20. 回収
「さっきの小瓶――春飴歌の容器だよ」
「春飴歌・・・って、それっ」
ルシャージャが見せた書類にあった――。
「違法、睡眠薬・・・」
「そう。間違いの可能性は無いだろうね」
淡々とした口調で言う。
「あの小瓶が春飴歌の匂いを再現した悪趣味な物でない限りは」
「んな可能性があってたまるか」
「私もそう思う」
なら言うなよ。
確定だって言いたいならそう言えばいいだろ。
「あ、ちょっと待て」
「まだ何か?」
面倒臭そうに言う。
まだってなんだよ・・・そこまでお前に噛み付いては無いだろう。
「此処、アジトじゃないってさっき言ってただろ」
念の為、確認を取る。
「言ったけれど、それが?」
「アジトじゃないのに、春飴歌があって・・・どういう事だ?」
向こうは春飴歌を使っている。それはルシャージャが証明した。
「たまたま・・・春飴歌が残っていて、ここにあった?」
どうにか捻り出した可能性を確かめるように言ってみるが、どうもしっくりこない。
「馬鹿なの?」
すぐに言われる。
「おいこら」
「そんな馬鹿げた可能性を出さなくてもいいよ。大体分かってるし」
「そうなのか?」
顔が上がる。
「さっきも言ったけど、向こうは何らかの方法で私達が‘‘居場所を特定して追って来る‘‘って予想していたんだろうね」
口元に手を当てて言う。
「ああ・・・。そんな事も、言っていた・・・か?」
あった様な気もするし、無かったような気もする。多分言ったんだろう。
「記憶力悪」
視線に呆れが混じる。
「お前さ、ほんと」
容赦ねえな。まあ、否定も出来ないが。
「疑問解消?」
小さい頭を傾げる。さらりと長い白髪が揺れた。
「まだ」
ええ、とその美貌が歪んで嫌そうな顔になる。
「このアジトはダミー、でいいんだよな」
「そうだね」
ルシャージャは頷く。
「何で春飴歌が此処にあったんだ?」
「用意していたのかもしれないし、攫った奴等が此処に来た時に落としたのかも。今は使っていないけれど以前は此処を拠点として使っていた、とかかもね。それか――」
――態と置いたか。
「態と?」
「ここが拠点――アジトだっていう説得力を与える為に、とか」
「あー・・・そういう可能性もあるのか」
ルイスは思いつかなかった。考える気があまり無かった、とも言えるが。
「まあ」
普通だよと髪を耳に掛けた。
「戻ろうか」
きょろきょろと部屋を見回していたルシャージャが言う。
「もういいのか?」
「小瓶が見つかったなら十分」
「証拠として回収しておくか?」
割れてしまっていて全部は無理だが、大きい破片なら集められる。
「最初は瓶ごと回収して中身を調べてもらうつもりだったんだけど・・・誰かさんの所為で、割れちゃったからなあ」
ルイスを睨みつける。
ルイスは余計な事をしたのだろう。
確かに、不用心に触れたルイスも悪かったが、それにしたって慌てていた。いや、春飴歌だと知って――は、いなくとも、予想は付けていたんだろうし仕方が無いか。
だが、ルイスの体は丈夫だし薬品系も効き難いのはルシャージャも知っている筈だ。
それに、効果も――
‘‘睡眠のサポートではなく、半強制的に眠りへ落とす物。子供など、体が小さい者や年齢が低い者は抵抗力が低い。体格のいい大人、年齢の高い者への効果は薄い。‘‘
ルイスは大人であるし、体も小さくない。体格・・・は、凄くいいとは言えないがしっかりとしている方だ。
ルシャージャも焦っていたのだろうか。
「で、結局どうすんだ?」
「ルイス、これ使って」
スカートのポケットから何かを取り出し、ルイスに差し出して来る。
「ハンカチ・・・ああ、了解」
彼女好みのシンプルな物、それを手に広げ破片を拾う。一応、直接触らないように。
また何か言われるだろうから。
「全部は要らないから。大きめの物を幾つかお願い」
「はいよ」
立ち上がり、ルシャージャにハンカチを渡す。軽く体を伸ばしていると、ルシャージャは破片を包むようにハンカチを結んだ。
破片が落ちないように、それと刺さらないように、か。
「行くよ」
ハンカチをポケットに仕舞った彼女は、梯子を上っていく。
ルイスは最後にもう一度地下室を見回してから、上に戻って行った。
部屋にはまだ、あの独特の臭いが充満していた。
次話は12日20時に投稿。
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