第二話 目覚めた黒うさぎ
まだ黒うさぎは目を覚まさない。
「もう一度、しずくさんが帰ってきてるか見てこよう」
私は黒うさぎに声をかける。
「ちょっと出てくるね」
そう言い残し、部屋を後にした。
◇
「……う」
「……うーん」
ゆっくりと黒うさぎが目を開く。
「……ここは」
見慣れぬ部屋。
辺りを見回し、皿の上に山のように積まれた緑色の野菜へ視線を向ける。
「……供物か」
空腹だった。
「いただこう」
一つ口に運ぶ。
「……」
もう一つ。
「うわっ、なんだこれ」
「不味くはない……不味くはないんだけど、この独特の青臭さと何とも言えない苦味との調和……」
山盛りのピーマンを見つめる。
「これ食べるのか……」
少し考えた後、小さく息を吐く。
「でも、お残しを許さない俺様の信条が食べない事を許さない」
黒うさぎは黙々とピーマンを食べ始めた。
そのたびに、失われていた力がほんのわずかに戻っていることにも気付かずに。
◇
「ピンポーン」
「しずくさーん、いますかー?」
「まだ帰ってきてないか……」
「メモだけ置いておこう」
しずくさんへ
変なうさぎを拾ったので、
帰ったら部屋までお願いします。
あやめ
「これでよし」
◇
「ただいまー」
いつもの癖で、部屋に戻ると挨拶をする。
ふと視線を向けると、黒い毛玉と目が合った。
「あ、起きたんだ」
黒うさぎは固まる。
「ピーマン食べたんだね」
「美味しかった?」
「……」
「ピーマンというのか、何とも言えない青臭さと苦味だった」
「そっかー」
「ピーマンならまだあるから、追加で出そうか?」
「……今はいい」
「と、言うか!」
「やっぱり普通に話せるんだね」
ここで、あやめは切り替える。
「やっぱり?」
黒うさぎは首をかしげる。
「ああっ! ……そういえば、何故、普通に受け入れている!?」
「あー……そこは私にも色々あるのだよ、うさぎさん」
「それで、私は風見あやめ、うさぎさんは?」
「俺は……」
ピンポーン。
ガチャ。
「あやめちゃん、どうかしたの?」
呼び鈴とともに、しずくが部屋へ入ってきた。
その瞬間、しずくの表情が変わる。
「あやめちゃん! 離れて!!」
しずくはあやめを庇うように、黒うさぎとの間へ割って入った。
「え、えーー!」
「あやめちゃん!あれがどういう存在か分かってるの!!」
「えっと、黒いうさぎさん?」
「あれは妖よ!」
「え?妖精じゃないの?てっきり妖精界の人かと」
「妖というのは邪悪で危険な存在なの!このままにしておけないわ!」
「ちょっ、ちょっと、ちょっと、落ち着いてください!しずくさん!!」
「落ち着いてなんかいられないわよ!」
「いや、落ち着いてください!」
「ピーマン食べる妖なんていますか?」
「ピ、ピーマン?」
「今、丁度、自己紹介してくれるところだったんです!話を聞いてください!」
◇
「コホン!」
「ちょっと取り乱しました。大人しく待っていてくれてありがとう」
「では、改めまして。私は風見あやめ」
「この部屋を借りてます」
「危険はないと思って、ここへ連れてきました」
しずくの方をちらりと見る。
「そして、こちらが水森しずくさん」
軽く会釈するしずく。
「どうも」
「この建物、フェアリーハイツの持ち主で管理人さんです」
「さっきの会話で察してるかもしれないけど、私たちは妖精という存在を知っています」
「で、うさぎさんは?」
「あー、俺の名前は黒兎」
「ご察しの通り妖だ」
「でも、俺は人に危害を加える気は無い」
黒兎は言い切った。
「えっと、妖って何?」
しずくと黒兎に視線を泳がせる。
すると、しずくが答えた。
「妖っていうのは、日本では人ならざるものの総称よ。その中には、人に害を与えるものが多いわね」
黒兎に視線が集まる。




