第二十六話 あやめの神力
「あかねさん、神楽を教えてください」
「いいわよ」
「まずはどうする?」
「そうですね」
「なんか、わたしの神楽は効果が強くなるみたいなので、少し見てもらっていいですか?」
「わかった」
「先に神域張るので、どう違うのか見てください」
あやめは立ち上がり、呼吸を整えると、一つ一つの所作を丁寧に重ねて舞った。
背筋を伸ばし、ゆったりと足を運び、静かな所作、音の無い空間で静かに舞い始めた。
そして、一礼して終わる。
「動きは、悪くないかな」
「舞自体は間違いなく、『結界の舞』」
「ただ、効果は間違いなく『神域』」
舞を終えたあやめに、あかねは静かに声をかける。
「まずは、気づいたことを言うわね」
「はい」
「神楽は単なる踊りではなく、神様への感謝を祈りとして所作で現してるの」
「そうね——空間を意識することや、方向を変える際、丁寧に向きを変える」
「滑らかな足運び、丁寧な体重移動で左右の足へスムーズに体重を移すこと」
「手首を柔らかく、指先の動きまで意識する」
「細かいことだけどね」
「はい」
「それと、呼吸かな」
「呼吸?」
「神楽の基本は、丹田呼吸、逆腹式呼吸、鼻吸口吐、それに吐く息で動くこと。これらをうまく組み合わせて舞います」
「呼吸がもたらす効果は重心が下がること」
「深い呼吸により横隔膜が下がり、自然と腰が落ちてすり足が安定します」
「その辺りが、今のあやめちゃんに不足していることかな」
「何事も基本が大事ってこと」
「お腹の下の丹田を意識して、深く静かに呼吸する。息を止めると身体に余計な力が入るから、動く時にゆっくり吐く感じ」
「後でお手本を見せるから練習しましょう」
「はい」
「一応、効果が発動しているから、舞に関しては問題無い」
「細かな所作を改善して、呼吸を練習して、無駄な力を抜ければ通常の効果を出せると思う」
「ただ——」
「?」
「あやめちゃんの場合、神様にお祈りして、力の一端をお借りしているというよりか、力をお借りするきっかけを神楽で作って、後は自分の力で補ってるのよ」
「??」
「つまりは、あやめちゃんは舞の効果を神様から借りずに自分で出してる」
「えっ???」
「気が付いてないんでしょうけど」
「あやめちゃんの神力……」
「私がこれまでに会った人の中では、一番多いかも」
(……白面の豊穣神様に近いかも?)
「だから、無意識でも舞った時に効果が出てしまってる」
「でも、コツを覚えたら、力加減が出来るはずなので」
「しばらくは、毎日、練習しましょう」
「はい!」
◇
「あやめちゃんは、どんな神楽を覚えているんだっけ」
「この『神域の舞』、『力の舞』、『守護の舞』、『豊穣の舞』、『浄化の舞』の5個みたい」
「黒兎に見てもらったけど、専門じゃないとか言ってたし、あかねさん、また、見てください」
「わかった」
「でも、新しく教えるのは何にしようかな……」
「あやめちゃん」
「なに?」
「お社の結界を覚える?」
「あの、お社がわからなくなるやつ?」
「そう」
「あれ、すごいよね」
「あれって、結界の舞と隠形の舞に神力を込めて、重ねがけしたものなの」
「細かい設定は、舞う時に念じることで決められるんだけど」
「今覚えているので基本的なことは出来るから」
「とりあえず、隠形の舞はどう?応用効きそうだし」
「そうですね、それでお願いします!」
◇
「ねぇ、あかねさん」
「なーに?」
「お母さんの実家の話って、何か知りません?」
「聞いたことがないんですよね」
「あやちゃんの実家の話かー」
「あやちゃんのお母さんは、妖を退治に行った時に亡くなったとしか聞いてないかな」
「私って、現世に来る時は来るけど、来ない時は五十年くらい間が空くこともあるから、守り人全員を知ってるわけじゃないんだよ」
「白兎一族のご先祖様は白面の豊穣神様の眷属として、妖と戦っていた時期があってね」
「そのことが関係しているのか分からないけど、白兎一族に生まれる女には神力を持つ者が多くて、男には気力を上手く扱える者が多かったの」
「だから、女は巫女として神楽を舞い、神様からお力の一端をお借りする」
「男は気力を使って戦う」
「そうやって、代々、妖と戦って来ましたが」
「今となっては、あなたしか残っていません……」
「だから、もう伝統とか仕来りとか、そういうものを無理に残す必要はありません」
「あやめちゃんは、あやめちゃんの好きにしていいんです」
「ただ、今、神楽を上手く扱えるようになることは、あやめちゃん自身のためになると思う」
「だから、覚えておいて損はないはずです」




