第三十三話 あの日の記憶
「今、白面の豊穣神様の気配がしたような……」
あれだけ騒いでいたのに、今頃になって部屋から出てくるあかね。
そして――
「あやめちゃん、どうしたの!」
倒れているあやめに気づき、慌てて駆け寄る。
スー……スー……
ゆっくりとした寝息が聞こえる。
「よ、よかったー」
あかねはホッと胸を撫で下ろす。
そして、その横に倒れているおっさんを見る。
「誰、こいつ?」
「白面の豊穣神様の神威を感じるけど……一体何があったのよ?」
「でも、悪そうな顔をしてるし、きっと悪人ね、こいつ」
あかねは正人をじーっと眺める。
「それに、あやめちゃんから神威を強く感じる……」
「きっと白面の豊穣神様が、あやめちゃんを依代にして、こいつを懲らしめたのね」
「とりあえず、このおっさんどうしようかな?」
ここで目覚められても面倒だなと考えているとしずくが帰ってきた。
「しずくさん、このおっさんどうしよう?」
「たぶん、あやめちゃんに悪さして、白面の豊穣神様に懲らしめられたみたいなんだけど」
「……あやめちゃんは?」
「大丈夫。眠ってるだけみたい」
「そう……」
しずくはあやめの様子を確認したあと、倒れている男を見る。
「目覚めたら暴れそうね……」
「どうする?」
「救急車を呼んで、あとは任せましょう」
「そうね」
◇
わたしは夢を見ていた。
両親が死んだ頃の夢だ。
あの日、小学校から帰宅すると両親はいなかった。
めずらしく、今日は早く帰るから一緒にご飯を食べようと言っていたのに。
夜になっても帰って来ない。
今日はもう寝よう。
そう思った頃、電話が鳴った。
警察からだった。
両親の遺体を預かっているとのことだった。
聞いた瞬間、わたしは頭が真っ白になり、その場に立ち尽くしたんだと思う。
しばらくすると、警察の人が心配して迎えに来てくれた。
そして、警察で両親と対面した。
衣服は酷く血で汚れ、そこかしこ破れている。
ただ、二人とも何故か満足そうな笑みを浮かべているようだった。
わたしは泣いたのか、それすら覚えていない。
ただただ、何が何だか分からなかった。
現実を受け止められなかった。
その後は警察の人や周りの大人に言われるまま、色々な手続きが進んでいった。
葬儀屋さんを紹介され、あれよあれよという間に両親のお葬式となった。
お役所とかの手続きについても色々教えてくれて、本当に助かった。
お葬式は一番安い家族葬を行った。
誰にも連絡していないのに、その日は叔父だという人が現れた。
そして、執拗にわたしを引き取るから来なさいと言ってきた。
その時の叔父という人の目。
粘着質で、わたしを値踏みするような目。
とても気持ち悪かったことだけは覚えている。
手を掴まれた気もするけど、その辺りの記憶はない。
気が付いた時には、その男の人が床に倒れていた。
葬儀場の人が倒れている男に気づき、救急車を呼んでいた。
知ってる人? って聞かれたから、
「知らない人です」
と答えておいた。
葬儀が終わり、家に帰る。
一人でトボトボと歩いていると、途中に公園があった。
誰もいないブランコが目に止まる。
何となく吸い寄せられるように、ブランコに腰を下ろした。
両親を思い出す。
楽しかったこと。
悲しかったこと。
一緒に過ごした日々は、どれも大切な思い出。
そして――
これから、どうしよう。
一人になったわたしは、途方に暮れていた。
「どうかしたの? お嬢ちゃん」
女の人に声をかけられたところで――
目が覚めた。
◇
「うっ、うーん……」
「あやめちゃん!」
呼ばれたような声が聞こえる。
うまく目が開かない。
薄目を開けると、ぼんやりと人影が見える。
女の人かな……
少しずつ視界がはっきりしてくる。
そして、目に入った女の人を見て――
「お母さん!」
「あら、残念、あかねさんですよー」
あかねは満面の笑みで答えた。
「あっ!」
間違いに気が付いたあやめは赤面した。




