第九話 神楽の力
「ただいまー」
「おかえり」
いつもの調子で誰もいない部屋に挨拶したら返事が返ってきた。
「あ、黒兎、居たんだ」
「出かけた時から居たぞ」
「そうだっけ」
「まあ、いいや」
「丁度聞きたいことがあったし」
「聞きたいこと?」
「黒兎がうさぎになった事件の最初ってどんな感じだった?」
「最初か?」
「そうだな……」
「最初は、村の者が一人、畑仕事から戻らなかった」
「村の者は、何かあったのかとは思ったが、気まぐれで出かけたのかもしれない。そのうち戻るだろうと、誰も深く考えなかった」
「だが、二、三日経っても戻らない」
「捜索しようという話になった矢先、さらに一人、また一人と姿を消した」
「そこで、俺たち一族に調査依頼が来た」
「村人から話を聞き、地形も調べた結果、行方不明になった者は池がある方角で作業していた者ばかりだとわかった」
「だから調査範囲を池の周辺へ広げた」
「……そこで、和鰐と遭遇した」
「まあ、こんな感じだな」
「それでどうした?」
「なにかあったのか?」
「わからない」
「でも、私の学校の女の子が行方不明になってるみたい」
「何か関係あるかなって?」
◇
次の日の朝。
「さて、今日も頑張って配達に行きますかー」
普段通りジャージに着替えて新聞配達に出掛けるあやめ。
「黒兎は……居ないな。朝食かな」
「出かけたみたいだね」
◇
それにしても
「今日は早朝なのに人が多いな」
「ひょっとして、行方不明の人を捜索してる人たちかな」
やっぱり、ニュースの事件って、この近所なんだなと思いながら新聞配達を続ける。
◇
「これを投函したら最後だし」
「黒兎がどんな草を食べてるのかもちょっと気になる」
「川原を覗いてからお店に戻るかな」
川原に近づくと何やら変な音が聞こえる。
ザザザ、ドスン、ズバッ、ザザザ、バキッ、ズバッ、ヒュン、ザザザ、ドスッ
「なんだこれ……」
姿は見えないけど、川原の草に線が走る。
そして、草の切れ目から黒兎が飛び出した。
続けて、何か大きいものも。
「え、ワニ?トカゲ?」
黒兎がよくわからないものと戦ってる。
聞こえるように大きな声で呼びかけてみる。
「おーい、黒兎ー、何やってるの?」
「弱肉強食ごっこ?」
「そんなわけあるかー!!」
なにやら黒兎は激おこである。
「あやめ!そこにいるなら手伝ってくれ!」
「何でもいいから、兎に角、神楽をくれ!」
「神楽?」
「うーん……」
「まあ、この間のでいいかー」
呼吸を整えると、背筋を伸ばし、ゆったりとした足運び、静かな所作、指先まで意識した動き、音の無い空間で静かに舞い始めた。
一礼して終わる。
すると、辺りが、神域へ、別空間へと切り替わる。
「良くやった!」
黒兎の動きが明らかに良くなる。
そして、戦ってる相手の動きが鈍くなったように見える。
さっきまで逃げ腰だったのに逆転したようだ。
しかし、うさぎなのに器用に戦うなーと見てると、トカゲもどきが、こちらを見た。
視線が合う。
「あ、ヤバい」
こっちに向かって突進してきた。
「あやめ!」
黒兎は叫ぶがトカゲもどきは止まらない。
「うわっ」
間一髪で避けれた。
が、
さらに尻尾による追撃。
シュッ
バーン!
あやめは避けきれずにふっ飛ばされた。
「あやめ!」
叫ぶ黒兎、転がるあやめ。
「キシャー!!」
トカゲもどきは威嚇している。
「……あいたたた」
「あやめ!大丈夫か!」
少し慌てた黒兎の声が聞こえる。
「何か大丈夫っぽい」
「黒兎、あれ倒せるの?」
「何とか行けるかも知れないが、今のままだと決定打が無い」
「そっかー」
「神楽ってやつが有効みたいだから」
「別のやつするね!」
呼吸を整えると、先ほどと違う舞を静かに舞う。
すると、黒兎にあやめの魔力が集中する。
「なんだ、身体が軽くなった?」
「なんでもいいから、頑張って!黒兎!」
「おう!」
黒兎は自身に気力を集め、トカゲもどきに向かって突進。
速度が乗ったところで飛び上がり、全力の蹴りを放った。
「ドリャァ!」
ドーン!
トカゲもどきは腹に穴を空け、そのまま霞のように消え去った。




