第三話 黒兎の過去
あやめは、改めて黒うさぎに尋ねた。
「えっと、とりあえずは、敵じゃないってことでいいんだよね?」
「あゝ」
「それでさ、色々、質問とかあるんだけど」
「なんだ?」
「なんでお社のところで倒れてたの?」
「あれは、封印が解けて外に出たら、思いのほか腹が空いてて動けなくなって気を失ったようだ」
「……」
「あ、うん」
「気が付いて何よりなんだけど、封印?」
黒兎は部屋を見回す。
「随分と年月が経っているようだ」
「俺はどうやらあの社に封印されて祀られていたと思う」
「思う?」
「何しろ壺に入った覚えが無い」
「な、なるほど……」
「あと、壺から出て辺りを見ようとしたら、空腹のあまり倒れた」
「その後に私が来たわけね」
「今更だけど、黒兎さん?黒兎くん?黒兎ちゃん?呼び方確認していい?」
「黒兎でいい」
「じゃあ、黒兎」
「……」
「……あやめちゃん」
「……もう少し年上を敬え」
「そんな細かいことは気にしない」
「……」
「黒兎って妖なんでしょ?」
「あゝ」
「なんで封印されていたの?」
黒兎は静かに語り始めた。
「俺は元は人間だった。
白兎一族――妖を祓うことを生業としていた退魔の一族の者だ。
ある日、ある妖を祓う依頼があった。
派遣されたのは、一族の長の娘である白兎あかねと、白兎黒兎、つまり俺との二人だった」
◇
「黒兎、これが終わったら帰りにどこか寄り道しない?」
白兎あかねは無邪気に話しかける。
「あゝ、いいが、どこへ行きたいんだ」
「温泉なんていうのもいいわね」
一族の中で、俺とあかねは数少ない同年代だ。
あかねは神楽を得意とし、土地の浄化や戦闘の支援を担う。
俺は体内に気を集め、それを直接ぶつけることで妖を祓っている。
二人の相性は良く、一族の中では将来は夫婦にという話も出ていた。
今回の依頼は、村人が度々姿を消しているというもの。
妖の仕業であるかどうかを調査し、可能なら討伐する。
被害もまだ大きくなかったことから、俺たち二人が派遣された。
調査は順調に進み、妖の潜伏先もおおよその見当がついた。
潜伏先であろう、村の者も滅多に近づかない古くから何かがいるという大池に歩みを進めていく。
すると、黒兎が顔色を変える。
「あかね、前から何か来るぞ!」
「わかったわ!」
あかねは素早く神楽を踊る。独特の一挙手、一足と舞う度に黒兎に力が集中していく。
黒兎は黒兎で気を練り上げる。
息の合った連携である。
やがて、前方より妖が現れる。
大きい。
大きな顎に蛇のような長い身体。そして、鋭い爪を備えた四肢が生えている。
「何あれ?蛇?鰐?」
「さあな、和鰐とでも呼ぶか。でも、陸でも動けるようだし、厄介だな!」
黒兎は一直線に和鰐に向かう。
和鰐は身構え、迎え討つつもりのようだ。
あと少しで黒兎が届くというところで、尻尾が鞭のようにしなり攻撃してくる。
黒兎は尻尾の攻撃を一撃、二撃と身を翻して紙一重で躱しながら、和鰐の懐に潜り拳を叩き込む。
「オラァッ!」
和鰐は少し蹌踉めくが反撃とばかりに噛みついてくる。
「グオオオオオ!」
黒兎は咄嗟に横に飛び退き、噛み付きを躱すと、和鰐に隙ができた。
「うりゃあ!」
「ドゴォォン!」
素早く距離を詰め、全力の上段蹴りを入れると和鰐は吹き飛び動かなくなった。
慎重に近づき和鰐を確認する。
「やっぱり、これ、見たことが無いな。足があるけど鰐の一種みたいだ」
「……そうね」
「不味いな、どうする?
水の中だと俺たち二人では荷が重い、一度、里に戻るか」
「戻るにしても、古池の確認をしてから戻りましょう」
「わかった。今のがまだいるかもしれない。慎重に行くぞ」
二人は油断せずに足取りを進める。
すると、鬱蒼とした木々に囲まれた大きな池が見えてきた。




