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第四十七章 雛子先生と晃先生の恋のレッスン 後半

前回の続き(後編)となります!

「実証実験」を決意した翡翠ちゃん。

神城家の追跡を逃れるため、まさかの人物(とクレープ)の手を借りて完全密室を手配しますが……?

それでは、後編をどうぞ!

学園の、立ち入り禁止となっている部室棟の屋上。


胸の打撃音(心拍数)は、すでに平常時の数値を大きく上回っていた。


遮るもののない強い風が、制服の胸元を握る翡翠のまっすぐな黒髪を激しく揺らしていた。


雛子に言われた『キスしたいかどうか』という言葉が、どうしても頭から離れない。


必死に隠密としての論理的思考で排除しようとするのに、透亜の、あの不器用で真っ直ぐな「愛」を思い出すと、胸の奥がじんわりと、だけど確実に疼くのだ。


「……わかりません」


風に向かって、翡翠はぽつりと呟いた。


「これが、皆様の言う『恋』なのかどうか、今の私のデータ量では計算不可能です。


……ならば」


不意に、彼女の瞳に隠密としての、そして一人の少女としての強い光が宿る。


「出せる答えは一つ。


透亜様の正面に立ち、私の心拍数と、唇の距離における相関関係を直接――


『実証実験(テスト)』するしかありません!」


そうと決まれば行動は一瞬だ。


しかし、即座に彼女の優秀な任務脳が警鐘を鳴らす。


「ですが、ここは学園内。


神城家の電子の目やハッキング、監視ドローンがある場所では、私の心拍データに正確な値が出ず、ノイズが混ざります。


どこか、完全に遮蔽された空間が必要です……」


どうするべきか。


策を練るため、まずは一刻も早くサロンに戻らねばならない。


「最短ルートを、選択します」


翡翠は迷うことなく、屋上の高いフェンスをひらりと飛び越えた。


常人なら悲鳴を上げる高さだが、彼女は狐狸の隠密。


下の階のベランダの淵をつま先に引っ掛け、さらに突き出た窓枠、植え込みの枝へと流れるように体重を逃がし、物理的なショートカットを敢行してベランダに着地。


そのままの勢いで、一陣の風のようにサロンへと突進していった。







ガラッ、とサロンのドアが音もなく開く。


部屋に飛び込んできた翡翠は、まだ透亜が戻っていないことを確認すると、ソファに座る雛子と晃の元へと音もなくすり寄った。


雛子に向けて小さな声で、だけど必死に耳打ちする。


晃も耳をダンボ にして翡翠の言葉を聞く。


「雛子様。


先ほどの助言に基づき、透亜様との『実証実験(キスしたいかどうかの測定)』を行う覚悟を完了しました。


ついては、神城家の電子の目、およびハッキングが一切届かない、完全な隠れ場所の提供を要求します」


翡翠の、あまりにもド真面目で、だけどピュアすぎる要求に、雛子と晃の目がこれ以上ないほどキラキラと輝いた。


「いいねえ、透亜のやつ襲っちゃうんじゃ…っ痛えっ!!」


「合点承知!!!」


雛子は晃の脇腹に肘鉄をくらわせながら親指を立ててビシッとポーズを決めると、不敵に笑った。


すぐさま雛子はスマホを取り出し、最愛の(?)婚約者へとオーダーを入れる。


「もしもし律? 今すぐ地学室の天体ドーム、完全電波シールド状態で貸切にして!


神城のドローンも全部ハックして近づけないようにね!


理由? いいから早くー! 友達の恋路がかかってんの!


終わったらクレープ奢ってあげるから!」


『……はぁ。


何で僕が透亜の恋愛沙汰のために、ドームのシールドを強制駆動させなきゃいけないのさ。


一ノ瀬さん、君は本当に人使いが荒いな……』


電話の向こうで深い溜め息が聞こえたが、そこはさすが最強のハッカー。


わずか数秒の後、『……手配した。あと、クレープはトリプルチョコで』と告げて通信が切れた。


神城家の強固なセキュリティを、裏からスマートにバイパスする完璧な仕事ぶりである。


「はい、これ認証キーね! 頑張って、翡翠ちゃん!」


「感謝します……!」


雛子からカードキーを受け取り風のように翡翠が消えたその直後、サロンのドアが静かに開いた。


「……はぁ。御堂の件は、一応の決着を見たが……。


つくづく、上の連中の格式にこだわった会議には反吐が出るな」


すっかり疲れ果てた顔をした透亜が、ネクタイを少し緩めながら戻ってきたのだ。


彼はソファへと歩み寄りながら、いつもなら自分の斜め後ろ、影の定位置にいるはずの従者の姿がないことに気づき、怪訝そうに眉をひそめた。


「ん? 翡翠は?


先にここに戻っているはずだが」


ソファに座る雛子と涙目の晃は、完全にすべてを察し、これ以上ないほど「澄ました顔」でお茶を優雅にすすっている。


「さあねえ……。


お世話係だって、たまにはサボりたくなるんじゃない?」


晃がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。


「そうそう、乙女には色々あるのよ、神城。


まぁそこに座って、大人しく待ちなって!」


雛子も何食わぬ顔でクッキーを齧る。


「……?」


二人の妙に含みのある態度と、自分を見る視線に、透亜は不穏な気配を察知して怪訝そうに眉をひそめた。


「何を企んでいる……? 僕に隠れて、また何か――」


その言葉が終わるよりも早く、透亜の背後の影――つい数秒前まで誰もいなかったはずの空間から、すっと翡翠が姿を現した。


その顔は、準備万端。いつでもこい!というやる気にみなぎっている。


「透亜様!!」


「!!なっ、なんだ?


急に現れるな!」


翡翠に後ろから声をかけられ、本気で驚いて戸惑う透亜の手をがしっとつかむ翡翠。


「一緒に来て頂きたいのです!


今すぐ…!」


「??


あ、あぁ…?」


翡翠に引きずられるようにして、サロンを後にする透亜。


「「いってらっしゃ〜い」」


雛子先生と晃先生は、全てを悟った顔で二人に手を振るのであった。


最後までお読みいただきありがとうございました!

覚悟を決めた翡翠ちゃんの爆速行動と、裏で完璧な仕事をする律くん(トリプルチョコ)でした。

疲れ切って帰ってきた透亜様、次回ついに逃げ場なしの天体ドームへ連れ込まれます……!


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次回更新もお楽しみに!

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