第十話 妖精女王の衣装
あの川原での戦いの後、一度、新聞配達のお店に自転車を置きに帰った。
アパートに戻ると、しずくさんが居た。
「あやめちゃん、妖と戦ったって本当!」
「うん」
「成り行きで戦うことに」
「実際、戦ったのは黒兎だけど」
「そう」
「でも、攻撃を受けたって聞いたわよ」
隅のほうで、気まずそうに小さくなり、黒兎はこちらを見ていた。
「うん」
「トカゲみたいなやつの尻尾の攻撃を1回だけ貰ったよ」
「でも、不思議と何ともなかったよ」
「……そう」
「夜、話があるから寄るわね」
そう言って部屋に戻っていった。
「あやめ」
「何?黒兎」
「あの人……おっかないな……」
「そう?ま、それだけ心配してくれてるんだよ」
「ありがたいよね」
◇
「黒兎」
「なんだ、あやめ」
「朝ごはんはちゃんと食べた?」
「いや、食べようとしたところで、出くわしたから食べてない」
「そっかー」
「まあ、これでも食べて」
そっと差し出されるピーマン。
「おう」
「ありがとな」
しゃくりしゃくりと噛み締めて食べる黒兎。
やっぱり、使った妖力が戻る気がする。
あやめは不思議な奴だなと黒兎は改めて思った。
◇
「あやめー」
涼しいところで夏休みの課題でもしようかと外に出たところでゆいさんに呼び止められた。
「どこ行くの?」
「暑いし図書館でも行こうかと」
「そうなんだ」
「私も大学行くところだから途中まで一緒に行こう!」
◇
「しずくさんから聞いたよ」
「あやめ、妖と戦ったんだってね」
「黒兎に詰め寄るところ、部屋まで声が聞こえてたよ」
「そうなんだ」
「そうだよー」
「めちゃくちゃ心配してたよ」
「うん、気をつける」
……ほんとかな
◇
図書館から戻り、昼食、洗濯、掃除。
そして、新聞配達から戻り暫くした頃に、大きな袋を携えて、しずくが訪れた。
ピンポーン
「はーい」
「あやめちゃん、今、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「どうぞ」
「あやめちゃん、ちょっとお話をしましょう」
◇
真剣な眼差しで、しずくが話し始めた。
「まず、今日、あなたに怪我が無かったのは、妖精の加護が付いたジャージを着ていたから」
「それと、人間で魔力を持っているだけでも珍しいのに、あやめちゃんはその中でも飛び抜けて魔力が多いからよ」
「そのどちらも欠けていたら、今頃は大怪我、運が悪ければ死んでいたかもしれません」
「今回は、たまたま運が良かっただけです」
「……はい」
「そうは言っても、今、この町はそんなことも言ってられるような状況でも無いみたいです」
「黒兎くんと一緒にいるなら、避けて通ることは不可能だと思います」
なので、と袋の中から一着の衣装を取り出し、机の上へ置いた。
「この衣装を、あやめちゃんに渡します」
「これは?」
あやめが衣装を広げる。
「この衣装は、かなりの妖精の加護が込められた特別なものです」
「でも、その前に一つ説明しておくわね」
「まず、あやめちゃんは魔法少女ではありません」
「えっ!」
違うの?と驚くあやめ。
「当時の対戦相手が私だったことから、ものすごく制限を掛けた契約になっててね」
「正確には、登録した服に魔法少女風の変身が出来る女の子」
「妖精の加護の付いたジャージやスクール水着に着替えると、汚れ落としと基礎体力がちょっと上がる能力を手に入れただけの」
「魔法少女風女の子(仮)なの」
「それで、この衣装はジャージやスクール水着とは比べものにならない程の加護が込められています」
「言うなれば、これが本物の魔法少女衣装」
「これは、歴代の妖精女王が、あやめちゃんくらいの年の頃に着ていた正装なの」
だから、と続ける。
「歴代の妖精女王の加護が付加された衣装よ」
「ついでに言うと、あやめちゃんが着ているジャージとスクール水着は私があやめちゃんの体型くらいの時に着ていたものよ」
「だから私の加護が少し付いただけの衣装ね」
あやめちゃんを勧誘した子が私の衣装棚から勝手に持ち出したものなのよと、しずくはため息交じりに言った。




