第六十八章 雛子プロデュース!ミスコンの乱!後編
いつもありがとうございます!
さあ、マスターコンテストの後半です!
その結果やいかに…?!
中央に組まれた巨大なキャンプファイヤーの炎が、パチパチと音を立てて夜空を赤々と照らし出している。
スピーカーから流れる重低音の音楽と、全校生徒の熱気が混ざり合い、文化祭のフィナーレである「後夜祭」は最高潮の盛り上がりを見せていた。
特設の大型ステージの上に、司会進行の生徒たちがマイクを持って現れる。
『さあ、皆様! 大変お待たせいたしました!
今年の文化祭、最優秀出し物賞――
栄えあるグランプリの発表です!!』
ドラムロールが鳴り響き、全校生徒が固唾を飲んでステージを見上げる。
『満場一致!
圧倒的な票数を獲得したのは――
1学年合同、立体駆動型お化け屋敷ですわーーーっ!!』
地鳴りのような大歓声が沸き起こる。
クラスメイトたちが飛び跳ねて喜び、お化け屋敷の裏方として完璧に立ち回った橘綜一郎、千歳凪、羽鳥晃、そしてスマホを弄っていた御子柴律たち腹心陣も満足げに口元を緩めた。
「 勝った!!
私たちの、大勝利!」
「そりゃあ、裏にプロ(狐狸)があんだけいたらねぇ」
着物姿のままガッツポーズを決める翡翠と、なんだかんだ嬉しそうな晋。
「おーっほっほ!! 当然の結果ですわ!
この私が九条の総力を挙げてプロデュースした
『ラグジュアリー・お岩さん・ゴシック皿屋敷エリア』
が、学年をグランプリへと導いたのです!」
そこへ、案の定、縦ロールの髪を激しく揺らしながら、自分が担当したエリアの功績だとふんぞり返る九条麗華が突撃してきた。
「姉さんお願いだから往生際が悪いよ、あとコンセプトが渋滞しすぎ!
投票の9割は神城先輩の『立体駆動迷宮エリア』のおかげだから!
本当にすみません神城先輩……!!」
半泣きの聖夜が、胃を押さえながら麗華のドレスの裾を引っ張って「ハウス」させていく。
お騒がせな凸凹姉弟が退場していくのを見送りながら透亜はふん、と鼻を鳴らす。
神城透亜は、今不機嫌なのだ。
『――ですが皆様!
お祭りはまだ終わりません!
今年の文化祭を最も騒がせた、最重要イベント!
ミスターコンテストの最終結果発表ですわーーーっ!!』
そのアナウンスが流れた瞬間、校庭にいたお嬢様方の空気が一変した。
日中の予選で「謎の剣士ツルギ(翡翠)」と「塩顔イケメン(晋)」に理性を狂わされた令嬢たちが、お上品に、しかし凄まじい眼光でステージを睨みつける。
『日中の熾烈な予選を勝ち抜き、見事決勝ステージに駒を進めた4名をお呼びしましょう!
凪くん!
晋くん!
神城透亜くん!
そして――謎の剣士、ツルギくんです!!』
「「「キャーーーッ!! ツルギ様ぁぁぁーーっ!!」」」
「「「晋様ーーーっ!! こちらをご覧になってぇぇーーっ!!」」」
ステージに4人が並んだ瞬間、お嬢様方の「お上品な大狂乱」が炸裂した。
扇子を激しく振り回し、黄色い歓声を上げる令嬢たち。
隣でそれを見ていた男子生徒たちは、
「おい、普段あんなに物静かなご令嬢が、野生の獣みたいな目をしてるぞ……」
「文化祭って怖いな……」
と本気でドン引きしていた。
ステージ上では、負けず嫌いの凪が完璧な営業スマイルでファンを魅了し、晋は(相変わらずすごい熱気だな。まあ、おもしろいからいっか)とクールに佇んでいる。
だが、隣に立つ『ツルギ』こと男装姿の翡翠を見た瞬間、神城透亜の脳内演算は完全に臨界点を突破した。
(……非常に不愉快だ。
何故だ。
お化け屋敷の売上計算は完璧、一馬兄さんのデリートも完了。
全ての盤面を支配したはずなのに、何故僕の胸部がこのように物理的なエラーを起こしている?
……理由は明確だ。
あのツルギ(翡翠)の容姿、宝塚仕込みのキザな立ち振る舞い。
それが有象無象の網膜に消費されている。
僕の私物が、僕以外のものに『キャーキャー』と言われるなど、資産管理的に極めて有害――)
自分のことは棚に上げまくった独占欲のバグが、透亜の脳内を完全に支配する。
短編舞台のような最後の『自由アピールタイム』、透亜の番が回ってきた。
コツ、とローファーの音を響かせ、冷徹な目をギラつかせた透亜がステージのセンターへ歩み出た。
全校生徒が「どんな完璧なスピーチが来るのか」と息を呑む中、透亜はマイクを持ったまま、隣にいた翡翠の前へスッと歩み寄る。
「え? 透亜様……?」
翡翠が首を傾げた、コンマ一秒後だった。
「――うるさい有象無象どもめ。
これ以上、僕の翡翠を見るな」
低い、低音の独占欲に満ちた声がマイクを通して校庭全体に響き渡る。
と同時に、透亜は翡翠の腰と膝裏に腕を回すと、ガバァッ!と力強く、完璧なフォームで翡翠を「お姫様抱っこ」した。
「わっ!と、透亜様!?」
驚いてずれたウィッグをなおしながら、目を丸くする翡翠。
しかし、透亜の暴走は止まらない。
観客席へ「これは僕のものだ」という絶対的な威嚇の視線を向けたまま、透亜は抱き上げた翡翠の、ほんのり赤くなった頬へ、チュッと音を立てて深く、激しく口づけをした。
「「「「「――――――――ッッッ!!!!????」」」」」
その瞬間、校庭の空気が完全に凍りついた。
キャンプファイヤーの炎の爆ぜる音だけが、虚しく響く。
BLという概念ではない。
これは主君から従者への、あまりにも重すぎる「絶対的独占欲の顕現」。
しかし、そのあまりにも美しすぎるツーショットの破壊力に、全校生徒、役員、そして腹心たちの脳内に『新しい世界の扉』が強制的にドカンと叩き開かれた。
真横でそれを見た晋は、目をまん丸にして硬直している。
「!?!?!?!?」
最前列にいた九条麗華は、顔をトマトのように真っ赤にして口をあんぐりと開けたまま、石のように固まっている。
「……ね、姉さん、息をして……!」
隣の聖夜も何が起こったかわからないような顔で固まり、 「うおぉ……坊ちゃん、ストレートすぎるだろ……」 陣内は煙管を落とし、牡丹は扇子で口元を隠しながら「あらあらまぁまぁまぁ」と完全に楽しんでいた。
プロデューサーの一ノ瀬雛子は「神・演・出……ッ!」とガタガタ震えながら拝んでいる。
橘、千歳、羽鳥にいたっては、あまりの衝撃映像にカメラのシャッターを切ることすら忘れて呆然としていた。
「……ふん。帰るぞ、翡翠」
満足した透亜は、真っ赤になって完全に固まった翡翠をお姫様抱っこしたまま、固まり果てた観客を置き去りにして、優雅にステージを降りていくのだった。
もちろん、その年のミスターコンテストのグランプリは、異例の「神城透亜&謎の剣士ツルギ」のダブル受賞(というか伝説)として、学園の歴史に永遠に刻まれることになった。
最高の祭りが終わり、神城の未来は、完全にこの若き天才の掌の上で輝きを増していくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
続きが気になる!と思ってくださったら、評価やブクマで応援していただけると励みになります!




