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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件 ~  作者: 海苔
本編

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35/41

34. 行ってきます

 

 なんだか、外が騒がしい。正確にはこの部屋の外。下の階や上の階から、ばたばたと走り回る男がする。

 どうしたんだろう。二人が来たのが、ばれた?

 体から血の気が引いて行くのが分かる。

「リサト君」

 莉里の異常を察知したのか、キルシャが袖を掴んでくる。

 どうしたらいいんだろう。

 ルイスとルシャージャに目を向ける。

「来たか」

「みたいだね」

 二人は冷静だった。

 寧ろ、待ち望んでいたかのような反応。

 一体、どういう――ドアが勢いよく開いた。

 反射で身構える。

「動くな!・・・って、あれ?先輩」

 鋭い目つきで部屋の中を見回した男は、ルイスに目を止めてきょとんとする。

 先輩って・・・。


「お、速かったな」

「あ、はい。先輩もご無事で・・・あのう、ここに奴隷商の奴って」

「そこ」

 ルシャージャが壁際で倒れている男を視線で示す。

「あ、どうもどうも。じゃ、ちょっと失礼しまーす」

 莉里達にぺこぺこしながら男に近付き、彼は手錠の様な物で拘束する。

「あの、ルイスさん。この人は?」

 恐る恐る片手を上げて聞く。

「ああ、悪い。驚かせたよな。後輩だよ」

 矢張り、先輩というのはルイスを指していたらしい。

「じゃあ、あの人も兵士さんなのぉ?」

「おう」

「ルイスよりは気が利く人だよ」

 さらりと毒を吐くルシャージャ。

 ルイスに対し、当たりが強い気がする。

「ルイス先輩は漢気の人ですからねえ。お久し振りです、ルシャージャさん」

 愛想よく笑う後輩の彼。

「で、その子達は・・・」

「莉里、です。こっちは――」

 軽い会釈と共に名乗る。

「キルシャです!兵士さんも助けにきてくれたのぉ?」

 相手が兵士だからか、目が輝いている。

 好きらしい。

 まあ、助けてくれたルイスと同じ兵士ともなれば、分かる反応だ。

「うん。あ、自分はキナリ・クロスと申します」

 敬礼をした後、此方にウインクをする彼――キナリ。

 どうやら彼はお調子者らしい。


「あ、先輩。予定通り進んでますよ」

 思い出したと手を打って言うキナリ。

 何処か気の抜ける人だなと思う。

「は、予定?」

「あれ、ルシャージャさんから伝言あったんですけど・・・成程」

 納得したように頷く。

「ルシャージャ?」

「君と別れた直後に少々。名前を使っていいって言ったのはルイスだよ」

 つまり、勝手に名前を使ったらしい。

「一言くらい言えよ・・・」

 呆れた様に頭を掻くルイス。

 それで済ませていいのか。

(慣れ過ぎじゃない?)

 キルシャは何が楽しいのか、くすくす笑っている。

 この短時間で驚きばかり。頭がくらくらしてきたけれど、キルシャが楽しそうならいいかと思ってしまう。

 ただの現実逃避だが。


「で、予定って?」

 仕切り直す様にルイスが言った。

「突入ですよう。ただの突入じゃあないですよ、一斉突入です。管轄外の人達にも声掛けて、街中を走り回って・・・。頑張ったんで、今度なんか奢ってくださいね」

「調子いい奴。分かってるって」

 さすが先輩、と笑うキナリにルイスは苦笑を漏らす。

 明るい人だなと思っていると、静かに聞いていたルシャージャが口を開いた。

「それで、結果は?」

 結果・・・何のだろう。

「ああ、それなんですけど・・・なんと」

 引き延ばすんだ。

 ルシャージャの冷めた目に気付いているのかいないのか、キナリは全く気にした様子も無く笑う。

「なんと!ゲットできました~」

 はい拍手ー、と一人手を叩く彼。

 良い事、なのだろうか。

「そう・・・ありがとう」

 そう言って、微笑みを浮かべて見せたルシャージャ。

「ひゃー、美しいですねえ。にしても、こんなあっさり出てくるとは思いませんでしたよ」

 たしかに綺麗なのだが、茶化されると薄れるというかなんというか・・・。

「二人で進めるなっての。目撃証言の事、でいいのか?それが出てきたって?」

「あ、そうですそうです。ルシャージャさんに言われた通りにして、もう一度聞き込みしたらあっさりと」

「奴隷紋の話、したでしょ」

「あー、あれか」

 どれなんだ。

 キルシャを横目で見ると、此方も不思議そうにしている。というか、聞き流している。

 興味が無いのか、自分の髪を弄んでいた。


「あの、何が何だが・・・」

 ついて行けなくて口を挟むと、キナリが笑って応じた。

「いやあ、自分らが間抜けだったって話ですよ。それが無ければ、もっと早く助けに来れたんだけどねえ」

 ごめんね、と莉里とキルシャの頭を撫でる彼。先程まで莉里よりも年下に見えていたというのに、矢張り大人だと実感する。

「それって、どういう・・・?」

「写真を使っちゃいまして。言われた通り、写真無しで聞き込みをもう一度したら普通に目撃証言が」

「そんなあっさり出たのかよ」

「はいそれはもう。さくっと」

「まじか」

 あー、と呻くルイス。

 いまいち理解できていないけど、今聞く事ではないだろう。

「後悔は後。行くよルイス」

 冷めた瞳がルイスを一瞥する。

「何処だよ・・・ああ、了解」

 ルイスは一瞬困惑を見せたが、納得した様に頷く。

(何で伝わるの)

「キナリ、此奴等頼むわ」

 莉里達を指で示し言った。

「あ、はーい。分かりました」

 だから軽いって。

 緊張感無いなぁ、なんて考えているとキルシャが横をすり抜ける。

「やだぁ。おにいさん、行っちゃいやなのぉ」

「ちょ、キルシャ」

 ルイスにしがみつき言うキルシャに、ルイスは困ったように笑う。

「ん-、危ないからなあ・・・。キナリと待っててくれないか?」

 ルイスの視線を受け、ルシャージャも口を開く。

「そうだね。子供を連れて行く訳にはいかない」

 当然の判断だ。許可する方が可笑しいだろう。

「キルシャくーん、ほら。リサト君も居るからね?一緒に待っていよう?」

 キナリが莉里を示し言う。

 ルシャージャは少し考えてから、屈んでキルシャと目を合わせた。

「ねえ、大人しくできる?私やルイスの言う事、ちゃんと聞けるかな」

「ルシャージャ、何を」

「うん!いい子にするからぁ。おねがい、おねえさん」

 まさか、

「私から離れない事、それを守れるなら連れて行く」

「ほんとう?ありがとぉ、おねえさん」

「え、ルシャージャさん?なんで」

 思わず口を挟む。

「おい、どういうつもりだ」

 ルイスの目が鋭くなる。

 当たり前だ。明らかに危険なんだから。

「折れる気は無さそうだから。このまま言い合っているのは時間の無駄」

 それは、・・・そうだけど。

「守れるんだな、ルシャージャ」

 念を押す、低い声。

「勿論」

「はー、分かったよ」

 仕方ねえなあ、と頭を掻くルイス。


「あ、あの。僕も、連れて行ってくれませんか・・・」

「お前もか」

 呆れた様なルイスの声。

 キルシャ一人、行かせるのは不安だから。

 大丈夫だって、分かっていても。

「え、リサト君も?自分そんな頼りないです?そりゃあ、お二人よか弱いでしょうけども」

「え、あ、すみません。そういうつもりじゃ」

 慌てて否定すると、キナリはからりと笑う。

「分かってるよ。怪我には気を付けてね」

「私から離れない様に。いいね」

 軽く溜息を吐いた後、ルシャージャはそう言った。

「ありがとうございます。すみません、ルシャージャさん」

 自分まで我儘を言ってしまった事に少しの後ろめたさがあったのだが、取り敢えず許可を貰えた事に安堵する。

「それじゃあ、此処はお願い」

「はい!了解しました。大丈夫でしょうけど・・・一応気を付けてくださいね」

「おう、サンキュ。キナリ、お前も気を付けろよ」

「大丈夫ですよう、先輩じゃないんですから」

「どういう意味だおい」

「あはは、行ってらっしゃーい」

「うん。いってきまあす」

 小さく手を振って笑うキルシャ。

「リサト君もぉ、ね?」

「え、っと・・・行ってきます」

 流される形で手を振ると、キナリも振り返してくれる。

 気付けばルイスは部屋を出ていて、ルシャージャが此方を見つめていた。

 開けてもらった扉を、キルシャと潜る。最後にルシャージャが出て、大人二人に挟まれる形で歩き出した。

次話は6月2日20時に投稿。

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