第三十八話 大怪獣、強すぎません?
蟒蛇甲と対峙するわたし。
お互いに攻めるきっかけを待っていると――
「デャアアァー!」
黒兎の声が聞こえた。
どうやら、和鰐に止めを刺したようだ。
「ハァハァ……待たせたな、あやめ」
後ろから、息を切らしながら近づいてくる黒兎の声が聞こえた。
「無事ならそれでいい」
心配しながらも、ぶっきらぼうに答える。
「それより、お願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「こいつは普通の攻撃が効かない」
さっきから何度か斬りつけているけど、手応えがほとんどない。
傷らしい傷もついていない。
「とりあえず、わたしが相手をするから息を整えておいて。それで、しばらくしたら交代」
「その間に力を溜める」
「わかった」
蟒蛇甲を見据えたまま、わたしは魔力を練る。
「あと、これ。気休めだけど着けて」
魔力を込めて、手袋と膝当てを作り出す。
それを後ろにいる黒兎へ放り投げた。
「きっと、こいつは素手で相手すると呪いを受けるよ」
「それ着けると、わたしの神威で防げるはず」
「なるほど、ありがたい」
「あかねさんは、なるべく離れてて!」
「わかった!」
あかねさんに声をかけると、わたしは駆け出す。
蟒蛇甲の注意を引きながら、攻撃をかわせる距離を保つ。
だが、蟒蛇甲も黙って見てはいない。
グルアアア!
大きく吠えたかと思うと、空気を吸い込み始めた。
どんどん喉が膨らんでいく。
「何する気……?」
やがて動きが止まる。
そして、こちらを見据え――
口から黒い何かを射出した。
バビューン!
「うわっ!」
慌ててとっさにかわす。
ドゴーーン!
後ろで大きな破裂音がした。
ちらりと見る。
地面が大きく抉れていた。
「ヤバッ……」
あれに当たるとヤバい。
たぶん、すごく痛い。
というか、痛いで済むのかな?
後ろに気を取られていると――
バビューン! バビューン! バビューン!
「ちょっ!?」
今度は連続で射出してきた。
右。
左。
もう一度、右。
必死になって避けながら走る。
「このままじゃ、まずい。こっちから攻撃しないと、あの攻撃が止まらない!」
やがて蟒蛇甲の喉が縮み、射出攻撃が止まった。
「今!」
地面を蹴る。
一気に距離を詰め、魔力刀で斬りつける。
ザシュッ!
やっぱり浅い。
すぐに蟒蛇甲の巨大な前脚が飛んできた。
「っと!」
後ろへ跳んでかわす。
今度は反対側。
「うわっ!」
左右の前脚を連続で振り回してくる。
範囲が広すぎる。
なんとか潜り抜けると、今度は長い首が伸びてきた。
ガチンッ!
目の前で巨大な顎が閉じる。
「あぶなっ!」
あんなのに噛まれたら、絶対に痛い。
というか、たぶん痛いでは済まない。
距離を取ろうとすると、今度は長大な尻尾が横薙ぎに迫ってきた。
「次から次へと!」
跳ぶ。
尻尾が足元を通り過ぎる。
着地した瞬間――
蟒蛇甲が低く身構えた。
「え?」
ドドドドドドッ!
「突進!?」
巨体が一気に迫ってくる。
大きい。
速い。
怖い!
「うわぁぁぁ!」
横へ全力で飛び退く。
すぐ横を巨大な体が通り過ぎた。
「大きいだけで十分武器じゃん!」
ようやく止まったと思ったら、今度は巨体を持ち上げる。
「まだあるの!?」
そのまま前方へ倒れ込んだ。
ズズーーン!
「わわっ!」
神域全体が揺れる。
足元を取られ、思わずよろけた。
そこへ鋭い爪が振り下ろされる。
ドガン!
地面が叩き割られた。
さらに――
衝撃波が地面を走ってくる。
「なんでよ!」
ここ、わたしの神域なんだけど!
慌てて飛び退く。
どうにか体勢を立て直して、再び斬りかかる。
「風のヤイバー!」
ガキンッ!
「硬っ!」
今度は甲羅の中へ身を縮めた。
魔力刀が弾かれる。
「それあり!?」
防御まで完璧。
少し待つ。
すると、甲羅から頭が出てきた。
「今度こそ――」
グオオオオォォォ!!
「うっ!」
突然の咆哮。
体が一瞬動かなくなる。
その隙に爪が飛んできた。
「うわっ!」
ギリギリでかわす。
危ない。
普通に斬りかかるだけだと、ダメージを与えてる感じが全くしないんだけどっ!
しかも。
さっきより動きが速くなっている。
「もしかして……怒った?」
グルアアアアア!!
「怒ってる!」
突進。
爪。
尻尾。
噛みつき。
さらに黒い何か。
「ちょっ、待って! 一個ずつ!」
もちろん待ってくれない。
避ける。
走る。
また避ける。
たまに斬る。
でも効かない。
「もう、なんて厄介な……」
息を切らしながら、わたしは蟒蛇甲を見上げる。
大怪獣。
どう見ても大怪獣。
幼気な少女が戦う相手として、何かがおかしい。
いや。
そもそも――
「ところでわたし、なんで、こんなのと戦ってるんだっけ!?」




