第三十五章 雛子プロデュース!嵐のバカンス計画 1
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林間学校を終え、ついにやってきた夏休み。
今回は一等地のプライベートビーチを舞台に、いつもの面々が大騒ぎします。
水着回です。主従の温度差と、あの男の脳内爆発四散っぷりをお楽しみください!
ギラギラと輝く夏の太陽、どこまでも広がる真っ青な空、そして白い砂浜。
名門として名高い蒼蘭学園の激動の林間学校を終え、ついに迎えた夏休み。
一ノ瀬雛子が用意した一等地のプライベートビーチの別荘に、神城透亜率いるいつもの面々が集結していた。
「いい、みんな!?
今回のバカンスは、この私が全責任を持ってプロデュースするんだから、全員私の指示に一言の文句も言わずに従うこと!
異論は認めません!」
メガホンを片手に砂浜で仁王立ちする雛子の前で、まずため息をついたのは神城透亜だった。
「……一ノ瀬。僕は人混みが嫌いだと言ったはずだが。
それに、この殺人的な紫外線と湿度は僕の脳内計算速度を著しく低下させる。
はっきり言って絶望的に海には向いていない」
透亜の装いは、海だろうが何だろうが、普段と全く変わらないカチッとした高級な私服。
お仕事モード全開の、海にはあまりにも不似合いなスタイルである。
なぜ、彼がこんなところにいるのかというと──話は一週間前に遡る。
サロンで、雛子がいつもの弾けるような笑顔で爆弾を投下したのだ。
『イェーイ!夏といえば海!!
私がみんなにサイコーの夏のメモリープロデュースしちゃうよーー⭐︎!
もちろん来るよ
ね!!!』
有無を言わせない雛子の凄まじいプッシュに対し、透亜は冷ややかに鼻で笑った。
『僕が海みたいなただ暑くて潮風がベタつく所に喜んで行くとでも思ったのか? 断る』
完璧なゼロ回答。
しかし、雛子はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、透亜の耳元へスッとすり寄り、悪魔の(あるいは天使の)囁きを叩き込んだ。
『……もちろん、翡翠ちゃんの水着は私プロデュース♡』
『…………』
その瞬間、透亜の口がピタリと止まった。
彫刻のように固まった主君の後ろで、それまで静かに控えていた護衛の翡翠が、見たこともないほどキラキラと目を輝かせてこちらを見つめている。
『おぉー……海……』
数秒の沈黙の後、透亜はふいっと不自然に目線をあらぬ方向へと逸らし、ボソリと呟いた。
『…………海、行くか』
『!!! 透亜様、ありがとうございます!
私、海に行きたいです! 泳いでみたいです!
サメと戦ってみたいです!』
嬉しさのあまり拳を握りしめてブンブンと鼻息を荒くする翡翠に、雛子の特大のツッコミが炸裂したのは言うまでもない。
『なんでサメやねーん!!』
──そんな、主君が『水着プロデュース』のワードに見事釣られ、護衛がサメとの決戦に胸を躍らせるという前日譚を経て、透亜と翡翠が行くならと、信頼で結ばれた腹心たちもゾロゾロと付いてきた……というわけだった。
「透亜様、ご安心ください。
周囲の警戒および地形の偵察は完了しております。
ここへの上陸作戦における障害は皆無です。
サメの影も今のところありません」
現在に時間を戻し、砂浜でいつもの黒い長袍姿のままキリッと胸を張る翡翠。
周囲から浮きまくっている主従の姿に、引きずられてきたハッカーの律が、死にそうな顔でノートPCを抱えながら愚痴をこぼした。
「ちょっと、なんで僕までこんな陽の光の下に引きずり出すわけ……?
紫外線で液晶が見づらいし、一歩歩くだけで息が切れるインドア派なんだから、別荘の地下室に引きこもらせてよ……」
「何言ってるのよ、律! たまには外の空気吸わないと死んじゃうでしょ!」
雛子がフンと鼻を鳴らしたその時、変装用の大きなサングラスをかけた凪が、隠しきれないトップモデルオーラを漂わせながら、翡翠に向かって微笑んだ。
「わーい!翡翠ちゃん、海にはいろー!
……あ、そうだ。
翡翠ちゃんて、水着持ってるの?」
その言葉に、翡翠は待ってましたとばかりに、フッ……と自信満々のドヤ顔をキメた。
「ふっふっふ……凪様、私を侮らないでいただきたい。
一般常識(娯楽)には疎い私ですが、水着くらいは抜かりなく用意してきましたよ!」
「え、本当? 翡翠ちゃんの水着姿、ちょっと気になるかも……」
すかさず晃が小型カメラを構えてニヤニヤと距離を詰めるが、次の瞬間、ビーチに衝撃が走る。
「では、着替える手間を省くため、既に着用してきたものをお見せしましょう! 」
翡翠がいつもの黒いチャンパオのボタンをバババッと外して脱ぎ捨てると、その下から現れたのは──
「じゃじゃーん! これが私の水着です!」
「…………は?」
晃のカメラが止まり、透亜が絶句する。
そこにいたのは、首元から足首までジッパーを上までキッチリと締めた、ガチ仕様の潜水用レスキューウェットスーツに身を包んだ翡翠だった。
誰がどこで溺れても(あるいはサメが出ても)、即座に荒波に飛び込んで救助・殲滅できる超実戦型仕様である。
一瞬の静寂の後、雛子の特大の関西弁ツッコミが再び爆発した。
「なんでやねーーーーーん!!!!!!」
浜風を切り裂くような大音量。雛子は翡翠の肩をガシガシと揺さぶる。
「ちょっと翡翠ちゃん!?
何その命を守るガチ装備は!?
海は命がけの戦場じゃないの、女の子が可愛く自分をアピールする場所なのよ!!」
「えっ? ですが、海は川と違って離岸流や複雑な潮流があり、いつ透亜様に危機が及ぶか……」
「そんな事だろうと思ってたわよ!!」
雛子はカバンから、あらかじめ用意していた「ある衣装」を引っ掴むと、翡翠の腕を掴んで脱衣所へと強制連行し始めた。
「ほら、大人しく私についてきなさい!
あんたのその最高のスタイルを、私が120%活かしてあげるんだから!!」
「わっ、雛子様!? 引っ張らないでください──!」
引きずられていく翡翠を見送りながら、綜一郎がつぶやいた。
「…あいつらが戻るまで、しばらく時間がかかりそうだな」
不機嫌そうに腕を組む透亜。
なお、その背後(別荘の待機部屋)では、各実家からついてきた専属のお世話係(執事やSPなど)のプロ集団が、若様・お嬢様方の影のサポートのため、無言の目配せを交わしながら完璧にお茶をサーブする準備を整えていた。
数十分後。
「お待たせー! 雛子プロデュース、最高傑作のお披露目よ⭐︎
刮目せよ!!」
雛子の勝ち誇った声と共に、脱衣所のカーテンが開く。
まず出てきた雛子自身は、健康的なスタイルを最大限に活かしたヘルシー&キュートな黒ビキニ。
自身の美しさを主張しつつも、次に控える本命を引き立てるための完璧な引き算の美学。
「ほら、翡翠ちゃんも出てきて!」
雛子に背中を押され、恥ずかしそうにモジモジしながら一歩を踏み出した翡翠の姿を見た瞬間──
ビーチの時が、完全に止まった。
翡翠が纏っていたのは、薄緑のシースルータンキニ。
彼女の中華系の顔立ちに絶対的に似合う、名前と同じ翡翠色。
上品なシースルー素材が、過去の戦闘で負った左上腕などの傷跡を優しくカモフラージュしつつ……動くたびに、日頃の極限までの鍛錬で贅肉を一切削ぎ落とした、うっすらと縦にラインの入った美しい腹筋が透けて見えている。
それは、ただ細いだけのモデル体型ではない、機能美と健康美が奇跡的なバランスで融合した、破壊力カンストの姿だった。
「う、うぅ……制服に比べて、圧倒的に防御力がゼロです……。
暗器も仕込めません……」
心細そうに自分の腕を抱き、身を縮める翡翠。
その姿を直視した瞬間。
「………………ッッ!!!!」
神城透亜の脳内計算速度ミリ秒の全思考回路が、ナノ秒で爆発四散した。
視覚から入ってきた「自分の色」を纏った護衛の、見たこともない可憐でヘルシーな色気。
それが解剖学的な完璧さと色彩心理学のリラックス効果を伴って、健全な高校生男子、神城透亜の脳をダイレクトに直撃する。
「おぉー!可愛い!よく似合う!」
と、手放しで褒める凪の横で、手で顔を半分隠し、ただ黙りこくる透亜。
「と、透亜様……? だ、大丈夫ですか……?」
心配して顔を覗き込もうとする翡翠。
至近距離に迫る極上の健康美。
「……っ、……ッ!!」
透亜は声にならない声を発しながら隣の綜一郎の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「一ノ瀬!! いや綜一郎!
今すぐ本家に連絡しろ! このプライベートビーチを今すぐ買い占める! 1秒以内にだ!!
翡翠をこれ以上、他の男の視界に入れるな……ッ!!」
「落ち着け神城。
ここは最初から一ノ瀬のプライベートビーチだ。
他の男は俺たちしかいない」
綜一郎がブレずに冷静なツッコミを入れる。
一方、晃が「うおー! 2人とも最高! ちょっとウインクしてみて!」とカメラを構えた瞬間、横から凪がスッと長い手を出してレンズを完全ブロックした。
「はいそこまでー。
晃、これ以上そのいかがわしいレンズを2人に向けたらそのカメラのSDカード今すぐコーラに漬けるよ?」
「うわっ、出たよ王子様ガード!
凪、お前最近翡翠ちゃんへのディフェンス固すぎない!?」
「晃、ちょっとカメラを渡してもらおうか?」
凪は黒い笑顔のまま晃からカメラをもぎとろうとする。
そんな大騒ぎの別荘のバルコニーで、雛子は「よっしゃ完全勝利!」とガッツポーズを決めていた。
しかし、これがまだ、雛子による「ギャップ萌え地獄」の第一段階に過ぎないことを、透亜も、翡翠も、まだ知る由も無かった──。
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次回、ギャップ萌え地獄・第二段階もお楽しみに!




