第七話 ピーマンの掴み取り
ジリリリリ
カチリ
「ふぁーあ」
「ねむ」
目覚ましを止めてあくびするあやめ。
東の空が少しずつ白み始めている。
「今日を乗り切れば明日から夏休みか」
「さて、今日も頑張りますか」
ささっと朝食を食べて出掛けた。
◇
うさぎの朝は早い。
だが、目が覚めてもすぐに段ボールから出ることはない。
なぜなら、特にすることも無いからだ。
もう一度寝ようと考えたところで、あやめの部屋のドアが開いた。
ガチャ
「あ、おはよう」
「黒兎、起きるの早いね」
「おはよう……」
もう一度寝るところだったとは言えなかった。
「一応、ピーマンを少しだけ置いておくね」
目の前に差し出されるピーマン。
どうしてそんなにあるんだ……。
「あやめよ、お前、ピーマンは好きなのか?」
「ん?ピーマン?」
「あゝ」
「この世で一番嫌いな食べ物だよ?」
「口の中がずっと苦いし」
「……」
「だったら、どうしてそんなにあるんだ?」
「私、貧乏だって言ったよね?」
「あゝ」
「質より量なの。安く手にはいる時があれば、たとえ嫌いなものでも食べられるものなら、つい買ってしまうのよ」
「……」
そういえば。
「言うの忘れてたから教えておくね」
「川原はそこの道を左に進んで、突き当たったら左に道沿いに進めばあるから」
「……」
「じゃあ、私、これから新聞配達のバイトだから、もう行くね」
◇
しゃくりしゃくり
「……」
「やっぱり、美味しいものではないな」
ピーマンを食べる黒兎。
「でも、不思議だな」
「食べる度に力が増している気がする」
「これ食べたら川原に向かうか……」
◇
さてと、
「今朝の配達もおしまい」
「早く戻って学校に行きますかー」
新聞配達が終わりアパートに戻るあやめ。
「確か、この辺りだったよね、お社」
昨日通った場所を見回す。
「あれ?」
「ここだったと思うけど……」
「見当たらない」
「……」
「……まあ、考えても仕方ないか」
「そもそも昨日までずっと気付かなかったくらいだしね」
◇
アパートに戻ると黒兎はいなかった。
「まあ、こんなもんかな」
手早く高校の制服に着替えて身だしなみを整える。
「では、行ってきまーす」
ガチャ
外に出ると、 アパートの住人の春風すずがいた。
「あ、すずさん、おはようございます」
「あやめちゃん、おはようー」
「今日もかわいいね!」
「またまたー」
「というか、すずさん、就職してから全然会いませんね」
「元気そうで何よりです」
「そうなのよね」
「忙しくて全然時間が合わないのよ」
「そうなんですね」
「今日も暑いので気を付けて下さいね!」
「あやめちゃんもね!」
お互いに手を振って別れる。
今日の学校は終業式だけだし、終わったら買い出しに行こうかな
◇
カランカラン
「さあさあ、今日も掴み取りが始まるよ!」
「みんな寄って来て、参加して行ってねー」
「今日はピーマンの掴み取りだよ」
「参加費用はなんと100円」
「お得ですよ!」
「……」
あやめは葛藤した。
葛藤したが、
「黒兎がいるしなんとかなるよね……」
言い訳を黒兎のせいにして誘惑に負けた。
そこからは早かった。
「おじさん!参加します!」
100円を渡して、袋を貰ってからは人が変わった。
無心になって詰める、詰める、詰め込む。
それはもう、一心不乱に。
「いっぱい入れ、いっぱい入れ、いっぱい入れ……」
気づけばどうやって詰め込んだんだという量が袋にパンパンに。
袋の上にも山が出来る。
「お、お嬢ちゃん、いっぱい入れたね……」
「はい、頑張りました!」
「溢れた分も袋に入れますね」
袋を受け取り、両手いっぱいにピーマンを持つあやめ。
すっごい笑顔だ。
だけど、
「我ながらものすごい量を詰めたな」
「まあ、今回は黒兎がいるし大丈夫でしょう」
足取り軽く帰るあやめだった。




