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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件 ~  作者: 海苔
本編

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34/41

33. 説明と針

 

「――とまあ、こんな事がありまして」

「今に至る、と」

 白髪の女性――ルシャージャは何か考える様な仕草をする。

 ルイスに聞いたが彼女の髪は地毛で生まれつきらしい。若白髪とか可哀想なんて思ってごめんなさい。

 内心で謝罪していると、考えが纏まったらしい彼女が口を開いた。



 ***



「少年達、体調に異変・・・何か変わった事はある?」

 何時もよりいくらか言葉を砕いて話すルシャージャ。

 一応、気を使ってはいるのか。いつも此方にするような口調では無い事に、ルイスは息を吐く。

「変わった事・・・変な臭いが移ってます?甘くて、でも鼻につんとくる様なやな臭いなんですけど」

 移っていたらショックだ。臭いのは普通に嫌。鼻が慣れちゃったのかもう臭い分かんないし。という事を、半ば独り言の様に話す坊主――莉里。

 そんな様子を不思議そうに見つめている莉里よりも幾らか年下だろう少年――キルシャ。

「此処だとよく分からないね。この建物全体に薄く香ってるし」

 嫌そうに眉を顰めるルシャージャ。

「あー、それは思った。今は慣れちまったんだがな」

 入った時から少しの間は感じていたが・・・鼻が可笑しくなったな。

 此処を出て暫くしたら治るだろう。

「え、そうなんですか?」

 きょとんとしている莉里に、釣られて首を傾げるキルシャ。

「流石に強いとこだと分かるけどさ」

 そう言うと、納得した様に頷く莉里。思い当たる節があるらしい。

「おねえさんは、おにいさんのお友達ぃ?」

 ねえねえ、とルシャージャのスカートを軽く引き問うキルシャ。

 いつの間に移動したんだ。

「友達・・・私がこれと?」

 此方を指し言うルシャージャ。

 これって言うな。あと指さすな。子供の前だぞおい。

 呆れていると、ルシャージャはくすりと笑った。

「あの人は、依頼人なんだ。仕事相手だよ」

 普段は見せない優しい笑みを浮かべる彼女に、鳥肌が立つ。

 無理。

 莉里は見惚れているが、止めておいた方が良いと思う。見た目からは想像できないくらい性格悪いからな此奴。

「一緒におしごと?じゃあ、おねえさんも兵士さんなのぉ?」

 同僚だと思われたんだが。ルシャージャ、魔法の腕はいいけど体術はそこまでだからな・・・。細すぎるし、彼奴の体が耐えられないだろう。

「残念。兵士では無いね。私は――探偵だから」

「たんてい?わかんないけどぉ・・・かっこいいおしごとだねぇ」

「どうもありがとう」

 優しく頭を撫でるルシャージャ。気持ち良さそうに目を細めるキルシャは、何処か猫の様だった。

 飼い主と猫か?

 キルシャは獣人でも無い筈なんだが。


 手を離した彼女は、ルイスに視線を移す。

「ルイス。この子達以外の子供は?」

 切り替えたらしい。

「いや」

 首を振り答える。

「そう」

 ルシャージャはルイスから目を逸らし、莉里に止まった。

 莉里は肩を跳ねさせ、片腕を後ろに隠す仕草を見せる。

 なにか・・・あ。

 近付いて行った彼女は、莉里の片腕を掴み勢いよく袖を捲った。

「まっ・・・」

 慌てていた莉里だが、抵抗らしい抵抗を見せない。

 腕を観察していた彼女は、一つ頷いて口を開いた。

「火傷だね。結構強く押されてるし・・・熱かったんじゃない?」

「え?リサト君、火傷してるのぉ?だ、だいじょうぶ?」

 火傷・・・ルイスが乱入した時だ。あの時男の手を離れたあれが当たったのだろう。

 失敗した。男の無力化よりも子供達を気に掛けるべきだったか。

「あー・・・大丈夫ですよ、これくらい。キルシャも、心配してくれてありがとう。ぴんぴんしてるでしょ?気にしないで」

 言わなかったのはタイミングが無かったのとキルシャの存在か・・・。

 莉里はどうやら抱え込む質らしい。

「嘘。気力でどうにか堪えてるだけでしょう。あとは・・・アドレナリンかな。感覚が麻痺しているだけ」

 言葉に詰まっているところを見るに、事実らしい。

「え、え?おねえさ、・・・リサト君だいじょうぶじゃないのぉ?」

 キルシャの顔に不安が滲む。

 少し考えてから、ルイスはキルシャを抱き上げる。

「ひゃあ!おにいさん、どうかしたぁ?」

「大丈夫だって。ルシャージャ・・・あの姉ちゃんに任せとけば平気だからな?」

 きょとんとしているキルシャに笑い掛け言う。

 少し首を傾げた後、こくりと頷いたキルシャ。


 膝をつき、改めて莉里の手を取る彼女。

 ルイスからも火傷部分が見えた。普通の火傷とは違う・・・まるで焼印の様なそれに、一瞬目を奪われる。

「じっとしていてね。動いたら・・・」

「う、動いたら?」

 緊張した面持ちの莉里。

「神経が可笑しくなるかもね」

 首に回ったキルシャの腕に力が入った。

「へ・・・じっとしてます」

「そうして」

 よく言う。実際、失敗してそうなる人は居るが――ルシャージャがちょっと動かれたくらいで失敗する訳が無い。

 事実、ルイスが治療中に動いた時も完璧に直して見せたのだから。その後滅茶苦茶に怒られたが。

 莉里の腕を黒い手袋が滑る。

 火傷部分を黒が覆い隠した。

「自分の呼吸に集中していて。呼吸はゆっくり」

「は、はい・・・」

 戸惑い交じりに従う莉里。

「そのまま続けて」

 視線は動かさない。

 じっと、手袋越しに火傷部分を見つめている様な。

 青に閉じ込められた少しの紫、不思議な瞳が光って見えた。


 どれ程そうしていただろう。

 ルイスもキルシャも、ただ二人を見つめていて――二人も黙ったままで。

 ふと、ルシャージャが息を吐いた。

「終わったよ。失敗はしていないから怯えなくていい」

 莉里から手を離し、ルシャージャは立ち上がる。

「なにか違和感がある?」

 黙っている莉里に、怪訝そうに問うルシャージャ。

 口が微かに開いていて、なんというか・・・呆けている顔だった。

「あ、いえ・・・。何も。あの、何をしたんですか?」

 はっとした様子で答えた莉里だが、何が起きたのか分かっていないようだ。

 治療を受けたのが初めてなのか。まあ、なかなか受けられる物でも無いのだが。高額だし。

 いやでも、今の反応は――

(魔法を見た事が無い?)

 そう。まるで、初めて魔法を見たような。

 なんて、あり得ないか。ルシャージャでなくとも馬鹿馬鹿しいと一蹴するだろう。

「治療。魔法を使ったね」

「魔法・・・」

 確かめるように呟く莉里。

 ルシャージャだって莉里の反応に気付いているだろうに、気にした様子を見せない。

「すごいねぇ。おねえさん」

 楽しそうに言うキルシャを降ろすと、莉里に駆け寄って行った。

「もう痛くなぁい?リサト君」

「うん。ルシャージャさんが治してくれたからね。ありがとうございます」

 ルシャージャさん、と柔らかく微笑む莉里。

 力を抜いた笑みに、此方の口角も上がっていく。

 矢張り痛かったんだろう。


「ルイス」

 壁にもたれ、にこにこと笑い合っている二人を眺めていると、隣にルシャージャが並んだ。

「どうした」

 声を落として答える。

「さっきの火傷の形、見えた?」

「ああ・・・あれさ、もしかして」

 ――奴隷商の焼印じゃないのか。

 あの不自然な形、自然にできる物ではないだろう。

「いや、確証も何も無いんだがな」

「正しいと思うよ。模様の様な火傷が偶然出来る可能性が無いとは言わないけど・・・あると思う?このタイミングで」

「無い、だろうな」

 莉里の痕は、綺麗に消えたのだろうか。

「幸い、体に馴染む前だったからね。上手く消えたさ」

「そうか」

 よかった。

「で、何を見つけた?」

 ルシャージャの瞳が、ルイスを射抜く。

「ああ、これ――」

 ポケットからそれ――木で作られたナンバープレートを取り出した。

「なあ、ルシャージャ」

「出荷される子供達に持たせる物だろうね」

 ルイスが言い渋った事を、ルシャージャはあっさり言った。

 考えないよう、避けていた事実。

 此処が――此処が奴隷商のアジトであると、もう疑ってはいなかったけれど・・・あの男は?

 この場所を知っていた、怪しさしかないあの男は。何者なんだ。

 一体、何が目的で――

「あとさ」

「んだよ」

「眼鏡、外さないの」

「あー、忘れてたわ」

 邪魔だなこれ。

 外してどこに仕舞おうか悩む。

 シャツにポケットは付いていないし、ズボンはレンズが割れる可能性がある。

「貸して」

 迷っているルイスの手から眼鏡を取り上げたルシャージャは、近くにあった棚の上に眼鏡を置いた。

「あ、おい」

「置いておけばいいでしょ。どうせ、後でまた来る事になるんだから」

 その時に回収しなよ、と言うルシャージャは普通過ぎるくらい普通で。

「お前さ、ないの?」

「何が」

 怪訝そうな顔。

「緊張とか、怒りとか・・・そういうの」

「緊張は無いね」

「言ってて俺も思った。怒りは?」

「・・・さあ。どうだろうね」

 答える気は無いらしい。

 ルイスが溜息を吐いていると、ルシャージャが懐中時計を取り出した。

「そろそろ、か」

 覗き込むと、針が――時間を指した。

次話は続けて投稿。

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