第三十七話 大怪獣さん
あやめの神域によって、異相から引き摺り出された蟒蛇甲は、ゆっくりとした動作で周囲を見渡しだした。
ワニガメの甲羅と四肢に、大蜥蜴の頑強な肉体、そしてウツボの蛇骨のような長い首と凶悪な顎を併せ持つ、怪獣のような姿だ。
「あれが、蟒蛇甲……」
「そうよ」
「ああ、俺が知っているものより数倍大きいし、見た目も禍々しく変わっている」
「思っていた以上に大怪獣ですね」
蟒蛇甲は周囲を警戒し、まだこちらには気が付いていない。
◇
「ねえ、黒兎……」
「なんだ、あかね?」
「あなたの体から……黒いモヤが出てるわよ」
「……はっ?」
「たぶん、呪いが解けそうになってるわ」
「こんなタイミングでか……」
「ここに着替えを置いておくから、解けたら着てちょうだい」
「ああ、わかった……」
「黒兎、戦闘が始まったら援護をよろしくね。あかねさんは黒兎の支援をお願い!」
「わたしは、とりあえず、大きく当たってから後は流れで!」
「おう!」
「わかったわ」
「黒兎、このままだとたぶん戦闘途中で呪いが解けるから、最初に解くわね」
あかねは浄化の舞を舞う。
すると、黒兎の体から黒いモヤがさらに吹き出し、体を覆う。
やがて、その中から裸の黒兎が現れた。
「はい、さっさと着替えて戦闘準備を取る」
あかねは黒兎を捲し立て、早く着替えるように促す。
だが、しっかりと大事な部分を凝視していることを、あやめは見逃さなかった。
「早く着替えてくださいね」
「着替えたら飛びかかります」
黒兎が着替え終わったころ、蟒蛇甲はこちらを視認した。
◇
蟒蛇甲に気づかれた。
だが、まだ様子を窺っているようだ。
とにかく、大きい。
トカゲもどきの何倍あるだろうか。
でも、まあ、やることは決まっている。
「変身!」
わたしはいつものジャージではなく、妖精女王の衣装に変身する。
光が身を包み、衣装が変化していく。
やがて、わたしの姿はミニドレス風のコスチュームへと変わった。
そして、駆け出す。
「魔力刀!」
手に魔力刀を呼び出し、魔力を込める。
速度を上げながら、さらに近づく。
そして――
「先手必勝! 風のヤイバーー!!」
大きく斬りかかる。
蟒蛇甲は速度に対応できず、とっさに腕で受けた。
ザシュッ!
グオオオオォー!
吠える蟒蛇甲。
初手で斬りかかることに成功したが、手応えは浅い。
わたしはすかさず距離を取る。
戦いの火蓋は切られた。
「大きすぎて手応えが無い」
わたしはひとりごちる。
脇目で黒兎の方を見る。
あかねさんは舞で黒兎を強化中だ。
再度、斬りかかるタイミングを計っていると、蟒蛇甲に動きがあった。
ヴゥゥォォォン……
低く唸ったかと思うと、蟒蛇甲の周囲に二体の和鰐が出現した。
キシャァァァ!
さらに吠えると、何か指示をしたのか、一体はこちらに、そしてもう一体は黒兎の方へ向かって動き出した。
速度を上げて突っ込んでくる。
「速い」
わたしはとっさにかわす。
「黒兎、気を付けて。前より速い!」
「わかった、あやめも気を付けろ!」
黒兎も和鰐に対応している。
わたしはコスチュームに魔力を込める。
この衣装は妖精女王の加護のせいか、魔力を込めると防御力と素早さが上がる。
なので、あかねさんの支援が無くても十分に戦える。
和鰐の攻撃を避けながら黒兎を見ると、苦戦しているようでも、どこか余裕のようなものが見える。
あかねさんが舞で何かしているんだろうなーと思いながら、和鰐の攻撃を捌いていく。
そして、動きに慣れてきたので魔力刀に力を込め――
「ここっ! 風のヤイバー!」
ザシュッ!
グオオォー……
和鰐を一閃。
和鰐はうめき声のような声を上げ、黒いモヤとなって消えていった。
黒兎はまだ戦っているが、手助けは必要なさそうだ。
そして、わたしは蟒蛇甲を睨む。
「さぁ、勝負よ。大怪獣さん」




