第五十五章 豪華絢爛!雛子プロデュース ハロウィンパーティ
いつもありがとうございます!
テストも終わり、いつものように雛子プロデュースのパーティが始まります!
しかし、いつものごとく一筋縄ではいかないようで?!
定期テストという名の現実的な壁を全員でなんとか乗り越えた、その週末。
「ハッピーハロウィーーーン!
みんな、私が用意した衣装、クオリティ高すぎて最高ーー!」
一ノ瀬家のプライベート・パーティールームは、雛子プロデュースによる圧倒的なポップ&ゴシックな装飾で埋め尽くされていた。
全員のサイズと好みを完璧に把握し、雛子がその潤沢な資金力とこだわりで特注した衣装の数々。
その中心で、ふわふわの短いフレアスカートに黒猫の耳としっぽをつけた、あざとさ120%の「セクシー黒猫」姿の雛子が、ジンジャーエール片手に跳ね回っていた。
「麗華様!
その魔女っ子ドレス、めちゃくちゃ高貴で素敵!
露出控えめだけどデコルテのラインが最高でしょ!?」
「い、一ノ瀬様、驚かさないでくださらない?!
……ま、まあ、悪くはないわね」
フリルがあしらわれたクラシカルなロングドレスの裾を少し持ち上げ、顔を赤くしてツンとそっぽを向く「魔女」麗華。
その隣で、首や額にリアルなボルトとツギハギの特殊メイクを施した「フランケンシュタイン」姿の橘綜一郎が、いつもの爽やかな笑顔で頷いた。
「いや、九条。
本当に綺麗だよ。
漆黒の生地が君の白い肌によく映えている。
一ノ瀬のプロデュース力もさすがだな」
「た、橘様!?
あなた、そのツギハギ顔でド直球に何を言っていますの……!?」
麗華は耳まで真っ赤にし、持っていた魔女の箒で綜一郎の胸元をポカポカと叩いた。
失恋のどんよりした空気は、綜一郎の圧倒的な全肯定長男オーラによって、いつの間にか微熱混じりの甘い空気へと上書きされている。
一方、周りを見渡せば、そのビジュアルの暴力はすさまじかった。
「おい雛子!
なんで俺だけこんなに露出が多いんだよ!
ほとんど裸じゃねぇか!」
もこもこの毛並みをあしらったワイルドな「狼男」姿の羽鳥晃が、不満げに胸元をはだけさせた衣装を引っ張る。
そんな晃を、真っ赤なマントを羽織った耽美な「ドラキュラ」姿の御子柴律が、冷ややかな瞳で見下ろした。
「……騒がしい。
犬はハウスしてください。
毛が飛び散る」
「誰が犬だコラァ! 吸血鬼の分際で偉そうにすんじゃねぇ!」
「落ち着いて、二人とも。
ハロウィンはみんなで楽しむものだよ?」
大きな丸い「パンプキン」の着ぐるみに身を包んだ千歳凪が、ヨロヨロと二人の間に入ろうとするが、着ぐるみが丸すぎて思うように動けない。
「……なんで……ぼくはかぼちゃなの……?
そういちろうみたいな、かっこいいのがよかった……ううっ、みんなずるい……」
「凪くん…南瓜はハロウィンの主役じゃないか…。
僕なんかお前は所詮道化だとでも言わんばかりの…」
不気味なピエロメイクを施した「ピエロ」聖夜が、ジャグリングのクラブをつつきながら凪を慰めるが、かえって凪の困惑を深めるだけだった。
そんなカオスなフロアに、漆黒の布地にゴールドの刺繍が施された、冷徹極まりない「軍服」姿の神城透亜が静かに佇んでいた。
軍帽を目深に被り、冷徹な覇気を放つ姿はまさに「絶対王者」そのもの。
だが、そんな彼の切れ長な瞳は、ある一点に完全に釘付けになっていた。
「お待たせいたしました、透亜様」
少し照れくさそうにフロアに現れたのは、ミニスカートのキョンシーに扮した翡翠だった。
鮮やかなターコイズブルーの生地に、胸元が少し開いた精巧なデザイン。
動きに合わせて揺れる伝統的な刺繍の施された驚くほど大きな袂。
翡翠が動くたびにパニエ入りのふわふわなスカートと袂が揺れて、なんとも可愛らしいキョンシーに仕上がっている。
「わ! 翡翠ちゃん、すごくよく似合っているよ!」
凪がいつものように爽やかに絶賛し、晃も「おー、意外とサマになってんじゃねぇか」と笑顔で出迎える。
その瞬間、軍服姿の透亜の脳内計算回路が、シラフであるにもかかわらず微細なエラー音を検知した。
(……ターコイズブルーの色彩効果が視覚野に与える影響、および大腿部の露出度における精神的動揺の計算式が……いや、そもそもキョンシーの衣装における機動性と戦闘継続能力の観点から言えば、このミニスカートの構造は足技の繰り出しやすさに特化しており、極めて合理的……ではない、可愛すぎる。
一ノ瀬…見事な仕事だ……!)
雛子の方をチラと見ると、(どうだ!)と言わんばかりにバチーンとウインクして親指を立てる雛子と目が合った。
お札の隙間から大きな瞳を輝かせる翡翠の無邪気なギャップに、彼の論理脳はじわじわと侵食されていた。
そんな中、退屈そうにノートPCを叩いていたドラキュラ律が、不敵な笑みを浮かべて黒い小箱を取り出した。
「……みんなにプレゼント。
新開発の覚醒糖分。
脳の伝達速度を極限まで引き上げる『ハロウィン・ショコラ(プロトタイプ)』。
糖度、およびハーブ酒の神経活性成分を、法律グレーな限界値まで配合し、この世のものとは思えない美味に仕上げました」
律の不穏すぎる言葉に、一同の動きがピタリと止まる。
「おい律、それ本当に人間が食って大丈夫なやつか?
治験データはあんのかよ」
晃が怪訝そうに一歩引き、麗華も怯えたように雛子の袖を引いた。
「一ノ瀬様!
このような怪しげなもの、本当に許可してよろしいの!?
救急車を呼ぶ準備をしておいた方がよいのではなくて?」
「えー? 律の作るお菓子、いっつも怪しいけど美味しいんだよね。
でも確かにちょっと怖いかも……」
さすがの雛子も少し尻込みする中、すかさずキョンシー翡翠が割り込んだ。
「も、申し訳ありませんが、主君に万が一のことがあってはなりません!
私が毒味を!」
「同意です。
私も毒味を務めましょう」
翡翠の隣に並び立ったのは、聖職者の「神父」姿を纏った九条家の執事・晋だった。
二人は同時にトリュフを取ると、トリュフの匂いを確かめ、ペロッと舐めた後にパクッと口に放り込んだ。
そして、何事もなかったかのようにケロッとした顔で頷く。
「毒物反応、および身体機能への害は一切ありません。
問題なしです!」
「同じく、成分に異常な毒素は検出されません。
美味しいですよ、皆様」
狐狸の二人にとって、この程度のハーブ酒などただのフレーバーに過ぎない。
その完璧なパスを信じて、雛子、麗華、晃、そして「……僕の計算に、律が毒殺を企てるメリットは存在しない」と呟いた透亜たちが、一斉にトリュフを口にした。
――数分後、パーティールームは未曾有の崩壊を迎えた。
「う、うぅ……橘様……。
私、本当は悲しかったですのよ……っ、透亜様のバカ……!」
完全にツンが崩壊した魔女・麗華が、綜一郎の胸に顔を埋めてぐすぐずと泣き出し、綜一郎が「よしよし、よく頑張ったな」と包容力全開で抱きとめている。
そんな阿鼻叫喚のフロアの端で、グラスを弄んでいた神父・晋が、至極さらりと呟いた。
「あーー……翡翠、あれ、普通の人には結構強力なのかも。アルコール」
「えっ!? あ、あれで酔っ払うのですか!?」
翡翠はグラスを片手に驚愕した。
訓練を受けた二人にとっては、ただの甘いチョコとほんのりハーブの香りがする程度だったため、一般的な人間のアルコール耐性を完全に失念していたのだ。
「あははっ。なんか面白い事になりそう」
面白そうにクスクス笑う晋をよそに、翡翠は青ざめた。
一方、冷静にノートPCを叩く律の横に、完全にベロベロになった黒猫・雛子が絡みつく。
「ふむふむ……狐狸の二人には効かない……と、貴重な生体データが……」
「キャハハハハ! 律ーーー!! こっちこーーーい!!」
「そうだそうだ!! 暗すぎるぞ律!! 遠吠え上げろーー!」
狼男の晃も乗っかり、ドラキュラ律は無表情のまま二人に引きずられていく。
「ううっ……そういちろうみたいなかっこいいのがよかったよぉ……」
丸いパンプキンの着ぐるみの中で、凪がさめざめと泣き崩れ、ピエロの聖夜が「ほーら、悲しみは風船に乗せて飛ばそう!あははは!」と風船を割ってさらに凪を怯えさせていた。
「透亜様……皆様、も、申し訳ございません。
だ、大丈夫ですか……?」
騒がしいパーティールームから離れた、夜風が心地よいバルコニー。
翡翠は、手すりの近くの椅子に腰掛けさせた透亜に風を当てながら、おろおろと水を入れたコップを差し出していた。
自分たちの規格外の体質と、一般人とのあまりの乖離に、今更ながら焦りまくっている。
しかし、椅子に深く腰掛けた軍服姿の透亜は、水を受け取ろうともしなかった。
ただ、何を考えているのか、ボーッと翡翠を見つめている。
いつもなら秒単位で冷徹な命令を飛ばすはずの切れ長な瞳が、今は熱を帯びて潤み、とろんとしていた。
「透亜様……?」
心配そうに覗き込む翡翠。
その瞬間。
透亜の口元が、ふっと緩んだ。
それは、翡翠がこの6年間、ただの一度も見たことがないような、柔らかくて優しい微笑みだった。
「……?」
翡翠が首を傾げた刹那。
「可愛い」
「……へ?」
かつてないほど甘く、低い声が鼓膜を震わせた。
出会ってから6年、一回も、ただの一度も聞いたことのない単語に、翡翠の思考回路が完全にフリーズした。
「……なんでこんなに可愛いの?」
透亜は視線を外さず、翡翠の大きな瞳から少し開いた胸元や、ふわふわ揺れるミニスカートとそこから覗く健康的な足、そして恥ずかしそうに揺れるキョンシーのお札をじっと見つめ、つぶやく。
「……食べてしまいたい」
「??!!!???!?!?!」
がーーん!!! と、翡翠の脳内に巨大な鐘が鳴り響いた。
「と、と、ととあ様!! お、お、お気を確かに……!!
アルコールによって冷静では無くなっている可能性が! 冷却を! 心頭滅却をーーー!」
顔を真っ赤にしたり、青くしたりして大パニックを起こす翡翠。
暴れる心臓のせいで、キョンシーの衣装が激しく上下する。
それを見た透亜は、怒るでもなく、ただ愛おしそうににっこりと美しく微笑み、
「可愛い」
と呟きながら、熱を帯びた指先で、翡翠の柔らかい頬をそっと優しく撫でた。
「………!!!!」
熱い指先が触れた瞬間、翡翠は完全に沈黙した。
真っ赤に染まった顔のまま、お札を貼られたキョンシーのように、一言も喋れずにカチコチに固まってしまうのだった。
そんなバルコニーの甘すぎる惨状を、室内から見つめていた神父・晋が、一口ワイン(ノンアルコール)を飲みながら意地悪く微笑む。
「あーあ。明日の朝が楽しみだなぁ、神城の坊ちゃん?」
パパラッチやストーカーよりも遥かにタチの悪い「アルコール」という伏兵によって、絶対王者のプライドは、ハロウィンの夜風の中に完全に溶けて消えていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
続きが気になる!と思ってくださったら、評価やブクマで応援していただけると励みになります!




