3
朝起きておいしいご飯をもらったあと、千菊様から服を受け取った。
今、私の着ているものでは怪しまれるらしい。村の外からあまり出たことのないから分からないけど。
小袖。村にいたころよりも少し良さそうなものを、何個かもらう。
「ある場所から持ってきた。古着であるがこれなら違和感はなかろう。ああ、着れないなら手伝うが」
意地悪な笑みで言われる。さすがに着物ぐらいは自分で着れた。
「自分で着れるから!」
「赤い顔で言うな。気を紛らわすための言葉、冗談というやつだ。着替えたら、贄の着物と装飾をもって外にでろ。我は外で待つ」
彼は家の外に出ていった。
気を紛らわすためと言い、ああ言う風に言わなくてもいいと思う。
脱ぎながら、中を見回す。
彼が建てたとされる建物の中は思いの外整っていて、雨の日も料理ができるような場所もある。彼自体大きいから多分わからないだろうけど、私にはとても広々しているように見える。
ゆっくり見ている場合じゃないかも。私は着ているものを脱いで、化粧も装飾も落としていく。
渡された小袖を着てたくしあげると、草履を履いた。髪を束ねて、外に出てくる。
「おまたせ」
私が出てくると、彼は私に向いて感心していた。
「先ほどの贄のような姿より、そちらが似合うな」
褒めてるのかな……。言葉の意味を尋ねる。
「……褒めてるかどうか、わからないけど」
「褒めている。贄よりも、普通の生活している姿の方がらしいというものだ」
贄の姿よりもいい、か。確かに、そうかもしれない。
そんなことより、私に着替えさせた理由を知りたい。
「ねぇ、千菊様。貴方は何故これに着替えるように行ったの?」
「ああ、貴様の贄の着物と装飾を市で売るためだ」
私の着ていた生贄の着物と装飾を売ると……。
「って、市!?」
驚くと、彼も驚いていた。
「なんだ。行ったことがないのか?」
「……ない。村に商人は来るけど、私たちのような村にいる女の人は人が多く集まる市に行ったことないの」
行く機会なんてなかった。村の中で買い物ができてしまうから。満たされてしまうから。私の話したことに千菊様はあまりいい顔をせず、悲しげに話す。
「我の契約なんてものの縛りより酷いな。貴様の村は」
「?」
「何でもない。だが、その贄の象徴と役目を手放すことになるが、いいか?」
指で示されて言われる。
言われて気付くが、確かにこれは私が私であるためのものだ。でも、今は彼との契約がある。首を縦に振って、私は彼の顔を見るために見上げた。
「うん、私にはお山様の鎮める役目は捨てたし、ここいる時点でもう村を裏切ったようなものだもの。契約で千菊様の妻の役目を貰ったから十分だし、必ず死なせてくれるって言うから」
そう言うと、胸の穴が少し埋まった気がする。
なんでだろう?
「そうか。なら、我も契約通りにしなければな」
「……これ、売れるかな?」
手にしているものを見ていると、彼はしゃがんでまじまじと見る。
「良いものなのは間違いはないだろうが、中にはその値打ちを分かって騙そうとする人間もいる」
「……そうなの?」
「そうだ。……その様子からして、商人から適正価格な価格で買えていたのか。それとも……」
私の発言から色々と考える。どうしたのだろう。
「千菊様?」
「……悪い。時間が惜しい。行こう」
千菊様は何も言わずに歩き出す。私は気になりながらも、彼について行った。
贄の着物と装飾を布を包んだ。一緒に市に行くのだけど……彼は大きいし、足も長い。鍛えているんだろうな。歩くのも速い。だから歩くのにつていけない。
「っ……はぁ……」
しゃがんで、息を荒くする。私、ここまで歩けなかったっけ。
彼の背中はもう遠い。市までつかないかもしれない……。どうしようかと考えていると、声がかかる。
「どうした」
顔を上げると、千菊様が両膝をついてかがんで私をみていた。顔が合って、びっくりする。もう背中が遠かったのに、いつの間に私の近くに居たんだろう。
ああ、けれど、言わないことは言わないと。
「はぁ……せん、ぎくさま……あし……つら……」
いうと彼は気付いたのか、申し訳なさそうに話す。
「悪い。我が考えなしであった」
「っ……いえ、そんな……ひやぁ!?」
彼が急に私を抱いて、持ち上げる。
千菊様は私を片腕で子供を抱くように抱いた。私を片手で抱きかかえられるぐらい腕がすごく鍛えられて……。
「千菊様!? 何故、私を抱き……」
「貴様を抱えながら町へ行くぐらい造作無いが、配慮が無かった。……悪かった」
申し訳なさそうに謝る。……すごく偉そうで無遠慮な人なのかなと思ってた。謝れる人だとは思わなかった。
彼は私を抱えて歩き出す。
周囲を見回す。
高さが、目に映る風景がいつもより違う。
少し遠くも見えるし、山の風景もいつもより違えように見える。空は近づいてないけど、地面から少しだけでも離れるとだいぶ違う。
移動しながらだからもっと違うように見える。
「……千菊様は大きいね」
「……お前は、丁寧な言葉を我に対して使わないのか」
「最初から貴方が不躾な対応をしたから」
「なるほど。それは我が悪いな。……流石にあいつのようにはいかないか」
悔しそうに話すけど、あいつって?
「あいつとは?」
「くず。くずとはあいつに呼びかける挨拶のようなものだ。くずは罵りを受けて喜ぶ癖がある」
聞くと返ってきた言葉は衝撃的なものだった。挨拶って……くずって確かいい意味がなかったような気がする。しかも、悪口を受けて喜ぶ人なんているんだ。驚く私に彼は話す。
「だが、あいつは我の罵りには反応せず悪態で返す。嫌われているから当然だが。
つまり、あいつは配慮や対応の仕方がわかる奴で、我があいつよりうまくいかないというだけだ」
「……話と千菊様の対応を聞いていて思うけど……そのくずと呼びかける相手の方を貴方も……」
「我も嫌いだ」
すぐに答えられる。そうかなって思った。けど、嫌っていながらも驚くものを見る。
「くずと言うが、役立たないや残りかすなやつじゃない。だが、馬鹿だ。やりすぎな献身と罰を自ら受けて、自分から苦しんでその苦しみに喜ぶ大馬鹿野郎。死ぬものなのに、死ぬつもりないとほざく愚か者だ」
彼は、内容はとても悪く言っているようなものだと思う。
「……そんな大馬鹿が会わなくなってから、調子が狂う日々だ」
けれど、彼の表情と声色はなんだか悲しそうに思えた。




