第十六話 浄化の舞
「はーーっ」
ため息と一緒にがっくりとうなだれる黒兎。
「お疲れだね、黒兎」
黒兎はあやめをにらみつける。
「誰のせいだよ! 誰の!」
「どこに、何もない所に切れ目を入れられるやつがいるんだよっ!」
「まぁまぁ、落ち着き給え、黒兎くん」
「過去のことをいつまでも引きずってはいけないよ」
どこ吹く風で軽く黒兎をなだめるあやめ。
「はーっ」
黒兎は改めて小さなため息を付いた。
「さあさ、お待ちかねの神楽の確認だよ!」
「お前、切り替えはえーな……」
「時間は有限なのだよ」
「それで何からする?」
「神域は出してるから、あと4個だな」
「まずは、この間使ったやつやってくれ」
「わかった」
あやめは姿勢を正して舞う。
黒兎の身体に力が漲る。
「ふむ」
「これは『力の舞』だな」
「あかねもよく使ってたやつだ」
「へぇー」
「やっぱり、何か関係あるのかな?」
「さあな」
「あと、お前の『神域の舞』も見覚えがある」
「たぶん、あかねが使ってた『結界の舞』と同じだと思う」
「ただ、効果が段違いだ」
「あかねのはせいぜい弱い妖を結界から出にくくする程度だが、お前のは強い妖もいけると思うし、何より妖が弱体化したし、俺は力が上がった」
「意味がわからん」
「へへーん」
「あやめちゃんはすごいのだ」
無い胸を張るあやめ。
「あー、はいはい」
「次、行くぞ」
「では、教わった順に」
あやめは姿勢を整えた。
そして、先ほどと違う舞をする。
黒兎の身体を何かが包む。
「ほー」
「これは『守護の舞』だな」
「相手からの威力軽減だな」
「これもあかねと同じだな」
「そうなんだ」
「あやめには変化あるのか」
「私は普段通りかな」
「何も無いよ」
「じゃあ、次はこれ」
あやめは次の舞をする。
「これは『豊穣の舞』だな」
「土地に使えば生育の助けになる」
「あと、人に使えば傷の癒えが早くなるな」
「へー」
「そんなことが出来るんだ」
「じゃあ、これが最後」
「これすると、なぜか結構疲れるんだよね」
と言うと、あやめの顔が先ほどとは打って変わって真剣になる。
そして、舞い始める。
周りの空気が変わる。
緊張感と静寂。
見ている者が息をのむような、張り詰めた神聖な空気を作る。
静かな動作。
無駄な動きをせず、ゆっくりとした歩みや手振りを保つ。
手を優しく振り、一つ一つの動作が空間を清めていく。
そして一礼して終わる。
シャンッ
礼をした瞬間、清らかな風が行き渡るように周囲が変わったかのようだ。
あやめは肩で息をしている。
「大丈夫か?」
声をかける黒兎。
「だ、大丈夫、ちょっと疲れただけ」
返事をするあやめ。
そして、視線を上げて、黒兎を見上げる。
「きゃあああああああああーーー」
「だ、だ、だ、誰???」
「何言ってるんだ?」
と言いつつ自分を確認する黒兎。
そこには、人間の姿で真っ裸の自分がいた。
「え、あ、お、な、おまっ」
慌てまくる黒兎。
「ちょっ、落ち着け!」
「俺もさっぱりわからん!!」
「兎に角、冷静に、冷静になれ!」
「むー——りーーーっ!」
気が付くと魔力刀が投げつけられていた。
ヒュン
咄嗟にかわす黒兎。
フッ
間一髪。
黒兎は黒兎の黒兎くんをほんのちょこっとだけ掠めながらも躱すことに成功。
「ま、まて、まて、まてーー!」
「もう少しで黒兎の黒兎くんが黒兎くんと別れて黒兎くんでなくなるところだったぞ!」
「うるさい!」
「いいから落ち着け!!」
「早く隠せ!!!」
◇
「とりあえず、落ち着いたか?」
「うるさい!」
「年頃の乙女に何てものを見せるのよ!」
「そうは言っても俺のせいじゃ……」
あやめに睨まれてたじろぐ黒兎。
その手はしっかりと黒兎くんを隠している。
「それで、何かわかった?」
「今のは『浄化の舞』だと思う」
「不浄な土地に使って清めるとか呪いを解く時に使うとか」
「俺の知ってる舞とは違い効果が強すぎるが……」
「そうなんだ」
「あっ」
「だから、俺の妖の呪いが解けたのか……」
「そんなことより」
「そんなことよりって……」
「この後、どうするの?」
「この後?」
「人間なら、食費、衣食、住むところ」
「結構、お金掛かるよ?」
「あっ」




