24. 相棒
「此処だね」
視線を前に向けたルシャージャが言う。
その手には一枚のメモが。
『アジトの場所、知らないんでしょぉ?』
『だからぁ・・・こぉれ。あ、げ、る』
『奴隷商の奴等が居る所のメモだよぉ』
『嘘かどうかはぁ、行けば分かるか~ら』
『あはっ。ねぇ、ヘイシさん。信じないなら別にいいけどぉ・・・助けられなくても知らないよぉ?』
男に言われた言葉を思い出して、腹が立った。
結局、あの男は何者なのだろうか。関係者ではないが、無関係では無い。
そのメモに書かれているのが嘘ではないという確証をルイスは持っていない。ルシャージャは男が‘‘嘘は吐いていない‘‘と言っていた。ルイスも、嘘を付いていると感じなかった。
だとしたら、どういう事なのだろうか。
・・・なんて、今ルイスが考えても分からない事だ。
「本物、なのかそれ」
言葉に少し棘が混じる。
「みたいだね」
目の前に建つのはごく普通の建物。
先程の偽アジトはこの通りの奥。幾ら何でも近すぎやしないだろうか。
確か此処は、使われている筈だ。とは言っても、この街は商会が多くある為どの商会かは分からないが。
情報収集の時に前を通ったのだが、まったく気付かなかった。本当に此処なのだろうか。甚だ疑問だ。
それなのに、ルシャージャは疑っている様子を見せない。
本心では鼻で笑っているのだろうか。否、それならルイスには教える筈だ。
「分かんのか」
何で。・・・ああ、
(魔力探知か)
ルシャージャは黙って建物を見据えている。
沈黙が走る。やがて、ルシャージャは口を開いた。
「ルイス」
ルシャージャに視線を向ける。
「君は、どう思う」
どう、思う・・・か。
信じられない。それが、ルイスの考え。否、信じたくない、だな。あの男をルイスが受け入れられないから。だから拒否しようとする。
でも、ルシャージャが聞きたいのはそれじゃない。
勘。
ルイスは五感型だ。ルイスの勘は大抵当たる。だからこそ、確認を取ったのだ。
信じてはいないだろうが、参考程度にはなるのだろう。
「俺は、」
ルシャージャが黙って続きを促した。
「正しい、と思ってる・・・」
視線を落とした。
認めたくはないが、己の勘はそう告げている。ルイスが疑い続けていても、結果が変わる事は無い。
ルシャージャが聞きたいのはルイスの勘だ。それを誤魔化すわけにもいかないし、誤魔化したところで見抜かれる。どちらにしても結果は変わらない。
「そう」
淡白な返事だった。
「なら」
顔を上げる。
「乗り込もうか」
心配なんて微塵も無いという態度で、真直ぐにルイスを見つめていた。
口を開けて固まる。
「間抜け面」細い指が額を弾いた。
「ったいなおい」
力が弱い為に全く痛くない。
「君が間抜け面を曝していたからつい、ね」
ふふ、と笑う。
本当に此奴は。呆れ笑いが滲む。
「・・・で、どうすんだ」
――探偵様の策はどういうもんなのかね。
挑発するように笑うと、同じように笑い返される―――筈だった。
ルイスの言葉に、ルシャージャは黙って目を伏せる。
「ルシャージャ?」
どうしたんだ。
「・・・否、何でも無い。それで、策だったな」かぶりを振って言う。
はあ、と溜息が零れた。
「何を言いかけた?」
自然と目が鋭くなる。
今追究しなかったらルシャージャが話す事はないだろう。
「なんで、こういう事にばかり気付くのかな・・・」
頭を押さえて溜息を吐く。
「勘が良いの知ってんだろ」
「そうだけど・・・」
困ったように眉を下げる。
態とらしく困っているとアピールするのは諦めさせたいからだろう。
それを解っているルイスは、黙ってルシャージャを見ている。
彼女は依然困った表情のまま。けれど話そうとはせず、口籠ったままだ。
「お前さ、なに迷ってんだよ。」
もう一度、盛大に溜息を吐いた。
「君には分からない。これは、君にも被害が・・・」
半ば八つ当たりの様に言う。
「だから?」
「・・・・・・は・・・?」
ぽかんと驚いた顔をする。
珍しいなと笑いそうになった。
「そりゃあさ」
頭を掻く。
「俺は、お前ほど賢くねぇけど・・・。でも、力では勝てる。魔法なんて、殆ど使えない。けど、それでも勝てるだけの力は持ってるつもりだぜ?だから、守ろう、なんて思う必要なんてねぇんだよ。お前らしくねぇ」
本当にらしくない。
「気にせず、好きなようにやりゃあいいだろ」
ルシャージャは顔を伏せていて、表情が分からない。
「あははっ」
堪えきれない、という様に笑い出す。
「おい、何笑ってんだよ。俺結構真面目に言ったんだけど」
予想外の反応に、目を剥いた。
「なんか・・・悩むのが馬鹿らしくなってきた」
はー、はー、と一通り話洗い終わった後で、目に滲んだ涙を拭う。
ルシャージャが泣くほど笑うなんて貴重なシーンではあるのだが、馬鹿にしている様に見えた。
「そうだね。ルイスは、殺しても死なないんだった」
「いや死ぬからな?」
本当に失礼な奴だなお前。
「でも、そこまで言うのなら、それ程自信があるんだよね?」
「は、・・・んだよ、いきなり」
「予定していた策を少し変える。君に追加でやって欲しい事があるからさ。元々、君の負担が多いからやるつもりは無かったんだけど、限界ギリギリまで使わせてもらう・・・出来るよね?」
出来ないとは言わせない。そう、表情に書いてある癖に。
「っは、上等。やってやるよ」
また挑発するように笑うと、今度は同じように笑い返された。
そう。ルイスだけでは太刀打ちできるわけもない。所謂、腕っぷしはあると、ルイスは自負している。だが、闇雲にやっていても意味が無い。
力はある、けれど頭が足りない。
それは、ルイスが幾度となく下された評価。
たとえ騙されていたとして、ルイスは気付けるだろうか。否、不可能だ。
目の前の女は酷く賢い。きっと、ルイスに悟られることもしないだろう。それこそ不可能だと、思うかもしれない。けれどそれが可能であると、これまでに何度も実感していた。
―――信じているのだ。
この、己とはどこまでも対照的な友人を。
次話は続けて投稿。
よければ評価、感想お願いします。




