第三十九話 大怪獣、退治しました
「あやめ、待たせたな。もういいぞ」
あやめが自暴自棄に陥りそうになったところで、後ろから声をかけられた。
「黒兎! いいタイミング!!」
「もう少しで自分を見失うところだったよ」
「何言ってるんだ? お前」
「じゃあ、少し任せるよ」
「おう!」
黒兎は地面を蹴り、蟒蛇甲へ向かって突っ込んでいった。
「デャアアァー!」
蟒蛇甲の注意が黒兎へ向く。
巨大な前脚が振り下ろされる。
黒兎はそれをかわしながら懐へ入り、拳を叩き込む。
ドンッ!
「硬ってぇな!」
それでも構わず、黒兎は蟒蛇甲を引きつける。
「ほら、こっちだ!」
その隙に、あやめは大きく後ろへ下がった。
◇
「さて、あの怪獣に目にもの見せてやるぞ」
わたしは魔力刀を構え、攻撃の準備をする。
「魔力刀に、風で鋭い刃をイメージ……」
イメージ、イメージ、イメージ……。
もっと鋭く。
もっと大きく。
あの硬い甲羅ごと斬れるくらいに。
「よし!」
魔力刀を握り直す。
「風よ!」
フォオオォ!
魔力刀の周りに風が舞う。
さらに魔力を込める。
ブォン!
風の勢いが増す。
「まだまだ……」
さらに魔力を込めていく。
ブォォォォ……。
ブオオオオォォォ……。
魔力刀を包む風が、巨大な刃のように伸びていく。
これなら。
たぶん、いける。
「黒兎、離れて!」
「おう!」
黒兎が蟒蛇甲から一気に距離を取る。
同時に、わたしは地面を蹴った。
蟒蛇甲までフェイントを挟みながら、一気に距離を詰めていく。
当然、蟒蛇甲も黙ってはいない。
巨大な尻尾が迫ってくる。
「よっ!」
尻尾をかわす。
その勢いのまま大きく飛び上がり、さらに空へと駆け上がる。
眼下に巨大な蟒蛇甲。
やっぱり大きい。
でも。
大きいなら――
狙いやすい。
魔力刀を両手で握る。
「せーのーでーー!」
一気に魔力を解放する。
「えいっ」
ブオオオオォォォォンンンン!!!!!
周囲が激しく震える。
刀身が伸びる。
空気が震える。
巨大な風の刃が、容赦なく振動を続ける。
「うわっ、思ったよりすごい」
自分でやっておいて、ちょっと驚いた。
でも、もう止められない。
魔力刀を上段に振りかぶって――
「よいっしょっ!」
ブンッ!!!!!
ザシュ!!!!!!
一閃。
蟒蛇甲の動きが止まった。
「……あれ?」
次の瞬間。
巨大な蟒蛇甲の体が、真ん中からゆっくりと左右に分かれていく。
ズズンッ!
真っ二つになった巨体が地面へ倒れた。
「おお……」
自分でやっておいてなんだけど。
本当に斬れた。
さらに、斬られたところに黒い切れ目のようなものが現れる。
「何、あれ?」
切れ目は徐々に広がり、倒れた蟒蛇甲の体を飲み込んでいく。
やがて巨体をすべて飲み込むと――
何事もなかったかのように閉じた。
静寂。
しばらく待つ。
何も出てこない。
「……勝った?」
「勝ったみたいね」
あかねさんの声が聞こえた。
その瞬間――
「よぉおおおおっし!!! 勝ったぞーー!!!」
思わずガッツポーズをして跳びはねた。
「あやめちゃん、お疲れ様」
「よく頑張ったな」
あかねさんも黒兎も、汗だくで疲労困憊だ。
「これで一連の事件は終わりかな?」
「おそらくそうね」
あかねさんが辺りを見回す。
もう、嫌な気配は感じない。
「黒兎の呪いも解けちゃったね」
「そうだな……」
改めて黒兎を見る。
人間。
普通に人間。
今までずっと黒い兎だったから――
「人の姿だと違和感が半端ないよ」
「なんだと?」
「もう兎のままでいいよね」
「なんだと!」
「まあ、気にしないで。とりあえず帰ろう」
「気にするわ!」
「そうね。帰りましょう」
あかねさんが笑いながら歩き出す。
わたしもそのあとに続いた。
「おい! 待て!」
黒兎の声を聞き流しながら、わたしは神域を解除する。
学校は、いつもの静かな学校へと戻った。
こうして、わたしたちは帰路についた。
◇
その様子を、物陰からこっそりと見ている者たちがいた。
「あやめちゃん、強かったね」
「そうね。何かあったら助けるつもりで来たけど……何あれ。私より全然強いんだけど……」
「そうですね。絶対、女王様より強いですよ、あやめちゃん」
「……それ、本人の前では言わないでね?」
「はい」
「今は見習い女王ってことにしてるけど、もう任せちゃっていいかもね」
「でも、女王様。あやめちゃんは人間ですよ?」
「たぶん、それは大丈夫よ」
「どうしてです?」
女王は、帰っていくあやめの背中を見つめる。
「だって、あやめちゃん、神様の加護もあるみたいだから」
「神様の加護?」
「そう。それも、かなり強いものね」
少し考えてから、女王は続ける。
「だから、たぶん私たちと同じくらい長生きするわよ」
「そうなんですか!」
「たぶんね」
「たぶん!?」
「神様のやることなんて、私にも全部はわからないもの」
「女王様なのに……」
「女王だからって、なんでも知ってるわけじゃないわよ」
「そういうものですか……」
「そういうものよ」
女王はもう一度、遠ざかっていくあやめを見る。
「まあ――」
少しだけ笑って。
「本人は、そんなこと全然気にしてなさそうだけどね」
「ですね」
二人の視線の先では――
「今日の晩ご飯、何にしようかなー」
大怪獣を倒したばかりの少女が、そんなことを考えながら歩いていた。




