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第二十三章 パーティ、開幕!

いつもありがとうございます!


今回は入学祝いパーティ開場直前。一ノ瀬雛子のプロデュースにより、翡翠が恐ろしいほどの「美少女」へと変貌を遂げます。


ポーカーフェイスの裏で脳内がバグる透亜と、彼の殺気を察して完璧なアシスト(隔離)を見せる優秀すぎる友人たちの連携をお楽しみください!

「高等部入学祝いパーティ」の開場30分前。


ホテルの豪奢な特別控室で、神城透亜は一人、ソファーに深く腰掛けて手元のタブレットを眺めていた。


画面に映るチェス盤の進捗――御子柴律からリアルタイムで送られてくる、会場の裏で動く西園寺の私兵と他派閥の不穏な位置データ。


それを冷徹に見つめる透亜の横顔は、完全に「若き怪物」のそれだった。


脳内で秒単位の戦術計算を完了させ、ふう、と息を吐いたその時だった。


「神城ぉー、おっまたせー!!」


バァン!と勢いよく控室の重厚なドアが開け放たれる。


現れたのは、メガバンク頭取の令嬢でありながら、異次元のオーラを放つ一ノ瀬雛子だった。


今日の彼女は、いつもの制服姿とは一線を画している。


モノトーンを基調としながらも、アシンメトリーなカッティングと大胆なドレープが施された、極めてモードでデザイン性の高いハイブランドのドレス。


ギャル特有の華やかさと、エッジの効いた最先端のセンスが完璧に融合した、まさに誰もが振り返る主役級の着こなしだった。


「見て見て! ウチのドレス、超可愛くない!? って、雛子じゃなくてさ、主役はこっち! じゃじゃーん!!」


雛子がイタズラっぽく笑って、自分の背後に隠すようにしていた人物を、手でパッと迎え入れた。


「…………ッ」


その瞬間、透亜の指先がピクリと跳ね、タブレットの画面をあべこべにスワイプした。


そこに立っていたのは、少し気恥ずかしそうしている翡翠だった。


いつもは無造作にまとめられていたまっすぐな黒髪は、雛子の手によって、漢服ドレスに完璧にマッチする美しきハーフアップのお団子スタイルへとアレンジされている。


短めのぱっつん前髪が、その大きく、キリッとした目元を引き立てていた。


平凡な素顔が、プロのトータルコーディネートによって恐ろしいほどの化粧映えを起こしている。


雛子がプロデュースし、神城の財力で仕立てた、最高級の漢服風ドレス。


艶やかなペールブルーのシルク生地に、差し色として鮮烈な深紅の刺繍が夜の帳のように這っている。


その白い耳元できらめくのは、透亜が贈った真紅のピアス。


極めつけは、雛子の手によって丁寧に施された、驚くほど艶やかで引き込まれるような真っ赤な口紅だった。


いつもの日陰の空気に擬態した「お世話係」の気配は微塵もない。


そこにいるのは、透亜の独占欲を限界突破させるほどに可憐で、どこか神秘的な美しさを湛えた、一人の少女だった。


「透亜様……。


あの、その、こういった格好は初めてで……大丈夫ですか……?」


翡翠は、慣れないドレスの裾を小さな手でぎゅっと握りしめ、上目遣いで透亜を見つめている。


透亜は完全にフリーズしていた。


顔色一つ変えない鉄壁のポーカーフェイスを維持してはいるが、脳内の戦術計算回路は一瞬でショートし、ただただ「今すぐどこかへ隠して僕だけのものにしたい」という狂おしいほどの情動が津波のように押し寄せていた。


透亜は何も言えず、かといって目を逸らすこともできず、ただずっと翡翠を見つめていた。


「おーーい、神城?


固まりすぎだし! あんたのその、バカ高い審美眼(笑)的にはどうなわけ?」


ニヤニヤと意地悪く顔を覗き込んでくる雛子の声に、透亜ははっとして、目を逸らしながら急いで声を絞り出す。


「……別に。……普通だ」


「ぇえー?!普通なわけないでしょーが!


ほら、翡翠ちゃん、神城が目を合わせないってことは、超絶似合ってるって証拠!」


「ほ、ほんとですか? よかったあ!


全部雛子様のおかげですね!ありがとうございます!」


安心して嬉しそうに微笑む翡翠と、「どいたま!ウチにかかればざっとこんなもんよぉ!」と胸を張る雛子。


二人のやり取りを視界の端に入れながら、透亜はポーカーフェイスの裏で、内心一ノ瀬雛子にスタンディングオベーションを送っていた。


雛子が、飲み物を取りに行くタイミングを見計らってすっと翡翠が透亜の前に進み出ると、無邪気な瞳が、プロの護衛としての冷徹な光を宿すものへと変わった。


「透亜様。


これより、雛子様の影として潜入いたします。


あの西園寺という女の企み……私が必ず、すべて排除して御覧に入れます」


小声でそう言って、翡翠はドレスの胸元をそっと押さえ、淑女のように美しく一礼した。


一ノ瀬雛子の性格上、自分が狙われていると知れば、翡翠を危険に晒すまいと前に出るか、逆に翡翠を過剰に意識してしまう。


翡翠を完全に『無害な背景』として西園寺の懐に潜り込ませるには、一ノ瀬自身が翡翠を『ただの可愛い着せ替え人形』だと思い込んでいる状態がベストである。


という透亜の判断のもと、一ノ瀬雛子には一切の情報を伏せていた。


翡翠の耳元で、真紅のピアスが妖しく不穏にきらめく。


「……あぁ。無理はするなよ、翡翠」


「御意に」






大広間の重厚な扉が開くと同時に、まばゆいシャンデリアの光が神城透亜たちを迎え入れた。


西園寺詩織を隣に伴い、完璧な紳士の微笑みを湛えて入場する透亜。


だが、会場に入った瞬間、百戦錬磨の参列者たちの視線が、透亜たちの少し後ろへと一斉に吸い寄せられ、大きなざわめきへと変わった。


「おい、あの上品なドレスの美女は誰だ……?」


「一ノ瀬令嬢の隣にいる、あのアジアンビューティな方は……?」


当然の反応だった。


エッジの効いたモードなドレスを完璧に着こなす一ノ瀬雛子の美しさはもちろんのこと、その隣を歩く翡翠の破壊力は凄まじかった。


分厚い眼鏡を外したその素顔、美しく結い上げられたハーフアップのお団子、真紅のピアス。


そして、雛子仕込みの真っ赤な口紅が、漢服風ドレスのペールブルーと鮮烈なコントラストを描いている。


圧倒的な「化粧映え」を遂げた翡翠は、有象無象の男たちの目を一瞬で釘付けにした。


(……チッ)


透亜の完璧な営業スマイルの裏で、脳内ブラックリストがマッハの速度で更新されていく。


翡翠にねっとりとした視線を向ける他校のエリート、品定めするように見る他派閥のガキ。


そのすべての顔を、透亜は秒単位で網膜に焼き付けた。


その瞳は、完全に絶対零度の殺気を孕んでいた。


その「キングの無言の殺気」を、誰よりも早く察知したのが神城の腹心たちだった。


「――おやおや。透亜の目が『全員消せ』って言ってるね。


綜一郎、律、動くよ。俺が派手に注目を集めてあげるから」


壁際でグラスを傾けていた羽鳥晃が、楽しげに、だが鋭い声音で指示を出す。


晃はメディア王の次男としての圧倒的な社交性を発揮し、あえて大声で他校の有力者たちに声をかけ、会場の注目を自分へと引きつける「デコイ」となった。


同時に、規律を重んじる橘綜一郎が、鋭い視線で会場の出入り口を完全掌握。


西園寺の私兵の動きを鋭くマークし、警備ラインを引き締める。


その隙に、音もなく動いたのはITコンツェルンの御子柴律だった。


ダンスのファーストステージの鐘が鳴ると同時、律は雛子の前へと進み出た。


「一ノ瀬さん。……今日のドレス、似合ってる。……踊る?」


「えっ、律!?


……あはは、いーよ! あんたも今日、なんかカチッとしててウケるじゃん!」


雛子が嬉そうに笑い、律の手を取る。


普段は口数の少ない律だが、雛子の美しさに少し耳を赤くしながらも、エリートとしての完璧なステップで彼女をリードし、周囲の視線から守るようにフロアの中心へと誘い出した。


そして、翡翠の前へと滑り込んだのは、芸能界のモデルにして飛び級の天才、千歳凪だった。


「翡翠ちゃん、見ーつけた! 今日の翡翠ちゃん、世界で一番可愛いよ!」


人懐っこい、だが計算し尽くされた極上の芸能人スマイルで、凪は翡翠の前に跪き、そっと手を差し出した。


「あのお堅い透亜なんか忘れてさ。僕が最高のお姫様にしてあげる。――僕と踊ってくれる?」


「なっ……凪様!?あの、その、えーっと ……」


慣れないことをされて、思わずうろたえる翡翠。


しかし、凪はすかさずその小さな手を優しく包み込むと、エスコートのていで周囲の男たちを抜群のオーラと背中で遮断した。


「あはは!大丈夫大丈夫。

リードはまかせてよ!」


こうして、友人たちの鮮やかな連携により、雛子と翡翠は「周囲の有象無象の男たち」から完全に隔離された。


「まあ、神城さま? 素晴らしいお仲間をお持ちですこと」


隣で詩織が、何も気づかずに上品に微笑む。


「……あぁ、そうだね。僕の友人たちは、どれも優秀で気が利くものばかりさ」


透亜は詩織をリードしながら、視線だけはしっかりと凪にエスコートされる翡翠のドレス姿を捉えていた。


(橘、羽鳥、御子柴、千歳。……ナイスアシストだ。お前たちの次の利権、10%上乗せしてやろう)


内心で友人たちに最大級の賛辞を送りつつも、透亜はポーカーフェイスの下で、


(この女のエスコート役でさえ無ければ…)


と、どす黒い炎をパチパチと燃え上がらせていた。


そんな彼らのやりとりを――フロアの特等席から見つめる視線があった。


「お姉様、やはり神城透亜には近づかないほうがいいよ……。


あんな底の知れない男、九条家がまともに付き合うべきじゃないよ」


怯えたように小声で姉に囁いたのは、九条麗華の弟、九条聖夜だった。


彼は、透亜の営業スマイルの奥にある、網膜に他人を焼き殺すかのような絶対零度の殺気を本能的に察知し、背筋を凍らせていた。


「あら、何を言っていますの、聖夜」


九条麗華は、扇で口元を隠しながら、少し不機嫌そうな声で言った。


その視線が捉えているのは、透亜にエスコートされている詩織。


(……わたくしがお誘いした時に、相手がいるからとおっしゃっていたから、てっきりあのお世話係の事かと思っていましたが…。


西園寺の女狐め、どうやって透亜様に近づいたのかしら?)


二人に睨みをきかせる麗華の斜め後ろ、影のように静かに控えている付き人の晋は、穏やかな微笑みを絶やさぬまま、三白眼の奥をすっと細めた。


(……何か、裏で動いてるねぇ)


晋は表情を一切変えず、ただ静かに、これからのチェス盤の展開を愉しむように佇んでいた。


華やかなダンスフロアの熱気の裏で。


九条家が見守る中、チェス盤の黒い駒が、静かに、そして最悪のタイミングで動き出そうとしていた――。


最後までお読み頂きありがとうございました!


次回、ついにパーティ会場で【拉致事件】が勃発。ドレス姿の翡翠が、雛子を救うため狐狸特有の捨て身を見せます!


【読者様へのお願い】

面白いと思ってくださった方は、ぜひブックマークや、下の**評価(☆を★に!)**で応援をよろしくお願いします!励みになります!



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