第六十五章 百鬼夜行の文化祭 4
いつもありがとうございます!
今回も透亜様の策略が光りますね…!
注目のラストバトルです!
「ぐ……っ!?」
「……うぅ……」
巨大迷宮の各エリアで、圧倒的な実力差を見せつけられた『プロジェクト・アイギス』の刺客たちが次々と膝をついた。
ハニトラの毒香と残影に五感を完全に狂わされた盲目の青年。
そしてエリアCでは、翡翠の連撃によって得物を弾き飛ばされ、晋の強烈な蹴りを受けた双子が倒れ込んでいた。
彼らはもはや、戦う術を完全に失っていた。
「う……あ……」
倒れ伏した双子の少年が、うわごとのように小さく唇を震わせ始める。
「いやだ……こ……ろ……したく……な……」
「こ……ろ……さない……と……っ……」
「い……き……る……っ……!」
壊れた人形のように、断切れの感情を必死に絞り出す双子。
その言葉を聞いた瞬間――
「「…!」」
翡翠と晋の身体が、同時に硬直した。
二人は息を飲み、目の前で怯える幼い刺客たちを見つめる。
(この子たち……っ!
元は……私達と同じ……!)
自ら望んで兵器になったのではない。
かつての自分たちと同じように生きていたのに、裏の大人たちに利用され、心を殺された被害者なのだと、翡翠と晋は痛烈に理解してしまった。
だが――エリアBだけは、全く異質な異彩を放っていた。
「ヒヒッ……ハハハハハッ!
壊す……壊すぞぉぉぉっ!!」
陣内に両腕の関節を叩き折られ、壁へめり込まされた狂戦士。
己の内なる破壊衝動を満たすため、自ら志願して『アイギス』の肉体改造を受け、怪物となった根っからの狂人。
男は倒れてなお、濁った眼光で歓喜の笑みを浮かべていた。
「けっ、胸糞悪い笑い方しやがる。
…見た事あるぜ、その眼」
陣内がだらしなく酒の匂いをさせながら唾を吐き捨てた、その時だった。
『――チッ。
使えないゴミどもが』
インカムの通信ノイズを押し切り、一馬の冷酷な声が室内に響き渡る。
『全員、自決プログラムを起動する。
神城の名に泥を塗った証拠ごと、脳を焼き切って灰となれ』
「「……ッ!?」」
一馬が手元の端末で強制自決コマンドを入力した瞬間、耳元のチップが高電圧を帯び、刺客たちの身体が不自然に痙攣し始めた。
「あ……ぐ……あぁぁぁっ!」
双子と盲目の青年が、激痛に顔を歪めて倒れ込む。
「!
やめて!!」
翡翠が悲痛な叫びをあげ、彼らへと手を伸ばそうとした所を、晋が止めた――
その時。
「――二度も同じ手で、僕の翡翠の心を傷つけさせるとでも思ったかい、一馬兄さん」
重厚な可動壁が滑り上がり、暗闇の奥からゆっくりと歩み出てきたのは、自作の超高スペック端末を手にした神城透亜だった。
「律、バックアップ増幅回線を全開にしろ。
綜一郎、凪、晃。
警察と役員会へのデータ送信ラインの確保だ」
『了解…!
透亜のハッキング速度に合わせて、サーバー帯域を100%解放…』
インカム越しに聞こえる御子柴律の声。
腹心たちがお化け屋敷の裏側で完璧に連携し、一馬のサイバー防衛網を叩き潰していく。
透亜のミリ秒脳が弾き出すのは、一馬が構築した自決プログラムのアルゴリズム――
その「完全解読と書き換え」。
「他者の人生を騙して奪い、玩具のように使い捨てる……お前のお粗末な思考ログは、全て僕的計算内だ」
ピコン、ピコン、と澄んだ電子音が連続して響く。
透亜の手元で超高速スワイプされる画面。
一馬の制御回線を瞬時にジャックすると、自決信号を完全遮断。
騙されて改造されていた双子と盲目の青年の脳に掛けられていた「兵器としてのプロテクト」だけをミリ秒単位の精密作業で消去し、彼らの命と心を完璧に救い出した。
「……あ……」
激痛が引き、うっすらと目を開ける双子と青年。
「僕たち……生き……?」
彼らの様子を見て、驚いて透亜を見つめる翡翠と、晋。
「泣いてる暇があるなら、向こうの救護班に行くといい。
君たちを騙した男の罪を証言してもらうからね」
冷たく言い放つ透亜。
だが、その一方で――
自決プログラムが遮断され、自由を取り戻した狂戦士が、なおも不気味な殺意を透亜へ向けようとした。
「ヒヒ……なら、お前を壊すぅぅっ!」
透亜がその男を処理しようと視線を向けかけた、そのコンマ一秒前。
ザシュッ!!
鋭い、金属音が響き、狂戦士の動きがピタリと止まった。
首の後ろを突き刺され、白目を剥いて崩れ落ちる狂戦士。
その背後に立っていたのは、錆びついた短刀を収める陣内だった。
「……陣内さん?」
透亜がわずかに目を細める。陣内はだらしなく煙管の煙を吐き出しながら、意地の悪い笑みを浮かべた。
「けっ……こんな本物の狂人、生かしておいてもロクなことにならねえ。
あの眼をしてるヤツらはな、変わるこたぁねぇんだ。
自決だろうが何だろうが、手を汚すのは俺たち『死に損ない』の仕事だ。
……別に、坊ちゃんがそんな業まで背負い込むこっちゃねえよ」
透亜の手を一切汚させない、師匠としての粋でえげつない気遣い。
透亜は一瞬だけふぅ、と息を吐くと、
「……余計なお世話ですよ、陣内さん」
「へっ、口の減らないガキだぜ。」
「相変わらず品のない殺し方ねぇ、陣内」
と少し呆れながら牡丹が現れる。
牡丹は倒れているアイギス達や、翡翠らの狐狸の面々を見て、
「見事な盤面でしたわ、神城透亜様。
外に配置されていた犬達はハウスしておきましたわ」
と言いながら、にっこりと透亜を見て微笑んだ。
透亜は牡丹に軽い会釈をしてから、救出した3人の生体データ、そして彼らの証言と体内に残された「一馬の暗殺指示ログ」、さらに腹心たちが集めたプロジェクト・アイギスの非人道的な研究全データを統合。
「律、送信」
『了解。
神城の役員会全員と、警察上層部へ一斉送信完了…』
「……な……なんだと……!?」
神城本邸の執務室。
一馬の手元のモニターに、警察と役員会からの緊急監査通知が殺到し、赤く点滅した。
『一馬様! 警察の特捜班が邸宅を取り囲んでいます!
それに、先ほど緊急招集された役員会から、あなたを全役職から解任し、当主権限を即時凍結する満場一致の決定が――!』
「バカな……!
役員どもめ、私の築いた利権にぶら下がっていたくせに、手のひらを返しおったか……!
バカなバカなバカな!!
この神城一馬が、あんな青二才に……ッ!?」
画面に映し出されたのは、お化け屋敷の防犯カメラ越しに、冷酷な笑みを浮かべる透亜の姿だった。
『さようなら、一馬兄さん。
出来損ないの狂言、楽しませてもらったよ』
「透亜ぁぁぁぁぁぁっ!!」
長男・神城一馬の叫び声は虚しく響き渡り、彼は表舞台から完全に失脚。
透亜が名実ともに神城の次期当主として君臨する「裏の盤面」が、ここに完璧に完成した。
「……透亜様」
静まり返った旧校舎の通路で、翡翠が胸の前で手を握りしめ、透亜を見上げていた。
「あの人たちを……助けてくださって、ありがとうございます」
「……別に、一馬兄さんの思い通りにさせたくなかっただけだ。」
相変わらずのあまのじゃく。
だが、翡翠には分かっていた。
この主君が、どれほど自分を大切に思ってくれているのかを。
「…それでも、ありがとうございます!
透亜様!」
自分だけに向けられる翡翠の満開の笑顔。
しかし周囲にはまだみんながいる。
はっきり言って、一馬が仕掛けてくるであろうパターンをすべて対処可能にすることは骨が折れた。
しかし、
透亜は、(頑張ってよかった…)と心の中で呟きながら、可愛い笑顔の翡翠を抱きしめたい衝動を抑え込んでいた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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