、気になる。そこの二人は何か知っているか」
千菊様に問われ、男の人は戸惑いながらも話す。
「ええ、はい……。二月前に私たちの娘の行方がわからなくなったのです」
「……行方?」
「はい、母が一番に可愛がっていましたから、このように……」
私の言葉に夫婦は頷いた。お婆さんはまだ千菊様を睨んでいるけれど彼はものともしない。……そんなことよりも、行方がわからない話が一番気になる。
千菊様は周囲を見ながら話す。
「人攫いは基本禁止されている。この地域は身売りをするほど困っているように見えない」
「ええ、はい。この地域はほかの場所よりまだいいでしょう。
ですが、ここ数年で子供の行方が分からなくなることが多く……」
彼は落ち込んだあと首を右往左往して、私たちに手招きをする。
「少し聞かせられない噂話があるんだが……二人とも耳を貸してください」
私は耳を近づけて、千菊様はしゃがむ。耳が来るのを確認すると、男の人は話してくれた。
「何でも、ここから少し離れた場所の村について。あの村の奴らがやっている噂がありましてね。お山様という得体のしれない神に対して、攫った人間を贄にしていると」
「……え」
お山様に贄。男の人は離れて、慌てて話す。
「兎も角、母様が失礼しました……! では!」
空がだんだんの青の色から黄色から橙。濃い紺の色に染め上げられてくる。着るものに食材を買って、千菊様の家に戻ってきたけれど……。
「はぁ……つかれた」
「……」
千菊様は石に腰掛けて、本当に疲れたように息を吐く。私はその近くの地面に座っている。
……まさか、そんなと思っていたことをまた聞かされるとは思わなかったから。
「……おい」
「……うん、なに」
声をかけられて顔を向ける。
「市は、新鮮だったか」
「……それは、うん」
認めるところは認める。人の多い場であんなふうに商売をしたり、人が通ったりするのはみたことはなかった。新鮮ではあったけれど、千菊様から聞かされた疑惑の話を聞くとは思わなかったな。
「初めての市なのに悪い」
「……あ、ううん。千菊様は悪くないよ……!
ただ私が知らなかったってだけだから……」
彼は私の頭に手を置いて、軽く叩く。
痛くもなく優しく、ぽふぽふというような感じで。
「今は気にするな。噂話というものは、ないところからも発生する」
「……慰めてくれてるの?」
聞くと、千菊様は素っ気なく答える。
「どう捉えるかは任せる」
……千菊様。ただぶっきらぼうなだけで、優しい?
彼は立ち上がって家の方に足を向けた。
「飯を作る。いらないか?」
「っ……! いる、食べるために手伝うよ!」
千菊様のご飯は美味しい。手伝わないとご飯抜きと言われているから、手伝わないとならない。……胃袋から掴まされてるという感じがするのは気の所為だと思う。
けれど、なんだか胸の穴が少しだけ満たされたような気がした。




