第二十章 最強の生き物とキングのジレンマ
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今回は学外の最高級ブティックが舞台。
新入生歓迎パーティーに向けて翡翠のドレス選びをしていた透亜ですが、そこに嵐のようなトップギャル・一ノ瀬雛子が乱入!
まさかの「当日までお預け」を喰らい、完璧な主君の理性が大荒れに……!?
後半のシリアスな急展開まで一気にお楽しみください!
名門一貫校の高等部、その喧騒を離れた一角に佇む最高級ブティックのVIPルーム。
一ヶ月後に控えた『名門新入生歓迎合同パーティー』に向け、神城透亜は重厚な革張りソファに深く腰掛け、手元のタブレットに優雅に指を滑らせていた。
その斜め後ろには、完璧な直立不動の姿勢で控える翡翠の姿がある。
学外というプライベートな空間であるため、今の彼女はあの分厚く野暮ったい「ダサ眼鏡」を外し、素顔を晒していた。
透亜は画面に並ぶドレスのカタログを冷徹な戦術家の目で睨みつける。
「神城の随伴員として、周囲に余計な隙を見せず、かついざという時の機能性を考慮すると……」
理屈をこねながら、心の中では翡翠にどんな衣装が似合うかを秒単位で品定めしていたその時、VIPルームの重厚な扉が「お疲れーっしょ!」という軽いノリと共に、躊躇いもなく開け放たれた。
「なっ、なぜ君がここに……!?」
完璧な紳士の仮面を崩して驚く透亜の視線の先で、金髪を華やかに巻いた学園のトップギャル、一ノ瀬雛子がスマホをひらひらと振って見せる。
「え? あー、律がさー? また神城のスマホGPSハッキングしてストーカーしてたから、おめーマジ陰気すぎ!ってスマホ奪って住所特定して来ちゃった!」
「……あのクソハッカーめ、後で脳細胞ごと初期化してやる……」
透亜が美貌のこめかみに青筋をピキらせる。
その尋常ではないやり取りを横で見ていた翡翠は、不思議そうに首を傾げ、純粋な声をあげた。
「あの……雛子様と律様は、そのようにスマホを奪い合うほど、仲がよろしいのですね……?」
「あーー、まあちょっとねー!」
雛子はニッシシと意味深に悪戯っぽく笑うが、それ以上は語らない。
隣で透亜だけは「当然だ」と言わんばかりに冷ややかにため息をついているが、世間一般の常識から隔離されて育った翡翠は、不思議そうに首を傾げていた。
「そんなことより眼鏡ちゃん――あ、今は裸眼じゃん、超ウケる可愛い! ドレス選びっしょ?
神城のセンス、カタブツすぎて絶対地味〜な喪服みたいの選ぶからウチがプロデュースしてあげる!」
雛子は有無を言わさず翡翠の手を引いた。
「このピアスに合わせて、絶対漢服ベースのドレスが映えるって! リップも真っ赤なやつ、ウチが塗ってあげるから!」
「え、あ、雛子様……っ!?」
戸惑う翡翠は、そのまま嵐のようなギャルの勢いに巻き込まれ、試着室の分厚いカーテンの向こうへと連れ去られてしまった。
VIPルームに静寂が戻り、待つこと十数分。
カーテンの向こうから、衣擦れの音と共に微かな話し声が漏れ聞こえてくる。
「……あの、雛子様、さすがにこれは、その、スースーして落ち着きません……」
「大丈夫だって! マジ盛れてる! ほら、神城に見せて――」
透亜は無意識に息を呑み、ソファからゆっくりと立ち上がった。
毎日見ているはずの、翡翠の素顔。
それが、深紅の漢服ドレスと真っ赤な口紅を纏ったら、一体どうなってしまうのか。
戦術家としての計算など一瞬で吹き飛び、胸の奥が不自然なほど激しく脈打つ。
だが、試着室のカーテンがわずかに動いた直前、雛子が室内から顔だけを覗かせ、意地悪にニヤリと笑った。
「あ、神城は……と、思ったけどやっぱだめー。
本番までお預け。
男の子はパーティー当日までのお楽しみってね!」
ピシッ、とカーテンが完全に閉め直される。
「……は?」
透亜が呆然と立ち尽くす中、遮断されたカーテンの向こうから、雛子の勢いに完全に押された翡翠の、ひどく困惑したような声だけが響いた。
「……と、いうことだそうです、透亜様……。申し訳ありません、当日まで秘密ということで……」
一目見ることすら叶わず、完全なるシャットアウト。
だが、見えないからこそ、カーテンの向こうで真っ赤なリップを塗って、恥ずかしそうに身を縮めているであろう翡翠の姿が脳内に鮮烈に浮かび上がってしまい、透亜の脳内は別の意味で完全に大パニックを引き起こしていた。
「……っ、」
チッ、と小さな舌打ちが室内に落ちる。
動揺を悟られないように、透亜は必死にいつもの仮面を引っ張り出してきて言った。
「……そうだね。楽しみにしているよ」
声音こそ、どこまでも余裕たっぷりな紳士のそれ。
だが、その脳内(本音)では――。
(はぁーー?! 何が『当日までお楽しみ』だ一ノ瀬雛子!
許可なく僕の所有物の衣装をプロデュースした挙句、この僕に見せないだと!? クソっ……!!)
特大の理不尽な独占欲と、見られなかった圧倒的な残念さで、脳内は未曾有の大荒れ模様だった。
しかし、鋭い観察眼を持つ雛子だけは、透亜のその微かな舌打ちと不機嫌さを見逃さず、クスクスと肩を揺らして笑った。
「神城、平静装ってるけど、めっちゃ残念がってるじゃん! ウケるー!」
雛子が「翡翠ちゃん、次これ着てみよ!」と楽しそうに試着室の奥へ戻った直後、透亜のポケットでスマホが「ブブッ」と不穏に微振動した。
画面を取り出すと、律から『先ほどは一ノ瀬さんがすいません』という胃の痛そうな謝罪と共に、暗号化された極秘テキストが届いていた。
――『パーティー当日の警備網に、不審なハッキングの痕跡を検知。
他派閥の潜入員と、神城の旧反乱分子、さらには「あの組織」の影が裏で動いている可能性大。
ターゲットは一ノ瀬雛子、そして……それに伴う、翡翠の「処分」です』
スマホを握る透亜の指先に、ミキミキと不穏な力がこもる。
網膜の裏が、絶対零度の冷徹さで満たされていく。内心のイラつきは、一瞬で「戦術家」の冷酷さへと切り替わった。
(……なるほど。落ちぶれた有象無象どもが、僕のチェス盤をひっくり返そうというわけだ。僕の周りの人間を狙うなんて、いい度胸じゃないか)
だが、透亜の薄い唇は、狂気じみた歪な歓喜の形へと歪んでいく。
これはピンチではない。チェス盤の駒を根こそぎ薙ぎ払う、絶好の好機だ。
(面白い。僕のものに手を出したらどうなるか、わからせてやる)
試着室の向こうでは、「ほら、こっちのリップも絶対可愛いって!」「あ、あの、雛子様……顔が近いです……っ」と、楽しそうに世話を焼く雛子の声がしている。
生まれて初めて触れる同世代の女の子の距離感に、戸惑いつつもどこか嬉しそうな翡翠の、微かに弾んだ声。
手元のスマホに冷酷な一手を打ち込みながら、透亜は静かに、しかし激しく燃え盛る闘志の炎をその瞳に宿した。
お読みいただきありがとうございました!
雛子にプロデュースされ、試着室の向こうで真っ赤なリップを塗っている翡翠……(見たい)。寸前でシャットアウトされて内心ブチギレの透亜様が最高に愛おしいですね。
しかし、ラストに律から届いた不穏なメッセージ。
翡翠と雛子を狙う影に対し、透亜の目が一瞬でガチの「魔王」に切り替わりました。僕のもの(翡翠)に手を出そうとする奴らの運命やいかに……!
「透亜様、お預け可哀想だけど次回の無双期待してます!」「ギャル雛子ナイスアシスト!」と思った方は、ぜひブックマークや評価で応援をよろしくお願いします!




