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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件 ~  作者: 海苔
本編

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24/41

23. 黒猫

 

「此処に入れ」

 鍵の開いた牢に入る。鍵の閉まる音がした。


 男に連れられた先に居たのは一人の少年。莉里よりも小さい・・・年下だろうか。

「じゃあ、後でまた来るから」

 申し訳なさそうに言う男。渋い焦げ茶の髪が揺れた。

「はい・・・分かりました」

 戸惑い交じりだが、従順に頷く。

 そこは『また後で来るから』ではないのだろうか。何となく、男が思いついたままに喋っている気がした。

 なんて、どうでもいいか。だから何、って話だし。

「ごめんな」

 申し訳なさそうな顔のまま謝ると、男は莉里達が通った道を引き返して行った。


 あの態度、ここに何かあるのだろうか。あそこまで申し訳なさそうなのは流石に異常、だと思う。

 男の反応からして・・・良い事ではなさそうだ。警戒しておいた方が良いな。


 牢の中を見回す。

 大体はさっきまで居た牢と同じ。違うのは窓の様な物があるところだろうか。大きめの窓は、少し開いている。嵌め殺しのではないらしい。

 あと、移動する前に莉里が居た牢は地下にあったみたいだ。まあ、だから何だって話なんだけれど・・・。

 どちらにしても、ここから逃げ出す事は出来ないだろう。開いている隙間から出入りできるのは動物――小柄な犬とか、猫くらい。よく見ると、外側からつっかえ棒の様な木が置かれていた。

(これ以上は開かない、か・・・)

 そこまで落胆はしないかな。出られたところで捕まるだろうし。


「ね、ねぇ・・・」

 躊躇いがちに声を掛けられた。

 振り返ると、先程から牢の端で座り込んでいた少年が莉里を見ていた。

「き、こえてる・・・よねぇ?」

 不安そうに言う。

「あ、ごめん・・・。えっと、なにかな?」

 少年に問いかけると、困ったように眉を下げた。

「あいさつ、したかったんだけど・・・大丈夫かなぁ?」

「う、うん。勿論だよ」

 慌てて了承すると、安心した様に笑った。

「よかったぁ」

 安心した様に微笑む少年。

 その姿は庇護欲をそそった。


「えっとねぇ・・・」

 言葉を考えているのだろうか、人差し指を頬に当てて首を傾げる。

「キルシャの名前、キルシャだよぉ」

 ゆったりと間延びした声で言う。

「キルシャ、君?」

「ん~ん、キルシャ」

 ふるふると首を振る。

「キルシャ・・・?」

「うん!えへへ」

 可愛らしく笑う少年――キルシャ。

「僕の名前は莉里」

「リサト君?」

 不思議そうに繰り返す。

「うん。莉里君」

 気に入ったのかどうなのか。リサト君、リサト君と機嫌よく繰り返す。

 微笑ましくて、莉里も笑う。


 少年はキルシャというらしい。

 可愛い、と思うけど・・・外人みたい。少なくとも、日本人に付ける名前ではないと思う。

 少しの光が差し込んで、少年の顔が照らされる。そこで初めて、莉里は彼の顔をはっきりと見た。

「え・・・」

 彼は、莉里の様なクォーターとは違う。そう直感した。


 綺麗な濡れ羽色の髪は背中の下の方、腰よりも少し上のところまであった。長い髪の毛は癖なんて感じさせず、真直ぐに伸びている。

 暗いのに明るい、なんて不思議な印象を莉里に与えた。

 触れば少しひんやりしていてさらさらで、きっと気持ちいいだろう。

 綺麗な髪、その結び方が目に付いた。耳よりももっと下、低い位置で二つに分けて縛ってる――所謂、ツインテールだった。

 声は少し高い、声変わり前の少年のもの。服だって、ズボン。女の子なら、きっとワンピースだろう。最初の莉里みたいに。

 莉里とお揃いな事には少し驚いたけど、男の言っていた‘‘みんな‘‘に莉里もこの少年も入っているのだと分かる。

 何よりも目を引いたのは瞳だった。

 深い青に金色の瞳――オッドアイ。聞いた事はあるけれど、実際に見るのは初めてだ。

 それに、光が当たって縦長の瞳孔。丸くないそれに物珍しさがあるけれど、特に違和感はなくて彼にあっているように感じた。


「きれい・・・」

 口から零れた言葉に、彼はきょとんとした後小さく笑う。

「んふ、ありがとぉ」

 本当に嬉しそうに言うから、つい見とれちゃって。

「きみも可愛いと思うよぉ」

 びしり、効果音が付きそうな感じで身体が固まった。

「どうしたのぉ?」

 不思議そうに首を傾げる。

 堪えろ。きっと悪気は無いんだろうし・・・大丈夫、子供に当たっちゃ格好悪い。



 リン、とどこかから鈴の音が聞こえた。

「どうしたのぉ?リサト君」

 周囲を見回す莉里に、首を傾げて問い掛けるキルシャ。

「あーいや、ちょっと・・・鈴が鳴る音がした気がして」

「すず?」

 ぱちりと大きく目を瞬かせる。

「うん」

 気のせい、とかでは無いと思うんだけど・・・。

「どこからぁ?」

「あ、多分あの辺りから」

 窓を指さす。

「窓のほう?」

 不思議そうに窓を見やる。

 そして――あ、と声を漏らした。

 どうしたんだろうか。

 視線を追うと光った青と金、二色の宝石が目に入った。


 あれは—―

「猫・・・?」

 月明りに照らされて立っていたのは、綺麗な黒猫だった。

「クロだぁ」

 嬉しそうに笑うキルシャ。

「クロ?知ってる子なの?」

 黒猫は、人見知りした様子もなく莉里達の許へ歩いてくる。

「うん、可愛いよねぇ」

 キルシャの小さい手が、黒猫の頭を優しく撫でる。

 確かに、懐いてるみたい。

 長めの毛並みが月明りに照らされて輝いた。それに、オッドアイらしい。

 本当綺麗。

「あ・・・、ねえキルシャ」

「ん、どうかしたぁ?」

 ふんわり間延びした声が心地いい。キルシャ、話し方ものんびり間延びしてて独特の空気があるけど、性格ものんびり・・・というか、ふわふわしてる。ちょっとマイペースなのかな。

(どこまでも猫っぽい・・・)

「この子の目、キルシャみたい」

「ふぇ・・・?」

 きょとんと色の違う大きな瞳を瞬かせる。

「青色に金色。ね、キルシャと同じ。それに黒猫だし、色もキルシャの髪色と一緒でしょ?」

 ――キルシャとお揃いなんだね。

 未だ驚いた顔の彼に笑い掛けると、くすくすと笑い声がした。

 声の主はキルシャ。

「んふふ、そうだねぇ。おそろいだぁ」

 機嫌が良くなったのか、笑いながらクロを撫でる。

「あ、でもでもぉ」

「どうかした?」

「リサト君も一緒だぁ」

「え?」

「リサト君の髪も、黒でしょぉ?」

 ――ねぇ?お揃い、でしょぉ?

 にこにこと嬉しそうに笑う。

「ふふ、そうだね」釣られて莉里も微笑んだ。


「ねえ」

 キルシャの顔が此方を向く。

「ずっと、一人なの?」

 キルシャは、莉里の言葉に驚いた様に大きな瞳を目を丸くした。

「あ・・・っご、ごめん。答えなくていいよ。本当、ごめんね。変な事聞いた」

 顔の前で両手を振り、話さなくていいとアピールする。

 無神経だった。というか、迂闊だった。そう言うべきだろうか。

 ただの誘拐・・・ではないだろうし。それに、違和感だって色々ある。莉里の移動に使われた物だってそうだ。


 ‘‘立派な幌馬車ですねぇ‘‘


 確認?に来た男が言っていた言葉。馬車なんて、日本で普通に暮らしていたらそうそうお目にかかる事はないだろう。海外でも見る機会だしもそこまで無いと思う。そりゃあ、昔は使われていただろうけどさ。それでも、今は車の方が一般的だし。


 それに、最初に目が覚めた時だって可笑しかった。気が付いたら草原で寝てて、周りには何も無かった。

 幾ら田舎でも、田圃くらいあるだろうし、道だって歩ける程度には舗装する筈。

 あれだけ広いのに何も無いなんて可笑しい、と思う。莉里が知らないだけでそういうものなのかもしれない。


 けれど、違和感があった。

 ここは、日本じゃないのかもって。日本人なら田圃作ったり畑にしたり、その他色々作って土地の有効活用しそうなのに。取り敢えず食に関連してそう。我ながら日本人への評価どうなってんだ。中々失礼だな。

 この違和感に根拠なんて無い。子供の妄想、唯の言い掛かり。そう言われればそれまで。事実、莉里だってそう思っている。

 勘違いだと思ってる、でも何処かで本当に可笑しいんじゃないかって考えていた。


 まあ、あり得ない事なのだけど。

 幌馬車と、日本らしくない場所。外国かもしれないけど、違う気がする。


 それともう一つ。時折鼻をつく変な臭い。

 薬品か?なんて一瞬思ったけど、馬鹿馬鹿しい。きっと、趣味の悪い香水とかだろう。瓶を割っちゃったとかね。


 色々考えて浮かぶのは異世界だけど、馬鹿らしい。中二病じゃあるまいし。

 え、違うよね。一応高校生だし、無いと思うんだけど・・・気付いてないだけ?

 凄く大掛かりなドッキリとか、きっとそういうの。


「ぇ、ねえ、ねえってばぁ!」

 肩を揺すられた。

「・・・あ、れ?」

 視界が広がる。世界が、急に明るくなった気がした。そんな事は無いんだろうけど。

「だ、だいじょうぶ?」

 心配そうに顔を覗き込んで来たのはキルシャだった。

「ごめんなさい。い、いきなり話さなくなっちゃって・・・こわ、くてぇ」

 瞳を潤ませ、泣きそうな顔で言う。

「ご、ごめん・・・。ちょっと、考え事?してて。無視しちゃってごめんね」

 初対面で無視って・・・しかも年下の子供を。

「ん-ん、だいじょうぶ。・・・えっとねぇ」

 なんだろう。首を傾げる。


「クロはいっしょだったけど、そういうことじゃあないんだよねぇ?」

「まあ、そうだね」

「お姉ちゃんがいたんだけど・・・」

 困ったように口ごもる。

「けど?」

 何だろう。

「・・・・・・んーん、なんでもないよぉ」

 ふるふると首を振る。

「そっか」

 納得はいっていないけど、話したくないなら無理に聞かない方が良いかな。

「っていうか、お姉さんいたんだね」

「あのね、血は繋がってないんだぁ」

「そうなの?」

「えーっとねぇ・・・いちばんお姉さんだったから、キルシャたちのお姉ちゃんになってくれてたの。優しいんだよぉ」

 キルシャ‘‘たち‘‘か。矢張り、ここに居る子供のはキルシャと莉里、‘‘お姉ちゃん‘‘だけじゃないらしい。

 不用意に聞くのは危険かもしれない。注意しよう。


 窓から差し込む光が大きくなった。それに合わせて、彼の瞳孔が細くなる。

 なんというか、猫みたい。

 手を伸ばし、キルシャの頭をそっと撫でた。

「わぁっ、どうしたのぉ?」

 きょとんと眼を瞬かせ、くすくすと笑い出す。

「ん-、なんとなく。撫でたくなっただけ」

 可愛らしい反応に、笑い掛ける。

「そっかぁ」

 えへへと笑う。

「ね、もっとなでてぇ?」

 すりすりと手に頭を擦り付けてくる。

「はいはい」

 満足するまで開放して貰え無さそうだ。

 せっかくだから、ひんやりとした髪の感触を堪能する事にしよう。

 そんな場合ではないんだろうけど。


 それでも今は、束の間の安らぎに身を任せたい。


 やっと、息が出来た気がした。

次話は19日20時に投稿。

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