第三十四話 偶然じゃなかった
「えっと、何かあったんですか?」
起きたばかりのあやめは照れながら、あかねに尋ねる。
「あやめちゃん、このハイツの庭で男の人と一緒に倒れていたんだよ」
「何か覚えてる?」
「男の人?」
「……」
目をつぶり、あやめは記憶をたどる。
「あっ」
「叔父という人が訪ねて来て……わたしに子供を産めと迫ってきて……断って……」
「……ん? どうしたの?」
「断った辺りから記憶がありません」
「気が付いたら、あかねさんがいました」
「そっかー」
「じゃあ、その時だね」
「何がです?」
「あやめちゃんの体から、まだ神威が残っているのを感じるから間違いないとは思うんだけど、白面の豊穣神様が、あやめちゃんを依代にして現世に顕現したみたい」
「……えっ?」
「そして、その叔父さんに何らかの罰を与えたんだと思う」
「だから、一緒に倒れていたのかも」
「……」
「あ、叔父さんは起きると面倒だと思って、しずくさんに相談したら救急車を呼んで連れて行ってもらったよ」
「あ、ありがとうございます」
「その辺りは全然記憶が無いので……」
「わたし、神様に助けて貰ったんですね」
「たぶんね」
「だったらお礼を言っておかないと……」
「神様、ありがとうございました」
あやめは手を合わせてお礼を言った。
◇
「あやめちゃんは?」
しばらくしてから、しずくさんが尋ねて来た。
「横になってるけど、さっき目が覚めたところよ」
「ご心配かけてすいません」
わたしは目覚めはしたが、調子が戻ってなかったので横になっていた。
「あーいいのいいの、まだ横になっておきなさい」
「それにしても、あの一緒にいた男の人って何?」
「一応、叔父さんみたいです」
「わたしに子供を産めと迫ってきて、断ったあたりから覚えてなくて、今、目が覚めた感じです」
「そうなんだ、でも、倒れていたし、どこか体におかしいところとかない?」
「平気みたいです、ちょっとだるい感じはしますが」
「そっかー、お腹空いてない? 何か食べる?」
「空いてます! 食べます!」
わたしの代わりにあかねさんが食い気味に答えた。
◇
ご飯の後、そういえばと話を出してみる。
「叔父さんが言うには、わたしのお父さんとお母さんって、どうやら妖に殺されたみたいです」
「え?……」
「この周辺の調査をしていたみたいで、わたしが通っている高校の敷地内で襲われたみたいです」
「そっか……3年前の話を知っちゃったか」
「……?」
「私、その現場にいたわよ」
「……え?」
「あなたのお父さんとお母さんが亡くなった時、私もそこにいたの」
「……」
「偶然、近くを通りかかっていてね、妖精界に似た空間が出来ていたから飛び込んでみたの。 そうしたらトカゲのような妖と戦っていてね、二人はすでに動けない状態だったわ」
「……」
「妖はわたしが倒したんだけど、間に合わなかった……」
「成り行きだったけど、二人の最期も見届けたわ」
「……ありがとうございます」
「最期まで、あやめちゃんのことを心配してたわね」
「そうですか……」
少しだけ胸が苦しくなる。
でも、不思議と悲しいだけではなかった。
最後までわたしのことを考えてくれていた。
それが分かっただけでも、少し嬉しかった。
「二人の最期の願いはあなたを見守って欲しいだったの」
「だから、私は出来る範囲でと了承した」
「それで、あやめちゃんの様子を見に行ったら……公園にいたから、声をかけちゃった」
「……じゃあ、あの時のは偶然じゃなかったんですね」
「まあね、でも、声をかけてよかったと思っているわよ」
てへっ、としずくさんは照れくさそうに笑った。




