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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件 ~  作者: 海苔
本編

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36/41

35. 違和感

 

 三人分の足音。キルシャと莉里、二人よりは小さいがルシャージャの物。

 不思議な事に、ルイスからは全くと言っていいほど足音がしない。

 忍者だったりするのだろうか。無いだろうけど。というか、あってほしくない。イメージが崩れるから。

 莉里の少し前を歩くキルシャは、ぴょこぴょこと飛び跳ねている。

 疲れないのだろうか。

 転ばないよう気に掛けつつ、薄暗い足元を見ながら歩く。

「キルシャ、転ばないように気を付けて」

「ん-」

 声を掛けても曖昧な返事。分かっているのかいないのか。

「ルシャージャ」

 黙っていたルイスが口を開く。

「この先。突き当りの扉」

 変わらない、ルシャージャの落ち着いた声。

「了解」

 大人二人の冷静な態度に、安心が浮かんでくる。

 この人達なら大丈夫。

 小さく笑みを浮かべ、未だ跳ねているキルシャの背を見つめた。



 ***



「うわあ、広いねぇ」

 中へ入ったキルシャが、後ろから声を上げる。

 気が抜ける、とルイスは苦笑する。

「キルシャ、こっち。大人しく、ね?」

 莉里がキルシャを宥める。

「あ、ごめんなさぁい」

「いや――ルシャージャ」

「はいはい。少年達、此方へ」

 一瞬振り返り、二人がルシャージャの許に居るのを確認して前を見据えた。

 カツン、足音が響く。

 二人分の人影が浮かび上がった。

 静かに、構えを取る。

「絶対、離れないで」

 背後からルシャージャの声。

「は、はい・・・」

「はあい。おねえさん、ぎゅー」

 緊張気味の莉里と、普通なキルシャ。

 キルシャが案外マイペースな事に驚きが浮かぶ。

 思考を、頭の隅に追いやった。


 拳を構え、正面の影に突っ込む。

 片方が後ろに回るのが分かった。

 どちらもルイスに集中しているのは、ありがたい。

 大丈夫だとは思うが、両方の狙いが自分であるというのは気が楽だった。

 突き出した拳は、案の定避けられる。

 動いた影の腕を掴みながら、腰を落とし屈む。

 頭上をナイフが通過した。

 銀色のそれが、鈍く光る。

 掴んでいる腕を引き、勢いのまま背後に背負い投げた。

 ナイフ持ちも勿論避ける。

 だが、それでいい。

 バチンと派手な音が響き、ルイスが掴んでいる方の男が倒れる。

 ルイスには痺れも衝撃も無い。流石だと感じながら動く。

 もう一人がそれに気を取られているうちに背後を取り、締め上げた。

 滑り落ちたナイフを蹴り、離れた所に飛ばす。

 ナイフが壁にぶつかった。

 暴れる影が、ルイスの腕を掴む。

(っ、不味い)

 体を引こうとしても、強く掴まれていて動けない。

 失敗した。

 体が浮き、視界が反転する。

 背負い投げだ。

 舌打ちをし、受け身を取る。その時でも、男の腕を離さない。

「逃がさねえよ」

 向こうが体を引こうとするが、遠慮なく力を込めて逃さない。

 腕を自分の方へ引張り、体が傾いたタイミングで足払いを掛ける。

 支えを無くした影の主を引き、ルシャージャが視認できるようにする。

 一瞬視界が真っ白になったが、気にせず影を締め落とした。光を受けた事で、渋い焦げ茶の髪が見えた。まだ年若い――ルイスと同年代だろうか、体格のいい男だった。


 ルイスの役目は明白である。ルシャージャが動きやすいように動く、たったそれだけ。

 結果的に無力化できれば、それでいいのだから。

 気絶を確認し、男から手を離した。

 息を吐き、部屋を見回す。

 いつの間にか、明るくなっていた。

 ルシャージャだろう。照明用の魔法。何度か見た事があった。

「お疲れ様、ルイス」

 振り向くと、ルシャージャ達が此方を見ていた。

「おう、ありがとなルシャージャ。助かった」

「すごい、ですね・・・ルイスさん」

 呆けたような莉里の顔。

「サンキュ」

 隣に視線をずらすと、キルシャがルイスを見つめていた。オッドアイである青と赤の瞳は、きらきらと輝いている。

「かっこいい。おにいさん、ヒーローみたい!」

 笑顔で言うキルシャに、自然と笑みが零れた。

「だろ?」

「うん!すごいねぇ」

 ―ね、リサト君。

 笑うと、それ以上の笑顔が返って来る。

「だね。さっきのルイスさん、凄く格好良かったです」

 にこにこと笑う子供達に、微笑ましい気持ちが芽生えた。

「怪我は無いね」

 男達二人に拘束魔法を掛けたルシャージャが言う。

「当たり前だろ」

 冷めたルシャージャの瞳が、ルイスに突き刺さった。


「あれぇ?」

 キルシャの不思議そうな声が上がる。

「どうしたの、キルシャ?」

 首を傾げるのは莉里。

「んー、あそこぉ」

 指を指した先は扉。恐らく外に繋がっているのだろう。

 左右色の違う瞳は、じっと扉を見つめている。一瞬、瞳が光っている気がした。

「・・・行こうか」

 ルシャージャが言う。

「うん。おねえさん」

「あ、分かりました」

「ああ」

 可笑しくもなんともない提案。自然な流れだろうが――ルシャージャらしくない、そう感じた。



 扉を開け、外へ出る。風が髪を揺らした。

 涼しさが心地良い。

 キルシャが自然な足取りでルイスの横をすり抜け、少し進んだところで振り返る。

 手の届かない位置。何故かルシャージャは、その行動を止める事無く見つめていた。


「んふふ、おねえさぁん。連れてきてくれて、ありがとねぇ?キルシャ、ここでばいばいなんだぁ」

「・・・矢張りか」

「やっぱりぃ、気づいてたねぇ」

 楽しそうに笑うキルシャ。

「キルシャ?ばいばいって、どういう事?」

 莉里の瞳が揺れる。

「ん、ありがとぉリサト君。楽しかったぁ」

 可愛らしく笑うキルシャ。

 そういう事じゃないだろう。

「彼はただの被害者ではなかった。それだけ」

 それだけなんだ、と言うルシャージャ。

「ルシャージャお前、何を」

 ――知っているんだ。

 分からない。ルイスには何も分からない。

 ルシャージャは、何を知っている。何が、見えている。


「それ、どういう・・・」

 事なんですか、莉里の声は震えていた。

「おねえさんの言うと―り、だよぉ」

「キル、シャ・・・?」

 なんで、と莉里の瞳が大きく揺れる。

「あはっ、驚かせちゃったぁ?ごめん、ねぇ?」

 くすくすと笑いながら言う。

 訳が分からなかった。

 ルシャージャからは何も聞いていない。

「おい、ルシャージャ」

 説明しろ、言い掛けた言葉が音になる事は無かった。

 足音と気配。土を踏む音。

 キルシャの傍に影が寄る。月に照らされた藍色の髪と、紺の暗い瞳。

 髪色も瞳の色も違うけれど、間違いない。あれは、彼奴は――ルイス達にこの場所を教えた、あの男だ。

 男は、変わらずの無表情で口を開いた。

次話は続けて投稿。

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