第三十一話 約束
グアアアア!!!
和鰐は咆哮を上げながら、二人に向かって突進してくる。
◇
颯真はあやを抱きしめ、覆いかぶさるように身構える。
ドンッ!!!
和鰐の巨体が二人を捉え、そのまま吹き飛ばした。
ボロ雑巾のように転がる二人。
もう、動くことすら出来ない。
「そ、颯真……さん……」
「気が……ついたか、あや……」
「あや……、もう……俺は動くことができない」
「わ…わた……しも……動け……ません……」
「……最後……に、あ……やめに……会いたい……」
声もかすれ、かすかに漏れる。
グアアアア!
これでトドメとばかりに咆哮と共に和鰐が突っ込んで来る。
すごい勢いで迫りくる和鰐。
押し潰されるというところに、巨大な光の玉が飛んでくる。
ドーンッ!
グオオオ!
大きな音と共に吹き飛ばされる和鰐。
「何か神聖な感じがするから来てみたら大惨事ね」
突如として、買い物かごと長ネギを手にした謎の女性が現れる。
女性は颯真とあやを見て――
「あなた達、大丈夫?……では無さそうですね」
状況を確認する女性。
「この結界の中は妖精界と似た空気を感じます」
「ここならある程度の力は使えそうです」
そして——
「まずは、あの化け物を倒せば良さそうね」
それではと女性はポーズを取り。
「変身」
女性は光に包まれて衣装が変わっていく。
くるりと回りながら新しい衣装へ。
光が収まると、長ネギは長い杖へと変わり、そこには白を基調としたフリルのミニドレスを纏った女性がいた。
「ま、魔法……少女……?」
その姿を見て颯真は思わず声を出す。
「ち、違うから!」
すぐさま否定する女性。
「だから、この衣装が嫌なのよ……」
聞こえないような小さな声で女性は言った。
「ただ、無駄に性能は良いのよね……」
しみじみ呟く。
「それは兎も角」
和鰐を見据え——
「あの化け物をなんとかしてみますか」
女性は起き上がってきた和鰐に向けて杖を向ける。
「集いし光よ、輝きとなり、閃光となれ」
杖の先に光が灯り、やがて光は大きな玉になる。
そして――
「シャイニング・バスター」
光の玉が小さく凝縮し、周囲の音が消えた直後に世界を白く染める閃光が走る。
閃光は光の束として撃ち出され、和鰐を貫いた。
グルル……
撃ち抜かれた和鰐はやがて黒い霧となり周囲に溶け込むように消えた。
◇
「気休めは言わない」
「あなた達、もう助からないわ」
颯真とあやのもとに戻った女性は、包み隠さず告げる。
「その傷は致命的」
「あと、傷もさることながら、邪気による穢れが体中に回っています」
「ここまでの穢れは、よほど高位の浄化を施さないと祓えません」
「もう、長くは保たない」
「そちらの方も多少出来るようですが少々力が足りないようです」
「そう……ですか……」
「……」
颯真とあやは残念そうな顔をする。
女性は、でしたらという感じで提案する。
「ここに来たのも何かの縁です」
「私に可能なことならお手伝いしましょう」
「誰かに伝えたいこととか、してほしいことがあれば言ってみてください」
二人は顔を見合わせたあと、あやが口を開いた。
「わたし達……の間には……娘が一人……います」
「出来れば……可能な……範囲で構いません」
「見守って……いただけない……でしょうか」
「しっかり……とした娘なので……放っておいても……生きて行けると思いますが……」
「わかりました」
「可能な範囲で見守ることを約束しましょう」
女性はあっさりと了承する。
「ありがとう……ござい……ます」
「よろし……く……お願い……します」
「……」
「……」
二人はお礼を言うと程なくして息を引き取った。
女性は膝を折り、二人に祈りを捧げ——
「お疲れ様」
「約束はきっと守りますよ」
そう言うと変身を解き、町の中へと消えていった。
◇
数日後。
女性は公園のブランコで黄昏れている少女を見つける。
「どうかしたの? お嬢ちゃん」
「えっと……?」
「どうにも尋常じゃない感じで黄昏てるから、声をかけちゃった」
「えー……、まぁ、そうなんですけど……」
「あ、ごめんなさいね。私は水森しずく」
「風見あやめです」
「どうかしたの? 大丈夫?」
「大丈夫と答えたいところなんですけど、人生について一人で考えてるところです」
「一人で考えていても仕方ないから、お姉さんに話してみたら? 案外なんとかなるかもよ?」
「まぁ、そうですね」
「身の上話ですけど――」
「先日、交通事故で両親を亡くしました」
「それで、施設に入るか、一人暮らしをしようかを迷ってましてー」
「一応、成人まではなんとかなる気はするんですけど、節約はしたいし、どうしようかなと考えてました」
「そっかー」
「だったら、お姉さんのところに来る?」
「アパートを経営してるんだけど、そうねー、家賃は月8000円でどうかな?」
「お願いします!」




