表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/34

第二十二章 美しき蛇の罠

いつもお読みいただきありがとうございます!

今回は入学祝いパーティ前夜、それぞれの思惑が交差する書庫での静かな前哨戦です。

西園寺の仕掛ける罠に、透亜と翡翠はどう立ち向かうのか――。

不穏に回り始める主従の歯車を、どうぞお楽しみください!

放課後。


夕暮れが琥珀色に染め上げる名門校の特別書庫。


人目を遮る重厚な本棚の隙間に、西園寺詩織は神城透亜を誘い出していた。


「神城さま。


今週末の、私たちの『高等部入学祝いパーティ』……ぜひ、私をエスコートしていただきたいのです」


詩織はいつもの清廉なお嬢様の微笑みを浮かべながら、衣服が擦れ合うほどの至近距離へと滑り込む。


上質な香水の香りと共に、華奢な指先が透亜の胸元へ、まるで衣服の乱れを直すかのようにそっと触れた。


旧華族の末裔としてのプライドと、男を惑わす色仕掛け――完璧なハニートラップの構え。


しかし、透亜の完璧に整った中性的な美貌は、1ミリも動じない。


涼しげな目元が、目の前の「美しき蛇」を静かに見下ろしていた。


「光栄な誘いだね、西園寺。だけどあいにく、先約があってね…。


僕の時間を割いてほしいなら、それ相応の理由を話してもらわないと」


完璧な営業スマイルの裏で、透亜は内心冷ややかに相手を値踏みしていた。


(……浅はかだな。


西園寺一族の狙いなど、律のハッキングと僕の情報網でとうに掌握済みだ。


僕をエスコート役に据えて、神城の利権を周囲に見せびらかしたいだけだろう)


だが、詩織の微笑みは崩れなかった。


彼女はさらに一歩、吐息が届く距離まで顔を近づけ、清廉な声音のまま、冷酷な毒を囁いた。


「ふふ、理由なら十分にございますわ。


……例えば、あの一ノ瀬雛子さんの『安全』、というのはいかがかしら?」


「…………何?」


「ご存知ありませんの?


メガバンク頭取の令嬢である彼女を拉致して、実家を脅迫しようと企む不届きな暴漢どもがいるのです。


……偶然にも私、その暴漢たちが、今週末の入学祝いパーティの最中、どこで彼女を襲撃するかの計画を、手に入れてしまいまして」


詩織の指先が、透亜のネクタイをゆっくりとなぞる。


甘い誘惑の形をした、逃げ場のない脅迫。


「私が知らないフリをすれば、一ノ瀬さんはパーティの裏で、取り返しのつかない目に遭う……。


ですが、神城さまが私の隣で大人しくエスコート役を務めてくださるなら、私も西園寺の私兵を動かして、彼女を助けて差し上げますわ?」


詩織は勝ち誇っていた。


他派閥の暴漢たちにわざと雛子の隙を教え、襲撃を今週末のパーティ会場へと誘導したのは、他ならぬ詩織自身。


自分で事件を仕組んでおきながら、それを「助けてほしければ私の言うことを聞け」と取引の材料にする――それが彼女の策略だった。


(自分で事件の状況をセッティングしておいて、恩を売るために僕を脅迫するか……。


一ノ瀬を人質にして、僕の動きを縛るつもりだな)


冷徹に状況を分析しながら、透亜はポケットの中のスマートフォンの画面を指先でそっと操作した。


手元から、背後に控える翡翠へ贈った「真紅のピアス」へ、極小の暗号電波を送る。


(聞いているな、翡翠。状況を把握しろ)という、主からの合図だった。


書庫の入り口の物陰――分厚いダサ眼鏡をかけ、日陰の空気に擬態して息を潜めている専属護衛・翡翠の気配が、わずかに引き締まるのを透亜は察知した。


透亜は、至近距離の詩織を見下ろし、中性的な美貌に極上の、とろけるような営業スマイルを浮かべた。


「……なるほど。


西園寺、君ほど優しくて聡明な女性からの頼みなら、断る理由なんてどこにもないね。


一ノ瀬の安全をそこまで憂う君の美しい心に免じて、今週末は君のエスコート役を務めさせてもらうよ」


「まあ……! 嬉しい。ふふ、やはり神城さまは話が分かりますわ」


透亜のあまりに完璧な美貌と甘いセリフに、詩織は一瞬だけ本気で頬を染め、満足げに身を引いて書庫を去っていった。







――静まり返る書庫。


詩織の足音が完全に消えた瞬間、物陰から翡翠が音もなく姿を現した。


ダサ眼鏡の奥の瞳は、感情を完全に排したプロの護衛のそれ。


仕事モードへと一瞬で切り替わっている。


翡翠は無言で透亜にスッと近寄ると、詩織の指先が触れていた透亜の胸元やネクタイを、小さな手でさっさっと払った。


(あの女が約束を守るとは思えない…一ノ瀬雛子近辺は警戒を怠らない方がいいな。)


翡翠はプロの目で、目に見えない接触痕や毒物の有無を確認するかのように、極めて迅速で無駄のない手つきで透亜の服を払い続ける。


「……おい、叩きすぎだ。」


透亜はぶっきらぼうにそう言ったが、避けるでもなく、翡翠の気が済むまで大人しくパタパタとやらせていた。


(……まぁ、こいつがこれだけ迅速に、徹底的に僕の身辺を清めようとするのは、それだけ僕への忠誠心が深いということだ。


服が少し毛羽立つくらい、安いものか)


脳内では、自分を守るために徹底して動く翡翠の狂信ぶりに、まんざらでもない優越感を抱いてフッと口元を緩めている。


しかし、翡翠がその胸に抱いた決意は、透亜の想像以上に頑なだった。


(雛子様が拉致されようとしている。


そして透亜様が、あの女に尊厳を脅かされている……)


プロとしての冷徹な戦況計算の末、翡翠の脳内に、命懸けの誓いが刻まれる。


(私の役割は、透亜様のお役に立つこと。


雛子様を絶対に救い出し、透亜様のチェス盤を完璧に守ってみせる……そのためなら、この身がどうなろうとも!)


神城の闇の奥で育まれた歪な主従の絆が、西園寺詩織の仕掛けた最悪の罠へ向かって、静かに回り始めた。







そして、パーティ前夜。


神城の屋敷の私室で、透亜は手元のタブレットを睨みながら、明日の配置を最終確認していた。


部屋の隅には、明日、翡翠が着用する予定の漢服風のドレスが静かに掛けられている。


トップギャルの一ノ瀬雛子がプロデュースし、真紅のピアスに合わせるために仕立てた、艶やかなペールブルーと深紅のドレス。


透亜は視線をタブレットに落としたまま、静かに口を開いた。


「翡翠。


明日は予定通り、僕は西園寺の隣に就く。


君はあの一ノ瀬から贈られたドレスを着て、彼女の影に潜め。


律からの情報網は僕が完全に掌握する。……いいか、絶対に無理はするな」


「御意に」


翡翠は静かに頭を垂れた。


その耳元には、透亜から贈られたあの真紅のピアスが、月光を受けて妖しくきらめいていた。


明日、それぞれの思惑が交差するパーティの幕が開くー。



覧いただきありがとうございました!

西園寺詩織のハニートラップ&脅迫を冷徹にいなす透亜様でしたが、内心は翡翠のハタキ込み(?)にちょっと満足気なご様子。しかし翡翠の忠誠心は、透亜様の想像を超えるレベルで「命懸け」の戦闘モードに入ってしまいました……!

そして前夜にチラつく、雛子プロデュースのドレス。

次回、いよいよ波乱のパーティが開幕します。

「続きが気になる!」「主従のすれ違い(?)が最高」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】で評価・応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ