第二十一話 神使(しんし)
「これが、本来の姿です」
そう言うと、あかねの体が淡い光に包まれた。
そして――
現れたのは、白衣に緋袴、それに薄いうさぎの絵柄が入った千早を着た少女がだった。
「お母さん!」
思わずあやめは叫んだ。
「えっ? お、お母さん?」
「こほん」
「失礼しました」
「母にあまりにもそっくりだったもので……」
取り繕うあやめ。
「本当にあかねなんだな……」
人型の姿を見て黒兎はあかねだと認識する。
「そうね。あやめちゃん、あかねちゃん。ちょっと二人並んでくれる」
「「はい」」
しずくに促され、あやめとあかねは並んで立つ。
「双子みたいね」
「本当だ、鏡を見てるみたい」
「あー、誰かに似てると思ったら、あかねだったんだな」
各々感想を言う。
「黒兎……」
これだけ似てるんだから、もっと早く気づけと思うあかねであった。
「ついでに、黒兎も人型になる?」
悪気なく提案するあやめ。
「ま、まて、今は不味い!やめてくれ!」
少し慌てる黒兎。
「え、呪いが解けるの?」
「解けるよ」
あやめが答える。
「ただ、黒兎が裸になるけどね!」
善意100%のあやめ。
「や、やめろー!」
にっと笑うあやめ。
「やめてくれ!!」
「まあ、着る服無いし、また今度ね」
◇
ところで、と仕切りなおす。
「黒兎からは蟒蛇甲と戦ってうさぎになってる経緯は聞いたんだけど」
「あかねさんが知ってる経緯を教えてもらってもいいですか?」
「お互いに似てることも無関係ではなさそうですし」
「そうねー」
「黒兎が蟒蛇甲から逃がしてくれた後、私は急いで白兎の里へ戻りました」
「でも、私自身も満身創痍で……数日間は動くことすらできなかったんです」
「事情を話すと、里では手練を呼び戻し、人を集めて討伐隊を編成することになりました」
「でも、私は待てなかった」
「動けるようになった私は里を飛び出し、一人で黒兎のもとへ戻ったんです」
「すると、そこには黒うさぎの妖がいました」
「黒兎の姿はないのに、その妖からは黒兎の気配がする」
「しかも、その姿は薄くなっていて、今にも消えてしまいそうでした」
「どうにか助けようと、神楽で結界を張ったり、思いつく限りのことは全部試しました」
「でも、何一つ効果はありませんでした」
「もう、どうすることもできなくなって……」
「私は空に向かって叫びました」
「――黒兎が消えちゃう! 神様、助けてください! って」
「すると、応えてくださったんです」
「白面を付けた神様が」
「白面を付けていたのは、この土地の神様ではなく、他所を司る神様だったからです」
「姿や御名を隠さなければ、この地へは来られなかったそうです」
「白兎一族では、そのお方を『白面の豊穣神様』と呼び、古くからお仕えしてきました」
「私は、その系譜に連なる者でした」
「だから私の願いと、蟒蛇甲を撃退した黒兎の功績を認め、力を貸してくださったんです」
「神様はおっしゃいました」
「このままでは黒兎は消えてしまう」
「助けるには、外界と隔絶した空間へ封じ、長い時間をかけて傷を癒やすしかない、と」
「そして、壺へ封印する方法を教えてくださいました」
「その時です」
「神使にならないか、と声を掛けられたのは」
「神様のお話では、黒兎が撃退した蟒蛇甲は、神々の間でも警戒されていたほどの妖だったそうです」
「人を襲い、穢れを撒き散らし、土地を腐らせる」
「もし力を蓄えていたら、厄災となっていたでしょう、と」
「そして、なぜ黒兎が勝てたのかと、不思議がっておられました」
「黒兎の傷が癒えるにも、蟒蛇甲が再び目覚めるにも、とても長い年月が必要です」
「その時を待つには、人の寿命では足りません」
「だから私は、もう一度黒兎に会うために、神使になることを選びました」
「神使となった後、白兎一族に封印の壺を祀るお社を建ててもらいました」
「守り人を置き、お社を守ってもらうことにしたんです」
「結界は、その後に私が施しました」
「あやめさんがお社へ入れたのは……」
「きっと、白兎の守り人の末裔だからなのでしょう」




