16. 走れ
カツン、と足音が反響する。
中に入ってからルシャージャは口元を手で隠し、何かを考えている様。周りがあまり見えていないらしく、偶に転びかけては慌ててルイスに支えられる。
それをルイスは、忙しなく目を動かして周囲を警戒し続けながら行っているのだから、気を遣う事が多いだろう。
沈黙が場を支配する。
二人の間に会話は無い。
転びかけた回数がそろそろ二桁に突入しようとして、ルイスがルシャージャの手を掴んで進もうかと考えだした頃。
ルイスがルシャージャの手を強く引いた。肩を抱き込むようにして引き寄せ、抱いたまま後ろに下がる。
華奢な肩だ。
「きゃあっ」ルシャージャが驚きの声を上げる。
容姿にはぴったりだが、性格に似合わない可愛らしい悲鳴だった。
「ちょ、いきなり何?」不思議な色の瞳が困惑で揺れる。ルシャージャがルイスを見上げた。
間近で目が合う。ルシャージャに怪我は無い。
そういえば彼女は、女性にしては背が高いんだったか。
近い事に驚いたが、すぐに納得する。
「あそこ」顎で示すと、ルシャージャが視線で追う。
さっきまで彼女が立っていたところ。そこには、ナイフが突き刺さっていた。
古いから、刺さりやすくなっていたのだろうか。
なんて、ナイフの出所を探りながらルイスが考えていると、ルシャージャの目が驚きで見開かれた。とは言っても微かな違いで、ルイス以外が気付く事はないだろう。
「っ、あれ」
どういう事、とルシャージャの目がルイスに向く。
気付いていなかったのか。反応的に、戻って来たらしい。
(どこだ・・・どこに居る?)
「ルシャージャ、離れんなよ」ルシャージャの肩を抱いていた腕を腹にずらし、抱き寄せる。途中で離れたりしないように、しっかりと力を込めて。
この場では、ルシャージャを守る事が最優先だ。焦って突っ走ってルシャージャに怪我を負わせてしまう、なんて事にならないように。
「離れたくても離れられないでしょ」不満そうに薄い腹に回ったルイスの腕を軽く叩く。
こういう時でも、通常運転か。
そんな彼女の反応に、ルイスの心が落ち着いて行った。
「そうだな。じゃあ、・・・」
探せ。焦らずに、集中しろ。
「じゃあ・・・?」
あ、
「しっかり、掴まっとけよ」思ったより、低い声が出た。
腰辺りに手を下げて、抱え直す。ルシャージャの足が浮いた。
見つけた。
ゆるりと、ルイスの口角が上がっていくのが分かった。
「は」
なにそれ、という言葉は風に掻き消される。
その前に、ルイスが走り出したから。
次話は28日20時に投稿。
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次話から火曜日と金曜日の週二階更新に変わります。




