26. 決意を
どうしたんだろう。
莉里は眉を顰めた。
なんだか騒がしい。足音も、微かにだけど止む事無く聞こえてくる。
視線の先には、見張りとして少し離れたところに立っている中年の男。
少し前に男の許に駆けてきた別の男。見張りとして居た男よりも、まだ若い・・・かな。
二人はずっと話し込んでいる。
(襲撃とか、そういう感じ?)
冗談半分に思いついた事に、苦笑する。
異世界、なんて中二病的な発想に引張られているな。
「リサト君・・・」
遠慮がちに袖を引かれた。
「どうしたの、キルシャ?」
「あの人たち、どうしたのかなぁ?」
不安そうな、不思議そうな、何とも言えない顔で問いかけてくる。
「なにかあったのぉ?」
「ごめんね、よく分かってないんだ」
眉を下げてそう言うと、キルシャは慌てた様に言葉を続けた。
「そ、そういうことじゃなくてぇ。リサト君もおんなじ状況なのは、わかってるもん」
そんなキルシャの様子に、小さく笑いが漏れた。
「うん、分かってるよ。ちょっと意地悪だったね、ごめん」
小さい頭を優しく撫でる。
綺麗な黒髪は少し冷たくて、気持ちいい。
「んふふ、ありがとぉ。リサト君」
目を細めて笑った。
「こっちこそ、ありがとうキルシャ」
「ん-、どういたしましてぇ?かなぁ?」
こてんと首を傾げる。
今思う事では無いのかもしれないけれど、大変可愛らしい。
「ねぇ、リサト君・・・」
「っ、待って」
口を開きかけたキルシャに向けて、静かにとジェスチャーする。
両手で口を押えたのを確認して、莉里は耳を澄ませた。
矢張り、そうだ。
階段を通る足音がする。一瞬、勘違いかと思ったけれど間違ってはいなかったらしい。
多分、此方へ向かっているのだと思う。
目的はキルシャか、莉里か。
姿が見えた。
渋い焦げ茶色の髪。莉里を此処まで連れてきた男だ。
キルシャの肩が撥ねた。莉里の方に抱き寄せる。
華奢な肩。小柄な体躯。
莉里は口を引き結んだ。
鉄格子の前で、男は足を止める。
沈黙が場を支配した。
破ったのは莉里だった。
「・・・何か?」
腕に力を込もる。
愛想は凄く悪いだろう。けれど、今それを気にしている余裕が莉里には無かった。
「あー、わりぃんだけどさ、またついて来て欲しいんだ」
体が強張った。直ぐに気を取り直す。キルシャに気付かれないようにしなくては。
キルシャの手が、莉里の腕を掴む。
視線を下げると顔は青く、体が震えていた。
そんなキルシャの反応に目を見開く。
そうだ。キルシャは、子供なんだ。莉里よりも、ずっと。年下の、守るべき相手。
呼吸を整え、煩いくらいに高鳴った心臓を押さえつけた。
大丈夫。
分かりましたと答え、キルシャから体を離す。
「行こう、キルシャ」
片手をキルシャに差し出し、微笑みかける。
「ん、ありがとぉ・・・リサト君」するりと手を繋がれ、胸元に小さな頭が押し付けられた。
莉里よりも小さい、子供の手。自分の手より暖かいそれに、ほっと息を吐いた。
「リサ、ト・・・くん」
小さな手は微かに震えていて、力も全然入っていない。
怖い、だろうな。
キルシャよりも遥かに図太い、莉里だって・・・恐怖で縮み上がりそうなのだから。キルシャが居なかったら、莉里は――。
きっと、壊れていたから。
「んじゃ、行くか」
牢が開けられ、手を引いて出た。
「はい」
莉里の手を握る手に、少しだけ力が入った。
小さく握り返して、男の後を歩き出す。
キルシャも、ゆっくりではあるが後ろをついて来る。
莉里は、自分が大切。自分本位なのは、我儘なのは分かってる。
だから――キルシャを守ってみせる。
気を許せた子が傷付けられるのは嫌だから。
自分の為に、守るんだ。
次話は続けて投稿。
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