第六十七章 雛子プロデュース!ミスコンの乱!前編
いつもありがとうございます!
文化祭といえばミスコン!
お祭りお嬢様雛子が黙っているはずありません。
何が起こるか…?!
文化祭の真っ昼間。
一馬の一件が無事に片付き、お化け屋敷の受付裏で一息ついていた一ノ瀬雛子は、偶然ゴミ箱の近くに落ちていた一枚の用紙を拾い上げた。
「こ……これは……っ!」
それは、後夜祭のメインイベント『ミスターコンテスト』の追加エントリーシートだった。
用紙を見た瞬間、雛子の脳内に凄まじい電撃が走る。
彼女は普段から、親友である翡翠の「中性的で引き締まった抜群のスタイル」と「時折見せる無自覚なイケメン仕草」を誰よりも熟知していた。
「……やるしかないわ。
世界に翡翠ちゃんの尊さを知らしめるのは、今よ……!」
ギャル特有の凄まじい行動力を発揮した雛子は、すぐさまお付きの従者にお使いをさせ、翡翠をサロンへと連れ去った。
胸にサラシをがちがちに巻き、侍のような凛々しい黒の和装を着せ、さわやかな少年風のイケメンメイクを施す。
仕上げに短髪のウィッグを被せれば、そこには息を呑むほどに美しい「若旦那」が誕生していた。
さらに雛子は、私物の宝塚のDVDを無理やり翡翠に見せつける。
「いい、翡翠ちゃん?
男役の基本は背筋、そしてこの甘くキザな視線よ!」
「なるほど……。
主君を守るための威嚇としては、非常に合理的ですね。
マスターしました」
ピュアすぎる勘違いのまま、男役の振る舞いを完璧にラーニングしていく翡翠。
「日本刀ですか。
あまり使った事はないのですが、なんとかなるでしょう」
フィンと、模造刀を振り、鞘におさめる翡翠の姿に、雛子は「勝ったわ……」と確信の涙を流した。
こうして、エントリー名『謎の剣士・ツルギ』として、前代未聞の殴り込みが始まった。
『さあ、日中のゲリラ投票タイム!
今年のミスターコンは、かつてない大激戦ですわよーっ!』
お化け屋敷前の特設スペースには、すでに出場者たちが並び、令嬢たちによる優雅な(しかし殺気立った)長蛇の列が出来上がっていた。
「ずりーよ!!
あんなの一般人が勝てるわけないじゃんかよォォォっ!」
自分のビジュアルを信じて「モテたい」一心で参戦した晃は、隣の並びを見て血涙を流して悔しがっていた。
それもそのはず、今年のメンツは学園のトップランナーたちが勢揃いしていたのだ。
御子柴律と橘綜一郎の二人は、コンテスト自体に完全に興味なし。
完全に死んだ魚の目でスマホを弄ったり、本を読んだりしている。
にもかかわらず、その圧倒的な「気怠げな美形オーラ」のせいで勝手に票が集まっていた。
一方、凪と透亜の二人は、致命的なまでに負けず嫌いだった。
「へえ、透亜も出るんだ?
ボク、負けるの嫌いだからさ」
「ふん、僕の脳内計算に『敗北』の二文字は存在しない。
……律、僕のファン層の年齢別統計データを――」
二人は絶対に負けたくない一心で、普段は見せないような「極上の営業スマイル」を周囲の令嬢たちに撒き散らし、ファンを爆発的に増やしてバチバチの火花を散らしている。
だが――そんな天才たちの営業努力を、斜め上の『暴力的な和風イケメンオーラ』で蹂躙していく二人組が現れた。
「ツルギ様ぁぁぁーっ! こちらをお向きになってぇぇっ!」
「まあまあ!
あちらのお方……晋様とおっしゃるの!?
なんて涼やかで色っぽいの……っ!」
凄まじい熱気に包まれた歓声の中心にいたのは、雛子にプロデュースされた翡翠こと『ツルギ』と、雛子に無理やり連れてこられて着流しを羽織った晋だった。
普段のジャージ姿から一変、黒髪のすっきりとした塩顔イケメンである晋が、和装で刀を構えたギャップの破壊力は凄まじかった。
「日本刀ねぇ。
あんまり使った事ないけど、何とかなるか。
翡翠…じゃなかった、ツルギ。
合わせて」
「うん」
武器について全く同じ感想を言って、フォンと模造刀を構える二人。
晋は(なんか知らないけど、おもしろそうだからいっか)と軽いノリで、翡翠の演武の相方を快諾。
地獄の修行を共にした二人が披露する、寸分の狂いもない超ハイクオリティな「リアル殺陣」に、お嬢様方のテンションは最高潮。
サッ……!と晋が刀を収め、汗一つかかずにフッと流し目を送るだけで、「まああっ!!」「晋様ぁぁーっ!」とお嬢様方が上品にセンスを振りかざしながら黄色い悲鳴を上げる。
晋もまた、予想外の爆モテ状態に突入していた。
その様子を、受付の陰から見守っていた陣内と牡丹。
「うおぉ……翡翠と晋の奴、和装が似合いすぎてて心臓に悪いだろ。
おい、牡丹、あいつら本当に俺の弟子か?
というか、隠密があんなに目立っていいのか?」
陣内は驚きのあまり、愛用の煙管をうっかり手元から落としそうになり、
「あらあらまぁまぁ……♪
翡翠ちゃんのあの凛々しい立ち姿、まるで本物のお侍さんのようですわねぇ。
お姉さん、不覚にも少し胸がときめいてしまいましたわ」
牡丹は大きな扇子で口元を隠しながら、完全に「宝塚」を見る目で楽しんでいる。
さらに、翡翠が宝塚仕込みのキザなウィンクを飛ばしながら、希望するお嬢様を「お姫様抱っこ」で軽々と持ち上げるたび、特設会場はお上品かつ凄まじい狂乱の渦に包まれた。
「こ、これは……!?
九条の美学とはまた違う、なんて凛々しくて涼やかな風……っ!」
視察に来ていた九条麗華までが、ツルギ(翡翠)にお姫様抱っこされたお嬢様を見て、顔を真っ赤にして胸を高鳴らせている。
「な、なあ……女子たち、どうしたんだ……?」
「あんなにキャーキャー言って……普段の淑やかなお嬢様方はどこに行ったんだよ……」
周囲で見守っていた男子生徒たちは、普段おしとやかなクラスの女子たちが「ツルギ様!」「晋様!」と扇子を振り回して群がる狂乱ぶりに、引くだけ引きまくって完全に顔を引きつらせていた。
一方、投票用の端末を持って列の整理をしていたアザミとカリアの二人も、この狂気の空間に巻き込まれていた。
「……すごいねえ〜この熱気。
若さっていいねえ〜」
アザミが優しい眼差しで学生達をみる。
そのお兄様特有の包容力がお嬢様方に『お兄様ぁ!』と刺さってしまい、エントリーしていないのに勝手に裏の隠れ票が入り始めていた。
「ふふふ、いいわねえ〜。
学生のお祭り‥。
私達もしてみたかったわね。
うらやましいわあ〜」
カリアがお姉様らしくフッと微笑むその廊下の奥――お化け屋敷の受付デスクには謎の剣士ツルギの主君の姿があった。
透亜の持つボールペンが、パキィッと不穏な音を立てていた。
(……おかしい。
非常に不愉快だ。
あの『ツルギ』とかいう不審な男、骨格や筋肉の付き方が、僕の翡翠に酷似しているのだが……。
いや、酷似というか本人だ。
何だあの男装は。
似合いすぎて僕の網膜の処理速度が追いつかない。
というか、なぜ僕以外の有象無象をお姫様抱っこしている?
僕の私物が他人に消費されるなど、資産管理的に極めて有害であり――)
「……翡翠の主君様、ボールペンが軋んでるわよぉ?」
「……やきもちかあ。
若いねえ〜。
いいねえ〜。」
主君のパニックっぷりを特等席で観察し、カリアとアザミはここぞとばかりにニヤニヤと楽しげな視線を交わすのだった。
自分のことは完全に棚に上げ、猛烈な独占欲の嵐で脳内が強制シャットダウン寸前になる透亜。
バチバチに競い合っていた透亜と凪、爆モテ状態の晋、そしてゲリラ乱入したツルギ(翡翠)が圧倒的な票数を叩き出し、舞台は夕方の「後夜祭・決勝ステージ」へと引き継がれることになる。
透亜の嫉妬の演算が臨界点を突破し、後夜祭で全校生徒の『新しい世界の扉』を爆破する伝説のパフォーマンスをぶちかますまで――あと数時間。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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