第五話 受け継がれた舞
「あんたも色々苦労したんだね」
黒兎の話を聞いた後にあやめは一言言った。
「……感想、もっと、なんか無いのか?」
「いや、別に?」
「あんたが、まあ無害そうだなってことだけはわかった」
「……」
「それで、封印のことは?」
「さあな。なんか急に抑えられてる力が緩んだというか、一時的に力が強まったというか……よくわからないが、封印が解けた」
「その後は壺の外へ出て、辺りを見回したところで腹が減りすぎて倒れた」
「壺の中にいた理由は知らん」
「ふーん」
「……」
「淡白だな」
「よく言われる」
そこで、沈黙を守ってたしずくが口を開いた。
「あなたの過去と、封印が解けたこと」
「総合して推理すると、恐らくあなたに呪いを与えた存在に力が戻った可能性があるわね」
「なっ!」
「……あいつはまだ生きているのか」
「あなたがこの地で封印されていた事にも何か関わるかもしれない」
「……」
「まあ、今、考えても結論でないし」
「この後はどうするの?」
あやめは黒兎に聞く。
「行く当ても無いし、ここに……」
被せるように言い放つ。
「却下」
「えっ」
「今聞いた話だと」
「黒兎は人間の男の子」
「私、女の子」
「同じ部屋なんてありえない」
「あと……」
「私は貧乏なのであなたを養うゆとりは無い」
「あとで河原の方向を教えるから、そこで好きなだけ草食べてね」
それから、と続ける。
「このアパートにいるなら、庭に段ボールでうさぎ小屋作るから、そこで寝て」
「……あやめちゃん」
◇
「そういえば、さっきの話に出てきた神楽って何?」
「神様に奉納するための舞かな。祈りや感謝の気持ちを舞に込めて踊るの」
「ふーん」
「たとえば、こんな感じ?」
あやめはすっと立ち上がり、呼吸を整えると、一つ一つの所作を丁寧に重ねて舞った。
背筋を伸ばし、ゆったりとした足運び、静かな所作、指先まで意識した動き、音の無い空間で静かに舞い始めた。
そして、一礼して終わる。
室内は神聖な空気に包まれた。
「あ、あかね?」
「ん?あかね?あやめだよ?」
黒兎はぼう然としている。
「あやめちゃん!何したの!」
「何って、昔、教わった舞?」
「この部屋が神域化したわよ!」
「神域化?」
「ある種の結界よ」
「簡単に言えば、この部屋を妖精界みたいな空間にしちゃったの!」
「へ?」
◇
「あやめちゃん、あなた、何者?」
しずくは呆れながら聞く。
「何者って」
あやめは苦笑い。
「途方にくれてた小学六年生からこちらにお世話になってる、現在15歳のピチピチJK、あやめちゃんですけど?」
嘘は言ってない。
「さっきの舞は小さい頃にお母さんから教わったものだけど」
「これって神楽なの?」
「たぶん、そうだと思うけど、ちょっと効果が強力過ぎる……かな」
「な、なるほど?」
あやめはわかってないけど、とりあえず返事をした。
◇
「あやめ、お前はなんだ?」
復活した黒兎が問いただす。
「さっき、しずくさんに答えたけど、またー?」
「聞きたいのは、さっきの答えじゃないんだね」
「んー」
「この舞のことを、お母さんと最後に話した時だったかな」
「この舞は子供が出来たら教えなさい」
「私たちは守り人の一族だけど、もう私たちしか残っていない。守り人は私で最後。」
「だから、あなたは好きに生きなさい」
「だったかな」
「そういえば、あかねさんだっけ?」
「名字のしらと?って、どんな字?」
「白いうさぎで白兎」
「へー」
「お母さんの旧姓って、しらとなんだよね」
「「えっ!」」
「白いにますとかひしゃくの斗」
「字はちょっと違うけど、何か、関係あるのかな?」
「そういえば、どこかのお社を守ってるとか言ってたけど、どこのお社かは聞いたことないな」




