第四十五章 恋の定義
いつもありがとうございます!
透亜から愛の告白を受けた翡翠。
しかし、今まで脳筋に生きて来た翡翠がそれを素直な受け取るはずもなく…?!
――『大好きだよ。ずっと……子供の時から』
昨夜、星空の下で確かに鼓膜を震わせた主君の声が、一晩経っても翡翠の脳内で無限ループを続けていた。
ベッドの中で一晩中、翡翠は枕を抱きしめてのたうち回る羽目になった。
(だ、大好き……!?
いえ、落ち着くのです翡翠。
これほど長い間お仕えさせていただいているのですから、嫌われてはいないはず。
ですが、それは……家族として?
それとも、戦友や同志のような意味合いでしょうか!?
私が泣きそうだったから、主君としての慈悲で慰めてくださったのでは……!?)
考えても考えても答えは出ない。
しかし、無情にも朝の給仕の時間はやってくる。
翡翠はなんとかいつもの無表情を作り、ガチガチに緊張した身体で朝食のトレイを持ち、透亜の自室のドアをノックした。
「おはようございます……」
「おはよう」
デスクに座る透亜は、いつもと変わらない涼しい顔をしていた。
(あ、良かった……いつも通りの透亜様だ。
やっぱり私の考えすぎで――)
拍子抜けして、いつものように朝食をテーブルに並べようとした、その時。
「あ、返事は急がないから」
透亜が、紅茶のカップに目を落としたまま、さらりとそう言った。
「へっ、返事……っ!?」
トレイを持つ翡翠の手が目に見えて震える。
「うん。
昨日僕が言ったことに対して」
「えっと、あの、わ、わたし……それは、主君としての温かいお言葉だと……!」
目を白黒させて完全にパニックに陥る翡翠を、透亜はふっと視線を上げて、少々不満げな『ジト目』で見つめた。
「……あれだけはっきり言ったのに」
「も、申し訳ありません……っ!」
思わず深く頭を下げた翡翠に、透亜は小さくため息をつくと、椅子から立ち上がって一歩近づいてきた。
その瞳には、いつもの冷徹な計算回路ではなく、ただ一人の年相応の少年としての、まっすぐな熱が宿っている。
「君にもわかるように言ってやる。
――僕の恋人になってくれ、という事だ」
ガーーーーン!!!
脳内で巨大な鐘が乱打されたような衝撃を受け、翡翠は完全にフリーズした。
恋人。
つまり、男と女として。
政略結婚で一族を繁栄させるための主君ではなく、ただの『神城透亜』という男の隣に立つ存在として。
「…やっぱり目が腫れているな。
もう少し冷やした方がいいか?」
透亜は、フリーズする翡翠を気にも留めず、翡翠の目元を気にしている。
本当は、もっと自分を男として意識させてから告白するつもりだった。
だが、昨日あんなに打ちひしがれていた翡翠をどうにかして救いたくて、言わざるを得なかったのだ。
だが、一度言ってしまったからには、そこは神城透亜。
開き直って徹底的に攻める気概だった。
振られたって何度でも挑戦してやる、くらいの高校生らしい無鉄砲さと熱量が、今の彼を突き動かしている。
「あ、あの……わ、わたし……っ!」
パニックの上限を超えた翡翠は、真っ赤な顔のまま、またしても部屋から逃げ出すことしかできなかった。
昼休み、仮教室から逃げるようにやってきたサロン。
魄との激しい戦闘によって元々の教室が損壊したため、翡翠たちのクラスは急遽、仮の別教室へと移されていた。
登校中から、周囲の視線がいつもと違うことには気づいていた。
魄を無力化する為、お世話係と執事の仮面を脱ぎ捨てて戦った翡翠と晋。
二人が「ただの使用人」ではなく「異次元の戦闘能力を持つガチの護衛」だということは、すでにクラス中に知れ渡っていた。
なぜなら、防犯カメラの映像を誰かが流し、好奇心旺盛な年代の生徒たちにあっという間に広がったからだ。
教室のあちこちから、ひそひそとした囁き声が聞こえてくる。
「…… あの大人しい翡翠さんが、映画みたいに敵を瞬殺してたんだろ……?
神城家のSPってマジで次元が違うな……。」
「日本のトップレベルの財閥ってマジでヤバいな。
絶対に逆らわない方がいいわ……」
そんな、神城と九条という圧倒的な権力への『畏怖』の空気が流れる一方で、女子たちの反応は違った。
遠巻きにしてた女子たちが、我慢できずに駆け寄ってくる。
「ちょっと翡翠さん!
昨日のやつ、マジで王子様すぎない!?
カッコよすぎて鳥肌立ったんだけど!」
「神城君を命がけで守るとか、もう気絶するかと思った!」
「え、ええ……? 私はただ、護衛としての職務を……」
クラスの女子たちにキャーキャーと囲まれ、英雄やアイドルのように扱われてタジタジになる翡翠。
そこへ、優雅な足取りで九条麗華と、アイドルのように騒がれている晋が通りかかる。
麗華は、翡翠と同じように周囲の反応に辟易している晋へ視線を向けると、フッ、と不敵に微笑んだ。
「晋。あなた、結構強かったのね?」
「えっ……!
きょ、恐縮です、麗華お嬢様……」
いつもの麗華様節に、晋は冷や汗を流しながらペコリと頭を下げた。
――そんな喧騒から逃れるように、翡翠はサロンの片隅で、今までこなしたどんなに難しい任務よりも難しい問題に頭を抱えていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この辺はラブコメを全面に出していくのでお楽しみに!
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